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セアリエル  作者: 七鏡
何者であろうとも私の道を阻むことはできない
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ミトリガン攻略

月の隠れた夜。

ミトリガンは高い壁により覆われており、外敵からの攻撃に十分に耐えうる状況である。

守りに徹すれば、いかに勢いに乗るトローアと言えども攻め込むことは困難である。十分な警戒態勢のために、壁をよじ登る敵がいるならばすぐに見つけることができる。

だが、この晩は憑きも出ておらず、いつもよりも薄暗かった。それに、警戒こそしていたが、トローアがまさか今日攻めてくるとは兵士たちは考えていなかった。

闇夜に紛れ、進む少数の騎士たち。黒騎士バルドバラス、サウルン、フォーリヴズと言った騎士たちがあしを忍ばせて歩く。暗闇とはいえ、彼らが警備の目に見つからないのには理由があった。

バルドバラスは自分たちの後ろに建ていた一人の騎士を見る。


「テンスビルガ-」


名を呼ばれた一人の騎士が頷く。茶髪の青年騎士であり、顔は死人のように青白い。彼のスキルは、自分の周囲の光と闇を自在に操る、というものであり、これを使用して騎士たちの姿を闇夜に紛れさせているのだ。

とはいえ、有効範囲の関係上、自身を含めた十数人が限界である。

優秀な魔術師でもあるため、魔力の操作で目を誤魔化しているため、そうそう彼のスキルを見破る者はいない。

バルドバラスらの任務は、壁をよじ登り内部に侵入、そしてミトリガン正面の大門を開けることである。

すでにセウス率いる本軍も動き出しているため、バルドバラスらも早急に動かなければならない。タイミングが遅れてはこちら側にも損害が出る。

バルドバラスたちが見つからずに壁際まで来ると、バルドバラスがサウルンに合図する。するとサウルンが壁に足をつけると水平に走り出す。また、サウルンの隣にいた騎士の一人は鉤爪状の手袋をはめ、壁をよじ登り始める。

数秒後、ヒュン、という音がして、城壁の上から梯子が下ろされる。

バルドバラスらはそれを上り、城壁の上に立つ。

そこからセウス王の軍勢に合図を送ると、バルドバラスたちは再び動き出す。

バルドバラスやフォーリブズらは門を開けるため、大門の方向へと走る。それ以外の騎士たちは城壁の上にいる弓兵や魔術師を始末するため、再び闇にまぎれて走り出す。


騎士テンスビルガ-は倒したフロイデン兵士の服を奪い、それを着込み、わざと自身を傷つけると、大声で叫んだ。


「トローア軍が攻めて来たぞぉ!!南門に向かっているぞぉ!!」


それとはまた別の場所では、フロイデン兵に偽装したトローア騎士が叫んでいた。


「西側に、奴らが来た!応援を頼む!!」


トローア騎士の偽の情報により、その注意は大門ではない方向へと向かう。

南門、西門、東門のいずれにも事前に魔術師たちが作っていたトローア軍の幻影がある。それを相手にフロイデン軍は踊らされるだろう。


(本当の軍勢はこちらに向かっているとも知らずに、な)


バルドバラスは心の中でそう呟くと、見張りの喉笛を切り裂いた。そして、大門の下にたどり着く。

そして、大門を開場しようとしたバルドバラスだが、そんな彼を突如斬撃が襲う。

蛇のように狙うその剣劇を剣ではじいたバルドバラス。そんな彼の前に現れたのは、へらへらとした笑いを浮かべた騎士であった。


「セイザー・アルカンシエルか!」


「やあ、黒騎士。君たちがこうやって攻めてくることも考えて、ここにいて正解だったよ」


そう言うと、セイザーはクスリと笑う。


「大方、他の門のトローア軍はフェイクで、本命はこちらだろう?けど、それはさせないよ」


「くそ・・・・・・・・・・・・」


こんなところでセイザー相手に時間を喰うわけには、とバルドバラスが盾を構えていると、セイザーに矢が放たれる。セイザーはその矢を払い落とすと、弓を放った相手を見る。


「バルドバラス、行け!」


「フォーリヴズ」


弓矢を構えた隼のフォーリヴズはセイザーを見て言う。


「俺が奴の相手をする、そのうちに・・・・・・・・・・」


「わかった」


そう言い、セイザーの前から去ろうとするバルドバラスを彼が逃がすわけはない。蛇腹剣がバルドバラスを襲おうとするが、フォーリヴズの投げた短剣が蛇腹剣の軌道を途中で変えたせいでそれは当たらなかった。


「お前の相手は俺だぜ、セイザー!」


「・・・・・・・・・・いいよ、隼。遊んであげるよ」


セイザーはそう言うと、フォーリヴズを見て不気味に笑った。冷や汗をかきながら、フォーリヴズは弓を構える。

蛇のような刃が解き放たれた瞬間、矢が解き放たれた。

矢じりがセイザーの頬を切り裂き、蛇腹剣がフォーリヴズの頬を傷つけた。

弓矢を捨てたフォーリヴズは剣を抜き、セイザーに切りかかる。セイザーは蛇腹剣を引き戻すとその剣を受け止める。そして、身をかがめると、剣を持たない左手でフォーリヴズの鳩尾をつく。それを二の腕で受け止めるが、骨に軋みが入ったような音がして、フォーリヴズの身体が後ろに押される。

その隙にセイザーは剣を放ち、フォーリブズの腕を引き千切ろうとする。

フォーリヴズは咄嗟に指輪から盾を取り出した。盾が蛇腹剣を受け止める。


「ふん!」


蛇腹剣が盾を破壊した。後退したフォーリヴズは砕けた指輪を気にせず、次の武器を指輪から取り出す。

巨大な槍を構え、フォーリヴズは鋭い眼光でセイザーを睨む。


「楽しませてくれるけど、何時までもつかな?」


体力的にも身体能力的にもセイザーの方が上と言うことはフォーリヴズも悟っていた。

だが、セイザーのような相手が初めて、というわけではない。彼の父、アルカンシエル将軍と比べれば、まだまだ可愛いくらいだ。

フォーリヴズはニヤリと笑い、奔りだす。それを見て、セイザーも笑うと蛇腹剣を放った。




アルカード率いる第二軍分隊は、西門を飛び出すと城壁近くにいたトローア軍に攻撃を開始した。

騎兵で構成されたアルカード分隊の方が数では劣るが、機動力ではこちらの方が上だ、と彼は息巻いていた。

だが、敵に近づくにつれ、それが本物ではなく、魔術による幻影であることをアルカードは知った。


「・・・・・・・・・・・ッ!」


まさか、自分がこんなフェイクを見破れなかったとは、とアルカードは口惜しそうに舌打ちした。そして、分隊の者たちに反転を命じる。


「敵の罠だ、戻れェ!!」


アルカードはそう叫び、西門に戻ろうとした。だが、その門は閉じられてしまう。


「なんだぁ!?」


「アルカード様、あれを!」


騎士の指差す先には、フロイデン騎士の死体があり、門の上にはフロイデン騎士の服装に身を包んだトローア騎士が立っていた。

騎士テンスビルガ-は、呆然とするフロイデン騎兵たちに笑みを浮かべると、闇にまぎれて消えていった。


「おのれェ、トローアめェ!!」


アルカードが叫び、騎兵たちにほかの門に向かうように言う。


アルカード分隊は他の門に向かうが、南門では戦闘の真っ最中であり、開けることができず、次に向かった東門では敵に疑われ入ることができなかった。

続いて正面の大門に向かったアルカードたちは絶句した。

無数のトローア騎士たちが歩き、ミトリガンに集結していた。そして、そんな彼らの前で大門が開き、招き入れようとしていた。


「くそ、トローアめ、セウスめ・・・・・・・・・・・・・」


アルカードはそう呟くと、部下たちに命じる。


「奴らをミトリガンに入れてはならん!全軍、突撃!」


「ですが、アルカード様・・・・・・・・・・・」


異論を唱えようとする部下をアルカードは叱責する。


「愚か者、ここで奴らに攻められてはミトリガンは落ちるぞ、死が怖いのか、愚か者よ!インサニアフォースズの名が泣くぞ、突撃だッ!!」


そう叫び、二刀を構えたアルカードが馬を走らせると騎兵隊もそれに続く。




馬に乗ったセウスがトローア軍の先頭に立ち、正に城門に入ろうとした時、こちらに向かう敵の姿があった。騎兵に載ったフロイデン兵が攻撃をしてきたのだ。

セウスは自分同様に馬に乗る者たちを率いて、歩兵を守るように前に出る。セアリエルを引き抜いたセウスは、迫りくる敵騎兵を迎え撃つ。

その先頭に立つ灰色の髪の騎士の姿に、セウスは目を細める。そして、その敵の名を叫ぶ。


「アルカード・ゾディアン!」


アカデミー卒業後、国境警備隊に配属され、ペスベレント反乱後行方不明になっていたアルカード。もとより怪しまれていたが、なるほど、フロイデンの者だったか、と思うとセウスは納得した。

そんなセウスのすましたような顔を見て、憤怒の形相のアルカードは怒り狂って叫ぶ。


「セウス、セッェウスぅぅぅっぅ!!」


二刀が輝き、その刃がセウスを襲うが、セウスはそれを苦もなく受け止めた。

アルカードは「ああぐぅ!」と叫び、馬を離すと再びセウスに切りかかる。


「あぁあああああああああああ!!」


叫びながら切りかかるアルカード。彼は未だセウスがあの頃のままの実力であり、自分の方が上を行っている、と思っていた。だが、セウスはアルカードの必殺の二刀連撃を苦もなく受け止めた。未だセウスは攻撃していないが、できないわけではないのだとアルカードは悟る。


「クソッタレェ!!」


アルカードは叫び、刀を叩きつける。もはや剣術などない、子どものような剣に、セウスは顔色変えずに受け止めた。

ふと、息が上がったアルカードが攻撃の手を休めた瞬間、ようやくセウスはセアリエルをアルカードに向けて放った。

その鋭い一撃にアルカードは反応できなかった。

輝く刃がアルカードの右肩を貫いた。


「あばぁああああああああああああああ!!?」


「・・・・・・・・・・・」


叫び、後ろに下がろうとするが、馬が言うことを聞かない。その間に、セウスは二撃目を放つ。二撃目は、背を向けていたアルカードの左肩を切り裂いた。


「あああああああああああああああああ!!!!」


くそぉ、と泣き喚くアルカードがセウスを見る。そこには、かつてのトーナメントでの余裕も何もない。惨めに泣き喚くアルカードは、痛みをこらえながらもその刀をセウスに向ける。もはやセウスを殺す以外には考えられないアルカード。セウスは隙だらけのアルカードの攻撃を避けると、アルカードの両手をセアリエルで切り飛ばす。そして、剣を素早く動かし、アルカードの腹に剣を叩きつけ、切り裂いた。

上半身と下半身を分断されたアルカード。上半身は地にずり堕ちた。内臓と血を撒き散らし、呪詛を吐きながらその身体は砂の中に消えていった。

セウスはそれを最後まで見ることなく、再びトローア軍の方へと向かい合流すると、ミトリガン内部へと入っていった。




バリア・メットール率いるインサニアフォースズ第二軍は、情報に錯綜され大幅にその戦力を割いており、大門から入ってきたトローア軍に対して有効打を打つことはできなかった。

数の上では勝るとはいえ、その数故に動くことができなかった。

夜戦であり、誰が敵で味方かわからない中、同士討ちも多々あり、その間にトローア軍により倒される、という現象が各地で起こっていた。

その先頭の士気をしていたメットール将軍も、味方陣営に変装して紛れ込んでいた騎士テンスビルガ-の手で打ち取られた。

アルカードはすでに倒され、インサニアフォースズの残った指揮官であるセイザーも宿敵フォーリヴズとの戦闘でそれどころではなく、フロイデン軍は混乱の極みにあった。




マーズリート帝はその戦況を見ながら、玉座から腰を上げた。そして、剣を掴むと傍らのフォッシウスを見る。


「フォッシウスよ、後を頼むぞ」


「陛下・・・・・・・・・・・・・・」


フォッシウスが主君を止めようと声をかけるが、マーズリートは静かに首を振った。


「フォッシウス、私はセウス王と戦ってこよう。私は皇帝。ほかの物にかしずくことは許されない。故に、私は戦う。・・・・・・・・・・・・フォッシウスよ、長いこと、私に仕えてくれたことを感謝しているぞ」


「陛下・・・・・・・・!」


「トローアの王は、決してフロイデンを無下にはしないであろう。それに、降服した相手をむざむざ殺すような野蛮な王でもない、私が死んだならば、その時は降伏せよ。いいな、フォッシウス。これが我が最後の命令だ」


そう言うと、マーズリートはフォッシウスの肩をたたいた。


「我が子どもたちのことを、頼んだぞ。フォッシウス」


「・・・・・・・・・・・はい、マーズリート皇帝陛下」


膝をつき、頭を下げたフォッシウスを見ると、満足そうに背を向けたマーズリートはゆっくりと歩き出す。膝をついたまま、主君の戦場へ向かう姿を見送るフォッシウスの目には、涙があった。



闇が次第に薄くなり、朝日が昇ろうとする中、なおも変わらず戦いは続く。


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