円卓会議
ラカークン統一戦争は、トローア内部で発生したペスベレント反乱(もしくは事件)より始まったとされる。
この際の他国の侵攻により、トローア王国は領土の半分を失い、大きな損害を出した。
しかしながら、トローア王国が滅亡しなかったのは、大陸を取り巻く四国のパワーバランスがほぼ拮抗していた、ということもあるが、ひとえにセウス王と彼の仲間たちによるところが大きかった。
セウス王は他国の侵攻こそ許したが、絶対守護線を張り、王都トローアをはじめとした南部を死守した。トローア王国の要である拠点を多く擁する南部の死守により、フロイデンやアースウォードのシナリオであった短期決戦は不可能となった。シノルヴァ側の参戦により、大陸を巡る戦乱は混沌を辿り、大陸全土を巻き込んだ大戦乱へと発展した。
現在の情勢的にはフロイデンが他よりもやや優勢、と言う状況であるが、実質的にどの国も似たような状況である。
防戦一方のトローアは、しかしながら次第に戦力を増強し始めており、反撃の機会を伺っていた。
王都トローア。千年宮。
20歳の王、セウスは筆頭王補佐官ペルゼンを従え、王宮前の広場へと向かっていた。
開戦より四年。激闘は依然続いている。民への負担は非常に大きなものとなっており、セウスの心も痛む。だが、今はその痛みすら耐えねばならない。四年と言う期間を待ちに待って、ついにセウスは動き始める用意を整えた。
「いよいよですね、セウス陛下」
魔術師の言葉にセウスは静かに頷く。
セウスは緋色のマントをはためかせながら、宮殿前の広場に造られた壇上に上がる。その前には総勢数万の騎士たちが整列している。
王の登場に騎士たちはその腰の剣を抜き、頭上に高く掲げ、王への忠誠を示す。
王は片腕を上げ、楽にするよう騎士たちに指示を出す。騎士たちは揃った動きで剣を鞘に戻し、直立不動でセウス王を見る。
「開戦より四年、その間我々は多くの犠牲を払いながら、今日まで戦い続けてきた」
セウス王が口を開き、全兵士へと語りかける。王の言葉に騎士たちは耳を傾け、強い視線で王を見る。
「思えば、ラカークン大陸を巡る戦いは、今までも多くの人々の犠牲を強いてきた。我が父セオドアもまた、かつてのフロイデンとの戦いで戦死された。その際に、多くの英霊もまた散った。今もなお、多くの騎士や民が命を落としている。それは、他国の者たちもである。永く続いたこのラカークン大陸の覇権をめぐる戦い。これがある限り、これからももっと多くの血が流されるであろう。
だが、私はこの無意味な戦いに終止符を打つために、諸君にあえてその命を捧げてほしいと言わねばならない。そして、より多くの血を流すことになるだろう。時には諸君らの騎士としての誇りさえも穢すことになるかもしれない。だが、そうまでしてでも私はこのラカークン大陸に平和をもたらしたい。
我が父セオドアや多くの英霊たちが願った平和を得るために、諸君らの力を貸してほしい。私は王である。だが、私一人でできることなど、たかが知られている。私の剣となり、盾となってくれる者たち、諸君らがいなければ結局は何もできない。
無力な王、と思うかもしれないが、私のためではなく、祖国とこの大陸にすむすべての人々の未来のために、力を貸してもらいたい」
王の言葉に、最前列に立つ騎士の一人が声を上げる。
「セウス王、万歳!トローア万歳!」
その言葉に合わせるように、徐々にその言葉を騎士たちが叫び、やがてそれは王都中に響くほどの大きなものとなった。
王都トローア中でセウス王都トローアを湛える声が溢れる。
「フロイデン、アースウォード、シノルヴァ。三カ国を相手に我々は無謀ともいえる戦いに身を投じることになる。だが、私は約束しよう!必ず私はこの大陸に平穏をもたらすことを!」
「「セウス王万歳、トローア万歳!!」」
王は緋色のマントを翻し、去っていく。その後ろではいまだ熱された騎士たちと人々の声が響いていた。
千年宮に存在する大円卓の間。ここは、王国の大臣や貴族たちによる会議の場、として古くから知られる場所であり、巨大な円形の議場に、巨大な円卓が存在する。
百七十四の席が存在し、円卓の一座には王の玉座が存在する。この場では王は他の者たちと同じ高さに座り、同じ目線で貴族たちと意見を交わし合う。ここでは身分などなく、全てのものが平等である、という原則が存在するためだ。トローアの王は皆知的で優秀な王ばかりであり、驕ることはない。故に、臣下も敬意を自然と示すために、王が舐められることもない。
その大円卓には、セウス王が座している。その隣には筆頭王補佐官ペルゼンが座り、その逆隣には近衛騎士団隊長アノガルが座っている。
百七十余りの席のほとんどに騎士が座り、彼らは自身の主君を注視している。セウスは玉座に座しながら、ごほんと息をつくと、全員を見渡すように見て、口を開く。
「それでは、円卓議会を開くこととする」
セウス王の厳かな声の中、円卓議会と称されるトローア王国の戦闘会議が開かれる。
「まずは、現在の状況について、国境警備隊副隊長ジュリアス・クーンから報告を」
「はっ!」
王の言葉に、国境警備隊隊長コクーンの隣に座っていた若き騎士が立ち上がり、王に敬礼をして円卓を見回す。
「現在、我が国は絶対守護線に防御壁を築き、三国からの攻撃を防いでいます。海上からの攻撃も、我が方の艦船により、防がれています。防御壁もあり、敵国は未だ攻めあぐねている状況であり、敵軍が前線力を投入する、と言う事態がない限りはこれが破られることはないでしょう」
「だが、敵が本腰を入れれば、破られる、と言うことであろう?」
一人の騎士の言葉に、ジュリアスは頷く。
「しかし、それはあり得ないことです。現在、かつてのトローア領内での三国のにらみ合いと戦闘が続いている現状では、余剰戦力は存在しないでしょう。フロイデンの兵力も、最近はあまり勢いがない、と言います。フロイデンやアースウォードは短期決戦を望んでいたようですから、今はだましだまし、と言う状態でしょう。シノルヴァは優れた補給網を築いているため、守りこそ硬いですが、攻め込むだけの決定打がない。そのため、戦線はほぼ膠着状態、と言ってもいいでしょう」
「陸では混戦状態ならば、海上を通って敵国の都をを責める、と言うことはできないのか?」
戦乱によって急遽民によって作られた義勇団の団員にして、その活躍から正式に騎士に任じられた平民騎士フォーリヴズの言葉にジュリアスは再び口を開く。
「海上はフロイデンによる艦船、そしてシノルヴァの艦船が守っており、海戦技術の低い我が方が勝てる見込みはないでしょう。とはいえ、今のパワーバランスが崩れることを危うんでいるため、両国とも海を伝って我が国を責める、と言うことはできないようです。外海での戦闘はリスクも大きいですから、賭けに出る、ということもできないでしょう」
外海は不安定な気候に、強力な魔物がいる。高いリスクを払うこととなる。下手をすれば一方的に自軍に被害しか出ないとあっては、攻める決断もできない。
「とはいえ、陸の方は戦線がこう着している。どうやって我がトローア軍は他国に対して戦っていくので?」
フォーリヴズの言葉に答えたのは、魔術師団副団長テレサ・ヘンドリクセン・フォルテシウスであった。
「魔術師団による新しい魔術術式が作られています。それを放ち、混戦状態にしたところを、確固撃破。そのまま奪われたトローア領内をひとまずは奪還します」
「三カ国を同時に相手取る、と?不可能ではないか?我が方はそれほど数は多くはない」
初老の騎士があごひげを撫でながら言う。テレサが口を開こうとするのを、王が制する。
「無理は承知している。だが、やらねばなるまい。私自身が先陣を切り、諸君らの道を切り開くつもりだ」
「王自ら、ですか?」
「そうだ」
セウスの言葉に、議場はがやがやと騒がしくなる。初老の騎士は再び口を開く。
「陛下、陛下が前線に出るなどと・・・・・・・・・・」
「私は誓った。この大陸に平穏をもたらす、と。なればこそ、私自らが常に戦いの中に居なければならない。さもなければ、誰もついてくることはないだろう。私はそれだけの覚悟を持っている。私は一振りの剣である。この大陸の未来を切り開くための、な」
「・・・・・・・・・・王がそれだけの覚悟をお持ちならば、私は言うことはありません」
「しかし、陛下。陛下がいかに強いと言っても、あれだけの敵を切り抜けるなどとはさすがに」
「フォーリヴズ。我が国には多くの誇り高き騎士がいる。彼らの力を集中させれば、それも不可能ではない、と私は考えている。我が国の精鋭たちで戦端を切り開く。我らの作った穴を君らが埋めてくれれば、トローアを取り戻すことは、さほど大変ではあるまい。もっとも、そのあとの戦いは厳しいだろうが」
「とりあえず、国土を回復し他国の国境程度まで追い立てていく。それが当面の目標です。そのあとは、情勢もありますが、とりあえずフロイデン帝国を叩きます。フロイデンは今消耗していますから、叩くならば今でしょう。アースウォードとシノルヴァに関しては各騎士団に国境地帯での防波堤になってもらい、その間に精鋭の部隊でフロイデン本国を責めていきます」
ペルゼン筆頭王補佐の言葉に、若い騎士が言う。
「精鋭部隊のみで、フロイデンと戦うのですか?」
「ええ。少数精鋭で、フロイデン帝都ミトリガンを直接攻めます。フロイデン全軍を相手にする、と言うことはないでしょうし、それまでにこちら側でも細工はします。とはいえ、これはまだ予定です。トローア回復の進行状態にもよりますし」
「・・・・・・・・・・精鋭部隊の内容は?」
王は静かに頷くと、皆を見回す。
「そちらについてはほぼ選定は終わっている。各騎士団や魔術師団から人員を割いてもらうこととなる。部隊によっては大きな戦力ダウンとなるだろうが、その分の補充人員も加えはする。訓練機関も設けるので、その間に戦力を整えてほしい。作戦の決行は一か月後、それまでに皆用意を」
「通達に関しては早ければ今日中、遅くとも明後日には送られる。各騎士団、部隊共に通達の件については伝えておくよう」
「それでは、会議は解散とする」
セウス王の言葉で円卓議会は終了した。
後日、セウス王の精鋭部隊に選ばれた百人の騎士たちは王宮内に呼び出された。
総勢百人の部隊であり、それに近衛騎士団と他の騎士団の人員も合わせて総勢千人。この部隊でフロイデン侵攻をするというのだから、相当無茶と言えるだろう。
だが、王自身無茶は承知している。電撃作戦でミトリガンまで攻め込まなければならない任務であり、そのために各自の判断力、能力重視で集められた精鋭中の精鋭であった。
後に『円卓騎士団』と呼ばれるものの前身ともいえるものがこの部隊であるとされている。
国王セウスをはじめ、トローアの精鋭騎士が多く選出された。
各騎士団の隊長は近衛騎士団を覗いては不参加であるのは、パワーバランスの観点でどうしても欠くことができないからだ。王都防衛の観点からも兵力全てを割くわけにはいかない。
「へえ、流石に国王陛下の幼なじみ方は入っているか」
平民騎士フォーリヴズがそう言い、バルドバラスやアノガル、ツェツィーリエに声をかける。同じ平民騎士、とはいっても、彼とは違いアカデミー卒業生であるため、実質は違うのだが、周囲は同じ平民騎士の英雄として彼らを同一視していた。
王の親友たちとして知られる彼らの腕は確かであり、各々近衛騎士団所属の騎士である。
フロイデンの血をひく黒い垂れ髪のバルドバラスに、かつてはシノルヴァ貴族であったアノガル、放浪民の血をひく女性剣士ツェツィーリエ、と人種的にも珍しい。
あれだけの連中だから、入っていない方がおかしいとも思う。
フォーリヴズは他の面々も見る。同じく王の親友である魔術師リケン。かつては彼らの教官であり、長く戦線から退いていたハバナンもその中にはいる。
若いものや、ベテランなど幅広く集められているようではある。
「フォーリヴズ」
自分に声をかけてきた人物の方を振り向いたフォーリヴズは驚く。それは砂色の髪のトローアの君主であったからだ。
「セ、セウス陛下!?なぜ、騎士の中に・・・・・・・・・」
王がこんな場所にいるとは思わず、驚くフォーリヴズ。そんな彼に、セウスは笑いかける。
「私もいわば一平卒だからな。あまり硬いことは抜きにしていきたいと思っている。なにせ、ともに戦っていく仲間となるのだからな」
「しかし」
そう言い恐縮するフォーリヴズの肩を軽くたたくセウス王。
「期待しているぞ、隼のフォーリヴズ」
「・・・・・・・・・・光栄です、セウス陛下」
そう言い、敬礼したフォーリヴズを満足げに見てセウスは他の騎士たちにも声をかけていく。
あれが自分たちの王か、とフォーリヴズは輝くその姿を目に焼き付けた。




