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【完結保証】借金取りの俺と親に5万円で売られた少女〜DVされ心を完全に閉した少女は5年後うざいくらいに甘えてくる〜  作者: 田中 又雄


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ミニ同窓会

 6月初旬、北海道の初夏らしい風が窓の隙間からそっと入り込んでくる。


 新緑が窓の外で鮮やかに揺れ、木漏れ日が床に細かな光の粒を散らす。


 山坂くんの家に足を踏み入れた瞬間、私はその広さと整った佇まいに目を奪われた。


 壁に飾られたシンプルな絵画、磨き上げられた木の床、ソファのクッションがふかふかと柔らかそうに並んでいる。


 さすが闇金で稼いでいるだけあるな、と内心でつぶやく。

だって、私にあっさり150万円も貸してくれたくらいだもの。

でも、そんなことより気になるのは…。


 山坂くんの隣に座っている、あの女の子。

あの子はいったい誰なんだろう。


 しかも、さっきから私のことをじっと見つめてくる。


 その視線、明らかに普通じゃない。

睨んでる…よね?

背中に冷たいものが走るような気がして、思わず肩をすくめた。



 ◇



「え?店を予約し忘れてた?」

『違う!お店側の手違いで予約できてなかったんだよ!おれのミスじゃない!ここ重要!』 と、総一が叫ぶ

「はいはい。って、そうなると…別の店を探すしかないか」

『いや、面倒だしお前ん家でよくね?』

「俺の家にはゆあちゃんがいるんだよ。忘れたのか?」

『あっ、忘れてた。そっかー…』


 その時、リビングのドアが小さく軋む音を立てて開いた。


 振り返ると、ゆあちゃんが眠そうな目をこすりながら顔を出してきた。


 さっきまでソファでうたた寝していたはずなのに、俺の声で目を覚ましてしまったらしい。


 申し訳ない気持ちで、両手を合わせて「ごめんね」とジェスチャーすると、彼女は小さく首を振ってトイレの方へ歩き出した。


『秋野さんの家とかは!?』


 総一の提案に流石に反論した。


「いきなり家とか…同級生とはいえ、男二人を家に上げるのは秋野さんだって嫌がるだろ」


 その言葉を聞いて、ゆあちゃんがピタッと足を止めた。


 トイレに向かう途中の廊下で、彼女の小さな背中が一瞬固まったように見えた。

総一の声が電話越しに響き続ける。


『えー、じゃあどうするよー。他の店って言ったって…金曜の夜はそんなに空いてる店ねーぞ』


 すると、ゆあちゃんが踵を返し、こちらへトコトコと近づいてきた。


 パジャマの裾が床を擦る音が静かな部屋に響く。


「…何の…話をしてるんですか?」


 彼女の声は少し掠れていて、眠気と好奇心が混じったような響きだった。

俺は少し驚きながら答えた。


「え?あぁ…近いうちにミニ同窓会を開こうって話になってて…」

「…秋野さんっていうのは女の人ですか?」

「そうだけど…」

「…そうですか…」


 ゆあちゃんの表情が一瞬曇った。

唇が小さく引き結ばれ、目が何か言いたげに揺れる。


 もしかして、彼女と付き合ってるんじゃないかとか、そういう存在になり得るんじゃないかとか…そんな不安が彼女の小さな胸を締め付けているのかもしれない。


 でも、たとえ総一が冗談半分で言った『秋野さんが告白してきたらどうする?』が本当になったとしても、俺はその気持ちに応えるつもりはない。

秋野さんはただの同級生だ。

それ以上でも以下でもない。


「ただの同級生だよ」


 そう付け加えると、ゆあちゃんは言葉を聞いていないかのように、黙ってトイレへ向かってしまった。


 その背中を見ながら、考える。


 このままこそこそ飲みに行くより、いっそ家に招いてしまえば、ゆあちゃんの誤解も解けるかもしれない。


「悪い。飲みの場所はやっぱうちでいいわ」

『おいおい、いーのか?ゆあちゃんは』

「俺以外の人と接する機会も大事だと思うしな。総一も秋野さんも信用してるから」

『そういうことなら俺はいいけどよ。そんじゃ、飯とかお菓子とか酒はおれが持って行くわ』


 こうして、山坂家でのミニ同窓会が決まったのだった。



 ◇



「…えっと…親戚の子の…伊藤ゆあちゃんです」


 ぎこちなく紹介すると、ゆあちゃんは無言で頭を下げた。


 彼女の長い髪がさらりと揺れ、初夏の暖かい風が窓から吹き込んでくる。


「おー、可愛い子だな!俺にそっくりで!」


 総一がビール片手に大げさに叫ぶと、俺は呆れたように突っ込んだ。


「お前のどこがゆあちゃんと似てるんだよ」

「え?…雰囲気?」

「似てねーよ、全然」


 そんなやり取りが続く中、ゆあちゃんの視線は鋭く秋野さんに向けられていた。


 彼女の小さな手が膝の上でぎゅっと握られ、眉間に微かな皺が寄る。


秋野さんはその視線に気づいて、気まずそうに口角を上げて笑った。


「…えっと…ゆあちゃん、どうしたの?」


 尋ねても、ゆあちゃんは答えず、ただ秋野さんを睨み続ける。

やっぱり、家でやるのは間違いだったかな…。


「…は、初めまして…秋野莉乃葉です…よろしくね」


 秋野さんが少し緊張した声で挨拶すると、ゆあちゃんは睨んだまま小さく頭を下げた。


「…よろしくお願いします」


 初対面のはずなのに、なぜか張り詰めた空気が漂う。


 総一が空気を読まずにビールをグイッと飲み干し、「と、とりあえずかんぱーい!」と叫んだ。


「かんぱーい!!」

「乾杯…」

「…」


 俺、総一、秋野さん、そして無言のゆあちゃんという謎のメンツで、飲み会が始まった。


 話題は自然とこの5年間のことに移った。


 総一は高校卒業後、日本でアルバイトを掛け持ちして金を貯め、バックパッカーとして世界を旅していたらしい。


 そして、5年で貯金が底をつき、今はまた日本でバイト三昧の日々だとか。


 次に秋野さん。大学に進学し、就職したものの職場が合わず退職。


 今はコンビニでアルバイトをしながら、次のステップを考えているらしい。

高校の同窓会には最初は顔を出していたけど、最近は友達とも疎遠気味だと言っていた。


 最後に俺。

闇金に勤めたのは単なる興味からだった。


 この強面の顔が活かせると思ったし、意外と自分に合っていて、5年も続けられている。


 今後も続けるつもりだと話すと、総一が「相変わらずぶっ飛んでんな!」と笑った。


 昔話に花が咲き、ビールとつまみが減っていく中、総一は案の定酔いつぶれてソファに沈んだ。


 昔から酒に弱い奴だった。


 総一をソファに寝かせると、部屋には俺と秋野さん、そしてゆあちゃんの3人だけが残った。


 時計は11時を回り、ゆあちゃんの目が睡魔に負けそうにトロンとしている。


「…ゆあちゃんももう寝たら?」

「いえ…まだ大丈夫です…」

「…心配しなくても大丈夫だよ」

「…でも…」


 彼女が言いかけた言葉を遮るように、俺は優しく微笑んだ。

ゆあちゃんは少し納得したように頷き、自分の部屋へ向かった。


「…可愛い子だね」


 秋野さんがぽつりと言った。


「まぁね。ちゃんと守ってあげたいんだ」

「…そっか。それなら仕方ないね」

「仕方ない?」

「あ、いや、何でもない。今日は楽しかった。久々にたくさん笑ったし、昔に戻れた気がした」

「…そっか。また今度遊ぼうね」

「…うん。遊ぼう」

「どうする?秋野さんも泊まっていく?一応布団もあるけど」

「…ううん。大丈夫。タクシー呼んで帰るから」


 タクシーが到着すると、秋野さんは夜の闇に消えていった。




 朝になっても総一は起きず、ソファでぐーぐー寝息を立てている。


 無理やり起こして、「さっさと帰れ」と追い出した。


 いつも通りの静かな我が家に戻り、ソファに座って初夏の風を感じていると、ゆあちゃんがいつもより遅く起きてきて、俺の横にちょこんと座った。


「おはよ、ゆあちゃん」

「…おはよう…ございます。お二人とも帰ったんですね…」

「うん。ごめんね、嫌だったよね」

「…いいえ。…あの女の人のことどう思ってますか?」

「秋野さんはただの友達だよ」

「…そうですか。…ごめんなさい。一つ謝らないといけないことがあります…」

「ん? 謝る?」

「…この前…掃除をしている時、お兄さんの部屋を漁っていたんですが…高校の卒アルに入っていたラブレターを燃やしてしまいました」

「…え?」

「…その手紙の差出人は…秋野さんでした」


 その言葉に二重の驚きを感じた。


 卒アルに手紙が入っていたこと、そしてゆあちゃんがそんなことをしていたこと。


 でも、彼女を責める気にはなれない。

きっと怖かったんだ。

自分の居場所が奪われるんじゃないかって。


「…そっか。正直に話してくれてありがとう」

「…はい」


 彼女の小さな声が、初夏の柔らかい光の中で響いた。


 正直に打ち明けてくれたことが、ただただ嬉しかった。


 この穏やかな時間が、いつまでも続けばいい。そう願わずにはいられなかった。

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