神堕ちのそのあとで
カミーユ・ロラン公爵は凛々しく、美しく、正義感に溢れ、女性に好かれる理想の騎士である。
ここ、ベラルーン王国では、近年は戦もなく、平和な時が続いていた。
近衛隊長となったクラリスが、執務室のカミーユに報告する。
これは定時連絡であり、何が起きたということではない。
クラリスがカミーユの愛人であることは公然の秘密であったが、カミーユの凛々しく美しい姿を見ると、それもやむ無しかと。誰もが思う。
同時に、宰相サラ・ハイアンも入室する。彼女は新領土の収穫高の回復ぶりを報告に来たのだ。カミーユが総督に任じたヘブナーがよく働いているという。
この日は執務室に、女王アナスタシアまでやってきた。急な使者により、昼食を共に取る約束を反故にされ、涙目で抗議に来たのだ。
カミーユはお茶の時間を作るということで、妻の機嫌をとった。
夕刻になり、カミーユは邸宅へ戻る。
そこには、妻エトナと妻ロザリア、従者フローラと愛人のユマとカリンも居る。
家族とは、皆で夕食を取ることを、取り決めている。
「そう言えばカミーユ。知っているかしら」
ロザリアは最近化粧を覚え、可憐さに加え、妖艶さを魅せるようになっていた。
「〜神堕騎士道浪漫譚〜『竜血のカミーユ』って、吟遊詩人が謡っているんですって。あなたが主役なのよ。カミーユ」
エトナが不思議そうに問う
「どのようなお話なのですか」
ロザリアが楽しげに語る。
「それが、可笑しいのよ。カミーユが竜を倒したり、巨人と力比べをしたり、一万の軍隊と戦ったり、最後は神様まで倒しちゃうんだから」
ユマが呆れて言う。
「吟遊詩人たちは商魂たくましいな。ちょっと名が売れたらすぐこれだ」
カリンはユマの言葉を拾う。
「有名税は仕方ないって、ハイアン侯爵もおっしゃっていました」
「そうよね。田舎でくすぶっていたカミーユを拾い上げて、公爵まで押し上げたのは、お母様の功績なのだから。そんなおとぎ話なんかじゃないわ」
ロザリアは言い切る。
和やかに食事は終わり、フローラは侍女たちに食事を片付けさせる。
そして、ワインを片手に夕涼みをしていたカミーユに寄り添う。
「カミーユ様。ありがとうございました」
「フローラ。急にどうしたのです。お礼を言いたいのは私の方です。いつもありがとうございます。」
「いえ、急に言葉が出てきたのです。気にしないでいただけると幸いです」
そうして、従者は騎士に頭を下げた。
――――――――――――――――――――
「愚妹よ。神に堕ちた感慨はどうだ。何か思うところはあるか」
「いえ、皆を少し幸せにできればと、そう願っています」
「くだらぬ願いだ。だが、愚かなお前にはふさわしい」
「姉上こそ、竜を放っておいてもよいのですか」
「あれこそ古い種だ。滅びに任せるがよかろう」
シド・クオンは嗤った。
カミーユは笑わなかった。ただ微笑み、世界を見守っていた。
――――――――――――――――――――
〜神堕騎士道浪漫譚〜『竜血のカミーユ』 完




