キツネのアキコ
「アキコさん?」
サエは、チュウタの話に登場したアキコに興味を持ちました。
「うん。キツネのおばさんなんだ。お話好きでつかまると面倒くさいから、僕は苦手なんだ。」
ノウサギのチュウタは耳を下げて嫌な顔をしました。
「でも…、口うるさいけど、いい人なんだよ。」
チュウタは、小さな頃、道に迷って困っているところをアキコが助けてくれたことを思い出して、耳をピョコンと持ち上げて付け加えました。
「そうなの?私も会ってみたいわ。」
サエは、見たことの無いキツネのアキコを思い描きました。
アキコは、ホンドキツネと呼ばれる種類で、赤みのある柔らかいベージュの毛色の狐です。ふさふさの太い立派な尻尾が彼女の自慢です。
女所帯の大家族で、大きな巣穴に、娘と姉妹と暮らしています。
春先は、娘が初めてのお産をし、ヤンチャな子供たちの面倒を見ていたのですが、それもソロソロ手がかからなくなり、口寂しくなった所でゴローに再会したのでした。
もともと世話焼きのアキコは、次のやりがいを見つけたと胸をときめかせ、
気ままなゴローは、面倒な者に再会した、と、少し気持ちが重くなりました。
だって、アキコさんは、起きる時間から、昆虫の食べ方までイチイチ文句を言うのだからたまりません。
それでも、春先は美味しい草のありかやら、懐かしい友達の近況を聞いたり、それなりに二人は仲良くやっていました。が、ツツジが花を落とし、アジサイが咲き始めた満月の夜、事件は起きたのでした。
「アキコおばさんはね、ゴローおじさんの結婚の心配をしはじめたんだ。でも、ゴローおじさんは、お嫁さんなんか欲しくなかったんだ。」
チュウタは、ゴローに同情的に頷きました。
チュウタも大人になりましたが、まだ、女の子と暮らすより、一人で冒険を楽しみたいと考えていたからです。
「まあ、ゴローさんはお嫁さんがいらないと言ったの?アジサイが咲く頃には、女神様が甘い恋の歌を歌うのでしょうに。あの歌を聞いたツキノワグマは、誰だって、恋をしたくなるはずなのに。どうしたのかしらね?」
雪女のサエは、いつも自信満々の恋の女神を思い出して首をかしげました。
「なんかね、面倒くさいんだって。」
チュウタは、そういってボヤくゴローを思い出しながら言いました。でも、ふと思い返して、こう付け加えるのも忘れませんでした。
「でもね、女の熊は嫌いじゃないとも言ってたよ。」