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セアリエル  作者: 七鏡
私は理想のためにその手を汚すことができるだろうか
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二つのセアリエル

湖の近くで、セウスは剣を抜く。儀式剣はセウスの想いに答えて、その形を変える。青銀の光を放つ、刃の剣、セアリエル。トローア王国に伝わるセアリエルのオリジナルであり、選ばれた王にしか持てないという聖剣。

しかし、そうはいってもセウスにはいまいち実感がない。確かに彼は王ではあるが、歴代の王以上の存在であるとは思えない。この剣を持つに値するものなのか、セウスにはわからない。

それでも、セウスはこの剣を持って、仲間とともに理想に向かっていくつもりだ。

亡き父母のため、死んでいった英霊たちのため。未来のためにも、ラカークンの戦乱を終わらせるのだ。

セウス王はそう改めて決心し、踵を返し別荘に戻ろうとした。その時。

後ろにほんのわずかなサックを感じ、セウス王はしまいかけたセアリエルを引き抜き、敵の刃を防ぐ。

華奢な敵は、剣を構えていた。顔はフードで隠れて見えない。漆黒の襲撃者はち、と舌を討ち、セウスから離れる。

セウスは襲撃者の剣を見て、驚きに口を開けた。


「セアリエル、だと・・・・・・・・・・・」


セウスが驚愕するのも無理はない。襲撃者が使っている剣、それはトローアのセアリエルであったからだ。

父セオドア死後、その行方が分からなくなっていた宝剣。トローア王族の血をひく者にしか使えないそれを、襲撃者は使用していた。

セウスはセアリエルを構え、襲撃者を見る。


「貴様、何者だ?なぜ、セアリエルを持っている?」


「・・・・・・・・・・・・・」


襲撃者は答えず、フードの奥で光る金色の瞳をセウスに向ける。そして、くぐもった声で襲撃者は言う。


「その剣はなんだ?セアリエルに似ている、だがその魔力はあまりにも強大・・・・・・・・・・」


「貴様の質問に答える気はない。まずはこちらの質問に答えよ、そして我が父のセアリエルを返してもらう!」


セウスはそう言うと、青銀の剣を振り上げて襲撃者に切りかかる。襲撃者はその剣をトローアセアリエルで受け止めるが、セウスの力と剣によってわずかに押される。


「返す、だと?セウス、勘違いをしているな」


フードの襲撃者はそう言い、剣を弾いて数歩退く。セウスは剣を構えながら、距離を取り相手の出方を見る。


「この剣は私のものだ。セオドアでもなければ、貴様の物でもないぞ、セウス」


自身の権利を主張する襲撃者に、セウスは大きな声を上げる。


「そもそも、なぜ貴様のようなものがセアリエルを使える?トローア王族に、貴様のようなものはいないはずだ!」


セウスが言うと、襲撃者はクツクツと笑う。


「そうか、貴様は知らぬのか、俺が誰か。お前の父親の罪を」


「父上の、罪だと?」


セウスは剣を振りかざし、襲撃者を攻撃する。その剣を避けて、時たま反撃しながら襲撃者は言う。


「そうだ」


「父上は、立派な王であった!罪などない、善良な王だ!我が父を愚弄するつもりか、貴様っ」


「愚弄はしないさ、だが事実だ」


襲撃者はそう言い、自身のセアリエルを構える。フードの舌で襲撃者は嗤う。


「俺はな、セウス。貴様とは腹違いのきょうだいなのだよ」


フードの襲撃者の言葉に、セウスは衝撃を受けた様子であり、追撃の手を休めた。襲撃者はそれを見逃さず、セウスの腹を蹴り上げ、セウスの横にそれる。

体勢を立て直したセウスをあざ笑うように、襲撃者は剣を構える。


「今、貴様のいる玉座も、この国も本来ならば俺が手にするはずだったもの。だから、セアリエルも当然、王たる俺のものだ」


「嘘を言うな!貴様が私の兄とでもいうのか!」


「そうだ、と言っている!」


襲撃者はそう言い、セウスを見る。憎しみの満ちた瞳の奥に、業火が宿る。


「今までは貴様の隙にやらせてきたが、もう我慢ならない。セウス、貴様を殺して、俺があるべき場所に戻る時が来たのだ」


「横暴な・・・・・・・・・・・第一、なぜ父はお前の存在を隠した!」


セウスの言葉に、さあな、と襲撃者は答える。


「俺の母親が平民の魔女だったからか、王妃の怒りを買ったか。それはわからない。だが、八は俺を捨てた。母とともにな!そして、貴様が生まれた。貴様さえ生まれなければ、俺は、母は・・・・・・・・・」


憎しみのこもった言葉に、セウスは何も言えない。何も知らずに生きてきたセウスにとって、襲撃者の言う言葉はあまりにも感情が籠っており、憎しみを直接訴えてきていた。哀しみ、怒り。その感情がセウスを圧倒する。

セウスのきょうだい、と言うならば確かに王位継承権はある。だが、だからといってはいそうですか、と王の座を渡すわけにはいかない。

王の座は血統ごときで勤まるものではない。それに、襲撃者は飽くまで自身の欲望のため、玉座を求めている。

そんなものに、明け渡す玉座などない。

セウスは立ち上がり、真のセアリエルを構える。

そうだ、セウスは王なのだ。どうあがいても、彼は生粋の王であった。愚鈍なまでに夢を追い続ける、それが彼と言う王の姿。

だからこそ、人は彼に希望を託し、仕える。自身の欲望の身に従うものに、誰もついて行くことなどないのだ。


「愚かな、俺に刃向う気か?」


戦う姿勢をいまだ見せるセウスにそう言う襲撃者。


「ああ。私は王だ。この国の王だ。このトローアを父から託された。多くの想いを私は託された。その人々のためにも、私は王であり続ける。たとえ、それが本来貴様の物であろうとも」


「小賢しい弟だ、剣の錆びにしてやるぞ、セウス」


月明かりと木々の放つ魔力光に包まれ、二人のトローアの血をひく者はセアリエルを構えた。

闇を切り裂く一撃が、セアリエルから放たれ、二つの剣がぶつかり合う。

斬撃をかわし、受け止め、二人は剣を相手に目がけて繰り出す。

セウスの持つセアリエルの斬撃は強力であるが、トローアセアリエルで襲撃者はそれを受け止める。

セウスは技術では襲撃者に劣っている、と感じていた。その分は、セアリエルでカバーする。

襲撃者は手数では勝っているが、どうしてもセウスの攻撃を避けることに専念せざるを得ない。セウスの腕は十三歳とは思えぬものであり、セアリエルの一撃を喰らえば間違いなく、危険である。下手をすれば死ぬのだから、下手にならざるを得ないのだ。


「く、ぅ」


徐々に襲撃者は押され始める。セウスはそのスキルで肉体の傷も体力も瞬時に回復する。一方、襲撃者にはそんなスキルはないため、長期戦になれば明らかに襲撃者の方が不利であった。

セウスが一人になり、隙ができたと思い襲撃した。その際に一撃で殺せなかった時点で、襲撃者は逃げるべきであった。襲撃者はセウスの腕とその武器を侮りすぎていた。


「・・・・・・・・・・・ちぃ」


襲撃者は口惜しそうに唾を吐き捨て、大きく後ろに飛び退いた。


「セウス、今日はここまでにしてやろう!だが、忘れるな。この国は俺のものだということをな!その時が来るまでは、貴様にこの国の王座を預けておこう」


そう言い、襲撃者の姿はユグラドの木々に消えていった。セウスはそれを追いかけようとするが、闇が濃くなり襲撃者の影も見えなくなってしまい、断念せざるを得なくなる。


「私のきょうだい、か」


セウスは呟くと、別荘に戻る。

今のことを、ペルゼンに聞かなくては。そう思い、セウス王はセアリエルを鞘に納め、夜光の森の中を歩く。




襲撃者のことを聞き、ペルゼンは護衛たちは何をしていたか、と珍しく激昂する。別荘を張っていた護衛たちがその者たちを探しに行くと、森の中で数名の騎士が絶命していた、と言う。

ペルゼンはなんたることだ、と絶句した。

そんな魔術師にセウスは言う。


「おそらく、奴はもうこの周辺にはいないだろう。私の持つセアリエルの存在を知らなかったのだろう」


そう言い、セウスはペルゼンを見る。


「それよりもペルゼン。奴は気になることを言っていたのだ」


「気になること、ですか?」


バルドバラスやセリーヌたちもその言葉に耳を傾ける。セウスは重々しく口を開く。


「その襲撃者は私のきょうだい、なのだと言っていた」


「!?あり得ない、セオドア王の子息はセウス様の身のはず・・・・・・・・・!」


ペルゼンでさえ知らないか、とセウスはため息をつく。


「私もそう思った。だが、奴は自分が父上の子どもだと確信していたし、それに失われたセアリエルを使っていた」


「セアリエルを・・・・・・・・・・」


セアリエルを使えるのは、トローアの血を継ぐ者のみ。太古の昔、ドワーフによって作られたこの剣は、代々トローアの王族のみが使えるよう、封印がなされている。セウスが言うには、その封印は壊れておらず、それはつまり無理やり使用しているわけではなく、襲撃者が間違いなくトローアの血をひく者である、という証明にほかならぬ、と言うことなのだ。

ありえない、と首を振り、ペルゼンは言う。


「セオドア王にあなた以外のお子がいるなど、信じがたい」


「父上も母上もなき今、それを確かめるすべはない、か」


「城の物ならば、知っているものもあるいはいるかもしれませんが」


ペルゼンの言葉に、セウスはどうだろうな、と呟く。

知っているのならば、父母の死後、自分に何か言ってもいいはずである。王の子どもならば、何か野心を抱く、と言うこともあり得る。

そのものに口封じされている可能性もあるが、セウスは自身の国の者たちがあのものと手を結んでいるとは信じたくはなかった。


「何はともあれ、そのものはまだセウス様を狙っているのですね?」


「しばらくは預ける、と言っていたからな。いずれは王座を奪うつもりなのだろう」


「なんということだ」


ペルゼンは呟く。まさか、そのようなものがいるとは彼も思っていなかった。セアリエルの紛失の時でさえ、そのようなことは考えなかった。

王妃プリシアを愛していたセオドア王に限って、そんなことはないものだと思いたい。それはセウスもペルゼンも、この場にいる全員の想いだ。だが、その可能性があり、当人が何も言えない以上、彼らは襲撃者がセオドア王の子どもである、と仮定せざるを得ないのだ。


「とにかく、セウス様。なるべくおひとりにはならないように。そして、常にセアリエルを帯剣してください」


そう言い、ペルゼンはバルドバラスらを見る。もう間もなくすれば、王立アカデミーもまた始まる。護衛もつくが、いざとなればバルドバラスらにも盾になってもらわねばならない。

そんなペルゼンの想いを悟り、バルドバラスは頷く。アノガルやツェツィーリアも静かに頷いた。


「セウス、大丈夫?」


父王のことやきょうだいのことで衝撃を受けたであろうセウスにセリーヌはそう言うと、セウスは少女に笑みを返す。


「大丈夫さ。私は、私の信じる道を行くまでだ」


たとえ、血を分けたきょうだいと言えども、立ちふさがる敵ならば倒すのみだ。

セウスはセアリエルの柄を撫でると、静かに息を吸い、強い瞳で窓の外の月を睨む。






襲撃者は姿を変え、大地に伏せる。

セウスの追撃をかわすために自身のスキルで姿かたちを変え、逃げてきた。宮廷魔術師ペルゼンなどに知られても厄介であるため、魔術を使うこともできなかった。

襲撃者は近くにある小さな泉を見ると、黒い衣を脱ぎ捨て、生まれたままの姿になり、傷をいやすために泉に入る。


「ああぁ!!」


傷が染みて痛みが襲う。襲撃者はあえぎ声を上げた。

傷口の血を洗い流し、襲撃者は近くに置いてあるセアリエルを見る。

セウスの持っていたそっくりの、けれどはるかに強いセアリエル。弟であるセウスは、襲撃者よりも何もかもが恵まれている。

同じ父を持つというのに、なぜこうまで差があるのだろうか。

襲撃者は弟セウスを憎んだ。何もかも恵まれた弟の存在を、どれだけ恨んだことか。

父セオドアも死に、王妃プリシアも死んだ今、彼女が憎むべき相手はセウスしかいない。

セウス、いつか貴様からすべてを奪ってやる。命も王位も、国も貴様の持つセアリエルも。


襲撃者は顔を上げて、月を見る。

煌めく月を見る襲撃者の髪は、美しい砂色の長髪であり、その長髪が美しい曲線を描く女体を覆っていた。

セオドア王の娘であり、セウスの姉である少女は静かに紅色の月を睨んだ。


紅色の月は、運命を司る女神アテンシャの月。不吉とも幸運ともいわれる月。

その月を見ながら、少女は誓う。

彼女が本来持つべきだったものを、弟から奪い尽くすことを。


黄金色の瞳が、闇の中で静かに煌めいた。

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