↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒犬と旅する異世界  作者: 緋龍
黒犬と占いを始めるに至った理由
PR
24/86

24話 暗

 クレイは吐き気から立ち直ると少しふらつきながら大広間へと戻って行った。伯爵についての詳しい説明は『ソルドの誘(いざな)い』が終わった後ですることになっているので、彼が去る前簡潔に「見つけた」とだけ伝えた。雷華は《色のない神》と思しきモノがいた場所についても、改めてその場で尋ねるつもりだった。


 伯爵と対峙して精神的に疲れた雷華は、夜会が終了する前に部屋に引き揚げた。今日はここに泊まることになっており、豪華な客室をあてがわれていた。部屋に入ると灯りもつけずにドレスのままベッドに倒れ込む。この後クレイと話さなければならないので、眠るつもりはないが少し横になりたかった。


「大丈夫か? ライカには辛い光景が見えたのだろう?」


 ルークが雷華の顔のすぐ傍にやってきて、気遣うような優しい視線をなげかけてくる。


「そうね……かなり衝撃を受けたわ。でも、おかげでここがどういう世界かを知ることが出来た」


 ここは自分のいた世界よりも、簡単に人が死ぬ。そして、ここで生きるためにはそれなりの覚悟が必要なのだと理解した。

 

「この世界が嫌になったか?」


「ううん、そうじゃない。私がいた世界と同じ考えじゃ駄目なんだなって思っただけ。ここに来てから出会った人は皆良い人ばかりだったから……伯爵のような極悪人がいるって知れてよかったわ。これからは、もう少し気を引き締めて旅をしないとね」


 ルークの頭を繰り返し撫でる。彼の黒くてふさふさの毛並みは、雷華の心をほんわり癒してくれた。


「今日はずっと撫でても怒らないのね。こないだはぶつぶつ文句言っていたのに」


「そ、それは! ライカが元気がないようだったから……け、けしてライカの手が心地よいとか、そんなことは思っていないぞ!」


 言い訳しているようだが、本音がだだ漏れしている。


「そう、私の手は心地いいのね。じゃあ抱きしめても――」


「断るっ!」


 雷華が起き上がってルークに両手を伸ばすと、彼は思いきり後ろに跳躍して逃げた。


「どうしてよ。前はさせてくれたのに」


「あ、あれは不意を突かれて避けられなかっただけだ! 忘れたのか、俺は人間の男なんだぞ!」


 泣きそうになっているのか、ルークの黒い瞳がきらきらと輝いている。


「もちろん忘れてはいないけど、ルークって毛がさらさらふさふさで気持ちいいのよね。それに可愛いし」


「心外だ! 少し外を歩いてくる!」


 ルークはぷりぷり怒りながら扉に向かって歩いて行く。その後ろ姿を見て雷華は思わず笑みがこぼれた。いくら怒っても彼の姿は黒色の愛らしいコーギーにしか見えず、どうしても可愛いと思ってしまうのだ。


「はいはい、気をつけてね。侍女さんに捕まったらきっと可愛がられると思うわよ」


「…………」


 雷華が笑いを噛み殺しながら見送りの言葉を口にすると、ルークは振り返ってじとーっと睨んでから、ぷいっと顔をそむけ部屋から出て行った。


 (ふふ、ルークってやっぱり可愛いわ。……ん? そういえば彼って王子だったわね。ということは婚約者とかいるのかしら? いや、もしかしてすでに既婚者? 今まで考えもしなかったけど、その可能性も十分あるわよね。もし結婚してたら奥さん心配しているでしょうね)


 再びベッドに仰向けになった雷華は、ルークについて考えを巡らせる。


 (結婚か……私は出来そうにないわね。仕事に夢中で、家庭を持つなんて考えたこともなかったし。なによりそれ以前に相手がいないものね。好きになった相手は私が刑事だって知ったとたんによそよそしくなるし、付き合っても長く続かないし、はあぁ。……ん?)


 もやもやと自分のことについて振り返っていると、窓の外に誰かがいる気配を感じた。雷華はベッドから立ち上ってバルコニーがある窓に近づく。この部屋は三階にあるので、誰かが外から入ってくるとは思えないのだが。


「考えられるのはルークだけど、さっき廊下に出て行ったしなあ」


 気のせいかなと思いつつも、一応確認しようと窓に手をかけたその時、突然黒い人影がバルコニーに現れた!


「なっ、うわっ!!」


 咄嗟に後ろに下がったのだが、うっかりドレスを踏んでしまい尻もちをついて転んでしまった。その間に人影は窓から部屋に侵入し、雷華の前に立ちふさがってくる。暗いのでよくわからないが、侵入者は全身を黒い衣服で覆っているようだ。バルコニーから来たことといい、どう考えてもまともな客ではない。


「だ、誰?」


 頭の中で警鐘が鳴り響いている。目の前の人物は危険だと、そう直感が告げていた。


 (よりによってドレスの時に)


「……占い師のライカだな」


 侵入者の声は抑揚がなく無機質だった。


「そうだけど、残念ながら今日の受付は終了したわ。占って欲しいなら、また明日来てちょうだい」


 平静を装って軽口を叩いたものの、緊張で額に浮き出た汗が頬を伝う。


「貴様に恨みはないが、死んでもらう」


 淡々と告げたかと思うと侵入者はどこからか短剣のようなものを取り出し、雷華に向かって勢いよく振りおろした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。