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【完結保証】借金取りの俺と親に5万円で売られた少女〜DVされ心を完全に閉した少女は5年後うざいくらいに甘えてくる〜  作者: 田中 又雄


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娘との一日

 目を開けた瞬間、柔らかな重みが胸に感じられた。


 小さな腕が俺の首に絡まり、温かい吐息が頬をくすぐる。

ぼんやりとした視界の中で、長い黒髪が視界に揺れていた。


 その髪は見慣れた艶やかさで、ふわりと甘い香りを運んでくる。

目の前には抱き上げている女の子の1人。


「…ゆあちゃん?」


 自然と口からその名前がこぼれた。

だって、そこにいたのは紛れもなくゆあちゃんだったんだ。


 あの少し垂れた目尻と、柔らかそうな頬。

俺の知ってるゆあちゃんそのものだった。


 でも、その小さな体が少し動いて、その子をまじまじと見て少しの違和感を覚える。

小さい...?


「ゆあ?ゆあはお母さんだよ?」と、透き通った声が耳に響く。

その声は確かにゆあちゃんに似ていたけど、

どこかもっと幼くて、無邪気だった。


 俺は目を凝らした。

そこにいたのは、ゆあちゃんじゃない。

ゆあちゃんにそっくりな、でももっと小さな女の子だった。


 歳は...4、5歳くらいだろうか。

その瞳は、ゆあちゃんと同じように少し潤んでいて、 俺をじっと見つめてた。


「…りんちゃん?」


 名前が自然と口をついて出た。

そうだ、この子はりんちゃんだ。

俺とゆあちゃんの娘...。

前にもこんなことがあった。

てことはこれは未来か...。


「うん!お父さん!」


 りんちゃんがぴょんと跳ねるようにして俺に抱きついてきた。

その勢いで俺は少しよろめきながら、 慌てて小さな体を抱きしめ返した。


 体が軽いけど、それはしっかり温かくて、生きてる実感があった。


 周りを見回す。

ここは……一軒家だ。


 木の温もりが感じられるリビングで、 窓からは柔らかい朝日が差し込んでる。


 床には色とりどりのおもちゃが散らばっていて、ソファにはクッションが乱雑に積み重なってた。


 壁には、家族写真らしきものが飾られてるのが見えた。


 俺とゆあちゃんと、りんちゃんの3人。

笑顔で写ってる俺を見て、昔の自分と比べて少し胸が締め付けられた。


 自分の未来を見て、心を痛めるとはな。


「お父さん、もうお昼だよ?眠いの?」


 りんちゃんが俺の腕の中でくすくす笑いながら言った。

その声に、俺はようやく現実感を取り戻した。


「ううん、眠くないよ、りんちゃん」


 俺は頭をかきながら苦笑いした。

でも、心のどこかでまだ混乱が渦巻いてた。

また飛んだのか。


 しかし、ゆあちゃんとの生活が、こんな風に続いてる未来が嬉しかった。


 その時、キッチンの方から足音が聞こえてきた。


 軽くて、少し疲れたような足音。

顔を上げると、そこにゆあちゃんが立ってた。


「やっと起きたんだね」と、疲れた表情でそう呟いた。


 その声は、昔と変わらない優しさを含んでた。


 でも、目の下にうっすらとクマが浮かんでて、 肩も少し落ちてるように見えた。


 髪は少し伸びてて、ポニーテールにまとめてるけど、いくつか髪が乱れて顔にかかってた。


 それでも、ゆあちゃんはゆあちゃんで、相変わらず綺麗だった。


「ゆあ…おはよう」


 俺は少し照れながらそう言った。


 すると、ゆあちゃんは小さく笑って、「眠かったんだけど、りんが騒いでたから、私まで起こされちゃった」


 そう言って、軽くため息をつきながら椅子に座る。


 その様子を見て、俺は何かを感じた。

ゆあちゃん、相当疲れてるな。


 育児疲れというやつだろうか。

りんちゃんは元気いっぱいで、きっとゆあちゃんを振り回してるんだろう。


 表情の奥に少しだけ影が見えた。


「お父さん!ねえ、遊ぼうよ!」


 りんちゃんが俺の腕を引っ張って、ソファから引きずり下ろそうとする。

その力は弱いけど、勢いだけはすごかった。


「りん、お父さんはまだ起きたばっかりなんだから、少し待ちなさい」


 ゆあちゃんがそう言って、りんちゃんを軽くたしなめた。


 でも、りんちゃんは「えーっ」と膨れっ面を作って、俺の方をちらっと見てきた。


「よし、りんちゃんと遊ぼっか」


 俺は立ち上がって、りんちゃんの頭をぽんと撫でた。


「今日は俺が面倒見るから、ゆあは少し休んでな」


 ゆあちゃんが一瞬驚いた顔をして、

それから小さく微笑んだ。


「ありがとう、お父さん。じゃあ、お願いね」


 そう言って、ゆあちゃんはキッチンに戻っていった。

その背中が、少しだけ軽くなったように見えた。



 ◇


 それから、俺とりんちゃんの時間が始まった。


 まずはお絵描きだ。

リビングのテーブルに画用紙を広げて、クレヨンを手に持ったりんちゃんが、楽しそうに何かを描き始めた。


「これはね、お父さんとお母さんと私の絵!」


 りんちゃんがそう言って、画用紙を俺に見せてきた。


 そこには、でっかい丸顔の俺と、少し小さい丸顔のゆあちゃんと、さらに小さい丸顔のりんちゃんが描かれてた。


 みんな笑顔で、手をつないでる。

色使いはぐちゃぐちゃで、俺の顔はなぜか緑だったけど、その無邪気さに笑いがこみ上げてきた。


「上手だな、りんちゃん。けど、こんなに緑じゃないけどな?」


 俺がそう言うと、りんちゃんは「えへへ」と笑って、さらにクレヨンでぐりぐり塗り足してきた。


 その様子を見てると、もしかしたらゆあちゃんにもこんな時代があったのかと胸を締め付ける。


 次はおままごとだ。


 りんちゃんが「お父さんはお客さんね!」って言って、プラスチックのお皿に、おもちゃのハンバーガーとジュースを並べてきた。


「はい、どうぞ!美味しいよ!」


 ハンバーガー屋にしてはかけてくる言葉が市場で魚を売る人のようで少し笑ってしまう。


 しかし、りんちゃんは真剣な眼差しだったので少し大げさに「うわ、めっちゃ美味そう!」と、言った。


 すると、りんちゃんが目をキラキラさせて、

「ほんと!? もっと作るね!」って、次から次へとおもちゃの料理を運んできた。


 その無邪気さに、俺の心が少しずつ癒されていくのが分かった。


 最近はずっと張り詰めていたから。

 何か問題が起きないか、ゆあちゃんを傷つけていないか、そんな感じでずっと気を張ってた。


 でも、りんちゃんの笑顔を見てると、そんな緊張が溶けていくみたいだった。


「ありがとね」と、彼女の頭を優しく撫でる。


「?」という感じで俺を見上げるその顔がすごく可愛くて堪らなかった。



 ◇


 夕方になって、りんちゃんが眠そうに目をこすり始めた。


 ベッドに寝かせるとあっという間に寝息を立て始めた。


 その寝顔は、ゆあちゃんそっくりで、少しだけ口が開いてて、無防備で愛らしかった。


 俺はそっと立ち上がって、リビングに行き、椅子に座っているゆあちゃんのところへ行った。


 その背中は少し丸まってた。

その姿を見て、また胸が締め付けられた。

全く、何やってるんだ、未来の俺。


「ゆあ」


 俺はそっと名前を呼んで、後ろからゆあちゃんを抱きしめた。


 昔みたいに、優しく、でもしっかり力を込めて。


「どうしたの…?」と、ゆあちゃんが少し驚いた声を出したけど、そのまま俺の腕に体重を預けてきた。


 その感触は今のゆあちゃんと変わらない温かさで、俺の心を満たした。


「疲れてるでしょ?あとは俺がやるから休んでいいんだぞ」


 俺はそう囁いた。

ゆあちゃんはしばらく黙ってて、それから小さく「うん」って言った。

その声が、少し震えてるように聞こえた。


 どれくらいそうしてたか分からない。

ゆあちゃんの髪の香りを吸い込んで、その温もりを確かめてるうちに、俺の瞼が重くなってきた。


 また、眠りに落ちる。

この未来から元の世界へ。


 目を閉じた瞬間、ゆあちゃんの小さな吐息が耳に残った。

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