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我らこそが侵略者なり

【本章のあらすじ】

いよいよ決着の時。戦いの始まりから、皇帝はずっと「ある計画」を見据えて行動していた。果たして、彼の真の狙いとは何なのか?

ギギィィィィィッ……!!


皇帝は両腕の中で『ヘラクレイトス』の巨体を締め上げ、その鋼の骨格をまるで粘土のように捻り潰していく。

赤錆びた屑鉄の身体に、圧倒的で理不尽な圧力が掛けられ続ける。


メキメキッ、バキィッ!


恒星の超高温にすら耐えうるはずのヘラクレイトスの外部装甲が、暴虐なる力の前に次々とひび割れ、崩壊していく。


「ガァァァァッ……!」


嘆きの哲学者は苦悶の声を漏らした。

胸部の亀裂から無理やりに劫火を噴出させ、皇帝の肉体を溶解させようと必死に足掻く。


だが――何の意味も成さない。


無慈悲な拘束と圧壊が、ただただ延々と続く。


遥か後方の『無限の距離』に立ち尽くしていた『ゼノン』は、その場から一歩も動けずにいた。

彼の分析レンズが、その凄惨な光景を恐怖と共に記録する。


ゼノンの論理システムは完全に崩壊していた。


(……理解不能だ。なぜ、同胞がこれほどまでに無様に粉砕されているのだ……?)


皇帝は奴らを弄び、盲目の操り人形のように誘導し、自らが望む完璧な『配置』へと誘い込んだのだ。


「本当に……救いようのないゴミどもだな」


皇帝は、腹の底から響くような重く悪魔的な高笑いを上げた。


フハハハハハハッ!!


「『服従のアクシオム』」


サディスティックな笑みを浮かべ、皇帝はヘラクレイトスの耳元で囁く。


「――『ひれ伏せ』。貴様は今後数時間、いかなる能力も起動することは許されん」


ドックン……ドックン……!


ヘラクレイトス内部の動力炉リアクターが、狂乱したように暴走を始める。

それは全出力で抵抗を試みたが、『服従のアクシオム』の絶対的なことわりの前に、無力に屈した。


シュゥゥゥ……。


意思に反して胸の動力炉が完全に沈黙し、ヘラクレイトスはただの冷たく無力な鋼鉄の抜け殻へと成り果てた。


皇帝は、その徹底的にへし折られた誇りを味わうようにしばらく締め上げ続け――ゼノンが何もできずに見ている前で、彼をゴミのように手放した。


ドサァッ!!


皇帝に投げ捨てられたヘラクレイトスの巨体が、ゼノンの上へと無慈悲に墜落する。

二体の屑鉄は砂漠の上に重なり合い、無様に崩れ落ちた。


皇帝は、漆黒の夜空へと右手を高く掲げた。


「借りが一つできたな、『イザベラ』」


ゴロゴロゴロ……ッ。


砂漠の空が急速に歪み、分厚い黒雲が渦を巻き始める。

皇帝の指先の間に、極大の紫色のエネルギー球体が顕現し、脈動しながら膨張していく。


それは、戦場を飛び回る極小の無人カメラ群を通してこの戦況を見つめている、何十億というオリオンの民と兵士たちの『集合的信仰 (ドグマ)』。


『オリオンの白海』の中心に立つイザベラが、彼らの熱狂と絶対的な忠誠を、直接皇帝の右手へと転送していたのだ。


バチバチバチッ!!


紫色の『ドグマ』のエネルギーは、瞬く間に天を焦がすほどの途方もない質量へと膨れ上がった。


大陸一つを容易く地図から消し去り、二人の哲学者を一瞬で原子の塵へと変換する絶望的な破壊の力。


恐怖。

恐怖だ。


感情を軽蔑し、恐怖など知らぬはずの機械どもが、初めて『死の足音』に圧倒され、震えていた。


皇帝は奴らの空虚なプライドを根こそぎ粉砕し、己の絶対的な純粋なる力を証明してみせたのだ。

もはや後戻りのできない、確実なる死の淵。


だが――。


スッ……。


突如として、皇帝はその右手を固く握り込んだ。


シュゥゥゥン。


紫色の破壊の光が、瞬きする間に掻き消える。

まるで小さな蝋燭の火を吹き消すかのように、皇帝は冷酷に『ドグマ』のエネルギーを霧散させたのだ。


眼下の屑鉄どもを虫ケラのように見下ろし、その唇から絶対的な見下しの言葉を紡ぐ。


「今この場で貴様らを消し飛ばすことなど造作もない……。だが、貴様らのその薄っぺらい傲慢さをへし折る方が、遥かに愉快だからな」


皇帝はゆっくりと高度を下げ、低空を浮遊した。

だがその位置は、ゼノンがいかなる反撃を試みても絶対に届かない、極めて計算し尽くされた死角であった。


「それに、貴様らのような下っ端よりも……奴らの本拠地に乗り込み、評議会のメンバーすべての首をまとめて刎ねる方が効率的だ。貴様らは、俺の想像以上に脆弱すぎた」


その時だった。


ピィィィィン……ッ!!


空気を切り裂くような、甲高い電子のノイズ。

極めて高周波の信号がゼノンの受信機に到達し、皇帝もまたその振動を明確に捉えた。


ゼノンが、ザイロス星からの暗号化された通信を開く。

そこから漏れ出したのは――途切れ途切れで、恐怖に激しく震えるザイロス兵の音声だった。


『――モ、ゼノン哲学者閣下……! 我らが先陣部隊が……完全に壊滅いたしました……ッ!!』


合理的な機械にふさわしくない、絶望に満ちた報告が続く。


『全戦線において……我が軍の兵士が全滅。……それだけではありません! 最悪の事態です……我々の母星のすべての地質データ、および軍事防衛座標が、敵に完全に流出しましたッ!!』


スッ……。


ゼノンの両目に宿っていた光学の光が、一瞬だけ完全に明滅した。


圧倒的な敗北感と怒りに満ちた目で、頭上で勝利の笑みを浮かべる皇帝を睨みつける。

そして、通信越しの兵士が、ザイロスの侵略部隊に対する『死刑宣告とどめ』となる最後の言葉を言い放った。


『……現在の状況から推測される、我々のこの戦争における勝利確率は……100%から、絶対的な「ゼロ (0%)」へと低下……。完全に、我々は粉砕されました……ッ!』


ビリィィィィッ!!


突如、頭上の空間が引き裂かれた。


オリオンの大気圏を突破し、二つの巨大な宇宙用カプセルが砂漠へと墜落してくる。

それは、この悪夢から彼らを救出するための緊急退避ポッドだった。


ゼノンとヘラクレイトスは、ひどく無様に、よろめきながら立ち上がった。

内部の歯車は砕け散り、威厳など見る影もない。


ガシャッ、ガシャッ……!


彼らはカプセルに向けて必死に走った。

最初にオリオンに降り立った時のあの傲慢さとは対極にある、絶望的で無秩序な敗走。


だが、宇宙カプセルのハッチが閉まる直前。ゼノンは立ち止まり、振り返った。

地に堕ちた己の威厳の欠片をかき集めるように、氷のように冷たい目で皇帝を見据える。


「……これは撤退ではないぞ、皇帝。単なる『再計算』に過ぎない。次なる戦場では、我々二名ではない……評議会のすべてが貴様を殲滅するであろう」


皇帝は、極めて純粋で、サディスティックな笑みで応じた。


パパンッ。


ゆっくりと漆黒のコートの埃を払い落とす。その両の瞳には、誇大妄想狂のような底知れぬ狂気が燃え盛っていた。


「ほう。ならばさっさとそのガラクタの山へ逃げ帰り、残る五匹の虫ケラどもに伝えておくがいい。『首を洗って待っていろ』とな」


暗いカプセルの奥へと退避する二人の哲学者。

徐々にハッチが閉まり始め、砂漠の光を遮断していく。


彼らは生き延びたと信じた。戦争はまだ自分たちの計算上で続くのだと、そう信じ込んだ。


――だが、その瞬間。

皇帝の顔から、一切の笑みが消え失せた。


ゴゴゴゴゴゴォォォォッ!!!


彼の纏う『オーラ』が、劇的に変貌を遂げたのだ。


砂漠の空気をすべて押し潰すほどの、濃密で息の詰まるような凄まじい重圧。

『皇帝の覇気』の前に、重力そのものが悲鳴を上げて泣き喚いているかのようだった。


ガタガタガタッ……!


脱出直前のカプセルの中で、機械の哲学者たちは無意識にその鋼体を震わせた。


これは、全宇宙の歴史を根底から覆す『絶対的な宣言』。

銀河のパワーバランスをひっくり返す、暴君の判決。


皇帝はゆっくりと頭を上げ、消えゆく虚空の彼方を、圧倒的な威厳をもって見据えた。

地底から響くような、深く重厚な声が放たれる。


「『太陽軌道帝国』は、これよりその版図を拡大する……」


哲学者の両目が、恐怖に極限まで見開かれた。

彼らは、この言葉が意味する真の絶望を理解した。皇帝はゆっくりと、奴らのすべての希望を断ち切るように告げた。


「今度は――我々こそが、『侵略者』となるのだッ!」


シュゥゥゥゥンッ!!


カプセルは猛烈な勢いでオリオン星から飛び去っていった。

最後に残った二匹のザイロスが星から逃げ出し、この星を巡る壮絶な防衛戦は、ついに終わりを告げた。


そして、静寂を取り戻した不毛の砂漠は、皇帝の足元でひれ伏すように沈黙している。

絶対的な支配者たる皇帝は今しがた、この長きにわたる大戦争の「最終章」の幕開けを、全宇宙に宣言したのだった。




【読者の皆様へ:今話のクエスチョン】

第十九章へようこそ! 今日の質問です。

この激しい戦いを終えて、皇帝の戦闘における「知略」や「判断力」をどう評価しますか? ぜひコメント欄で皆様の考察セオリーやご感想をシェアしてください!


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