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サエ

チュウタは、必死で走りました。

あと少しで氷の池です。

ドングリの林が励まします。


あと少し、あと少し。


息が切れてきましたが、チュウタは林を抜けきって、ぴょんと大きくひとっ飛び、氷の池につきました。


おとの消えた氷の池を、欠けたお月さまが照らします。


おごそかな雰囲気に、チュウタの体は震えました。

あの狼は、どんぐりの林の中から出られません。


しばらくすると諦めて、尻尾を巻いて帰ります。


静かな池に一人きり、チュウタは、怖くなりました。


「こんばんは、ぼく、年うざぎのチュウタです。雪女のサエさんはいませんか?」


チュウタは、叫んでみました。


けれど、誰も返事をしてくれません。お月さまも冷たい光を投げ掛けるだけです。


「こんばんは、こんばんはっ。」

チュウタは不安になって大きな声で呼びました。


けれど、チュウタの悲壮な声は綿雪たちに吸われて消えて、冷たい北風がどんぐりの枝を鳴らすばかりです。


チュウタは泣きたくなりました。

でも、子供ではありません。年うざぎに選ばれたのですから、その役目を果たしたいと思いました。


とりあえず、色糸をわたそう。


チュウタは風呂敷を開くと、美しい色糸をきれいに並べます。


すると、春の黄は空をはね、

夏の青は、キラキラとまばゆく輝きました。


秋の赤は、はらはらと風に舞い踊ります。


「はじめまして、私は年うざぎのチュウタです。雪女のサエさんに、この通り季節の色糸をお持ちしました。どなたか、お答えくださいませんか?」


チュウタは、出来るだけ丁寧にそう説明すると、頭を下げて挨拶をしました。

するとどうでしょう?

頭をあげて見る先に、美しい氷の糸紡ぎが置いてあり、美しい白い着物を来た一人の女の人がたたずんでいます。


その女性は、雪のように白い肌に、墨のように黒い長い髪を後ろにひとつにまとめて、寒椿の花びらのような赤い唇をしていました。

女の人は、静かにチュウタに近づくと新月の闇夜のような、深く、暗い優しい瞳で見つめながら、一本杉の一番つららがふれあうような、高く透明な声で


「ご苦労様です。わたくしがサエです。はじめまして。」

と、挨拶を返してくれました。


チュウタは、はじめて見た雪女に少し驚いて、しばらくただ、サエを見つめてしまいました。


サエは、少し困ったように首をかしげて、それから、優しく言葉をつづけました。

「チュウタさん。大丈夫ですか?」


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