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セアリエル  作者: 七鏡
何者であろうとも私の道を阻むことはできない
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至高の王

騎士に案内されて着いたテントの中、エルデリート王はセウス王との対面を果たす。

エルデリートの第一印象としては、噂通りの人物だな、というのものであり、その強い瞳はなるほど、多くの物を従わせるだけの意志と魅力を備えている。自分とは違い、国をよりよく導き、未来を切り開いていける人だ、と彼女は思った。


「エルデリート陛下にご足労させ、危険な目に遭わせてしまい、申し訳ない」


「構いません。もとより、この国をきちんと治めるべき私の力不足故に、このような事態に陥っているのですから」


目を伏せ、セウス王が腰を下ろすよう勧めた椅子に座ると、王はそう言いセウス王を見た。


「エルデリート陛下の身の安全は保障いたします。元老院からも」


「・・・・・・・・・・ありがとうございます。しかし、守っていただきたいのは我が身ではなく、民です」


「無論、わかっております」


セウス王はそう返すと、エルデリートを見る。


「民に罪はない。私の目的は力による支配ではないですから」


「それを聞くことができ、安心しました」


そう言うと、エルデリート王に対しセウスはより詳しい話をし始めた。

一時間以上に及ぶ王同士の話で決まったことは以下のことである。

第一に、セウス王はエルデリート王と休戦を結ぶこと。

第二に、セウス王はエルデリート王の正当な権利を取り返すため、逆賊である元老院討伐にその力を提供する、ということ。

第三に、エルデリート王はトローアの同盟国となる、ということ。

以上三つだが、実質的には戦後、エルデリートは王位を退き、トローアにその王権を明け渡すことを彼女は明言していた。元より王の資質があるとは思えないし、二人もの王がラカークンに居ては、せっかく動き出した平和に影響があるやもしれない。

しかし、セウスもエルデリートをただ遊ばせるつもりはない。彼女は王の地位こそ退くが、戦後トローアの一地方となるシノルヴァの領主として彼女を据えるつもりであった。

このことにエルデリートは了承した。

かくして、セウス王とエルデリート王の和約は成立した。セウス王はエルデリート王との連名で大陸中に戦争の終結を宣言した。



この宣言を受けて、シノルヴァ元老院は混乱に陥った。王の単独での講和は無効だ、という声が上がるも、大陸中がもはやトローア一色となっており、シノルヴァ国民の多くがこのことに賛成を示していた。

未だ抵抗を続ける元老院は、なおも戦争を継続するつもりであった。

しかし、セウスはそれに対し先手を打ち、国王エルデリートに対して元老院が剣を向けたことを内外に知らしめ、元老院を弾劾した。


「元老院はその力を私利私欲に使い、あまつさえ自国の王を害そうとした!戦争の終結を宣言してもなお、彼らは彼らの王の決定を不服とし、戦火を広げようとさえしている!その結果、流されるのは民の血であり、彼らは血すら流さない!このような暴挙が赦されるだろうか!」


シノルヴァ元老院の討伐隊隊長に任命された黒騎士バルドバラスは、シノルヴァ国境地帯オグマでこのように演説をした。バルドバラスの演説を聞くのはトローア軍のみならず、エルデリートがいると知り駆けつけた多くのシノルヴァ国民で埋め尽くされていた。オグマの街でのこの演説により、それまではトローアとの戦いに終始してきたシノルヴァ正規兵たちがそれまで従っていたシノルヴァ元老院に明確に剣を向けた。

元老院議員たちの影響力が強い地域は未だトローアとの交戦の意識は強かったものの、あまりにも戦力差があったし、勢いが違った。

トローア軍は進撃し、同盟都市を超え、敵対地域に乗り込んだ。優秀な指揮官不在により、前線に立たざるを得なくなった元老院議員たちはトローアとの猛戦で多くが死亡した。

王都クォール以外の地域はどんどんトローア軍に占領され、元老院議員の死亡により兵士たちもトローアへと投降。

トローア軍はついにクォールを包囲した。




パーシブルは王都での民衆の動きを軍兵の圧力で沈めると、イライラとトローア軍を見た。

クライシュ大陸同盟国はパーシブルの援護要請に沈黙を返した。もはや敗北は見えているので、同盟各国はトローアに刃を向ける真似はしたくないのだ。それがわかっていても、掌を返した同盟各国に不審を抱かずにはいられない。

フロイデン、アースウォード。この二国と全く同じような状況に、まさかこのシノルヴァまでも陥るとは想像をしなかった。忌々しい、とパーシブルは爪を噛む。

あまりに強く噛み過ぎて、詰めにひびが入るがそれすら彼は気にしない。


「忌々しいエルデリートの小娘め。阿婆擦れめ・・・・・・・・・・」


呟くパーシブルは、急ぎ足で元老院議会へと向かう。もっとも、そこにはもはや数える程度しか議員はおらず、他は皆死んだ。

このまま滅びて堪るものかよ。パーシブルは息巻く。この国を支配してきたのは私だ。エルデリートやセウスという若造にいいように馬鹿にされて黙ってられるものか。

そんなパーシブルは目の前から迫ってきた人影に気づくことはなった。

その影がパーシブルを避けるよう、わずかに横にそれた瞬間、人影が懐から出した短剣がパーシブルの腹に突き刺さる。

突然のことに反応できなかったパーシブルは、「なん・・・・・・・・・?」と驚いた目でその人物を見る。黒いフードに顔を隠したその人物の顔をよく見ることはできなかった。フードの男は、短剣を抜くとすぐさまもう一度深くその短剣を突き刺した。

ごぼっ、と血を吐き出し、腹を押さえて倒れたパーシブルは、そのあとわずかに痙攣をして息を引き取った。

長年、シノルヴァを牛耳ってきた元老院議長パーシブルは、誰とも知らぬ者の手にかかり死んだ。

その後、パーシブルの登場が遅いことを疑問に感じた元老院議員らが息絶えたパーシブルを発見。

パーシブルの死により、抵抗の意志を失くした議員たちはセウス王による降服勧告を受諾し、王都クォールを明け渡した。

唯一流れた血は、パーシブルの血だけであった、という。

王都に帰還したエルデリートは、同盟者であるセウス王に王権を譲り、退位することを宣誓。多くのシノルヴァの民は同様こそすれども、新たな王とトローアの支配を肯定的に受け入れた。

セウス王はシノルヴァ地方に前王であるエルデフリートを総督に据え、王都トローアへと凱旋した。



およそ一年ぶりに王都に帰還したセウス王とトローア騎士たちを、国民たちは歓声で出迎えた。

馬車に乗り、国民に手を振る若きラカークンの王、セウスは砂色の髪をなびかせ、千年宮に向かう。

その後ろを、彼の栄光ある騎士たちが続く。



王宮に帰ったセウス王は久方ぶりにあった妻セリーヌからつい先月生まれたばかりの我が子を手渡された。小さな我が子を抱き上げ、セウス王は笑みを浮かべその頭を撫でた。すると赤子は泣き出し、セウス王が慌てたようにセリーヌを見る。

微笑むセリーヌはセウスに言う。


「大丈夫よ、セウス。あなたに会えて嬉しいのよ」


ならいいが、というセウスは我が子をセリーヌの手に戻すと、身を翻す。


「ああ、セウス。お帰りなさい」


「・・・・・・・・・・ただいま、セリーヌ」


まだまだするべきことのある夫を、愛おしげに見て手を振るセリーヌに、笑みを返したセウスは名残惜しさを感じながら部屋を後にした。



セウス王は世界に向け、新たなラカークン大陸の秩序を宣言した。

セウス王は争いのなき、理想郷を作り上げることを宣誓し、長きにわたる四国の戦いの終わりを告げた。

戦争の終わりに、ラカークン大陸中は喜びにあふれた。

セウス王の政策により、徐々にではあるが各地域は戦争の傷跡から立ち上がりつつあった。

フロイデン地方には、魔術師や学者たちの手でまだ始まったばかりの緑地化計画が進みだし、アースウォードやシノルヴァでは差別されてきた人々に対し、土地と言え、そして自由をもたらした。

未だ旧体制に凝る者たちはいたが、そのような者たちの反乱は未然にセウス王と彼の騎士たちの手で防がれた。

セウス王の政治は、多くの人々に受け入れられた。『至高の王』と呼ばれ、その名は他大陸でも語られるほどであった。

セウス王のもとに集った騎士たちは、トローアの円卓議会にちなみ、『円卓騎士団』と呼ばれた。円卓騎士と呼ばれるものは、セウス王により直々に『円卓印章』というものを手渡された。

騎士の中でもその名は多くの者にとってあこがれであり、騎士に憧れるものは誰しもがそれに憧れる、とさえ言われた。


セウス王の治世は平穏であり、繁栄に富んだ。王都トローアのみならず、ラカークン全体に栄光と繁栄の時代が訪れたのだ。

セウス王とセリーヌの間には、第一王子セアドリグのほか、第二王子セオダート、第一王女セシリアが生まれ、王国の未来に関しても憂いはないように見えた。





夕焼け空の下、アカデミー時代からの親友たちは久しぶりに訪れたアカデミーの大きな木の下で、茜色の空を見上げた。


「やっと、落ち着いたな」


そう言ったのはバルドバラスである。戦争が終わったとはいえ、その後の事後処理などにより、皆忙しく各地を回っていたのだ。

同意するように、アノガルやリケンが笑った。

ツェツィーリエとセリーヌも微笑を浮かべていた。

セウスは親友たちを見回すと、言った。


「みんなのおかげで、ここまで来れた。ありがとう」


「水臭いですよ、セウス」


アノガルが言う。


「そうだよ。それに、ここからが本当の意味での戦いだよ」


リケンの言葉に、そうだな、とセウスは深く頷いた。

作り上げる、それは破壊よりも難しいことである。戦争以上に、政治は難しい。平和を保つ、それは並みのことではないのだ。

セウスはゆっくりと皆を見回し、空を見上げた。


始まりは、父の死であった。

あの頃より、長い時が経った。けれど、あの時の想いは忘れない。

絆の深さを、忘れない。

これから、作り上げていこう。もう二度と、失うことのないように。哀しみを誰もが味わうことのない世界を作るために。


(父上、見ていてください)


ぎゅ、とセリーヌの手を握ると、セウスは「帰ろうか」と皆に行った。静かに頷き、彼らは木から離れ、彼らのいるべき場所へと向かっていく。

六つの影が伸び、並んでいる。

彼らの向かう先は、眩い光に溢れている。

その未来を、まだこの時点では誰もが予想はしていなかった。



光あれば、陰もある。

蠢動に気づく者はいない。

至高の王をあざ笑うように、影が揺れた。



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