【086】きさらぎ駅
この日、ぼくはバスに乗って、きさらぎ駅へと向かった。今日もおばあちゃんが座っている。窓の外を見てから、ふとおばあちゃんを見ると、また床がぬれていて、おばあちゃんはどこにもいなかった。とっても不思議だ。
きさらぎ駅でバスをおりると、待ち合わせをしていた水間さんが、もう来ていた。
昨日、步夢くんの服を選ぶのを、手伝って欲しいとお願いされたから、ここで会う約束をした。ぼくも薺に買ってあげたいと伝えたら、お父さんが臨時のお小遣いをくれた。
「こんにちは」
「ああ、瑛。元気そうでよかった」
二人で駅ビルに入ると、すぐに服のお店がならぶ場所に出た。
「ぼくはね、ここがお気に入りなんだよ」
「そうか」
子供服専門店に入って、ぼくはマネキンがきている服を指さす。
「これなんか、どう?」
「ああ、步夢に似合いそうだな。最近の流行は、こういう服なのか?」
「うん。小学校でも大人気」
「昔とはずいぶん違うな」
「水間さんのころは、どんなのだったの?」
「せいぜいキャラクターのプリントがされたTシャツだったな」
「ふぅん」
ぼくはチェック柄のズボンを手に取りながら、たしかに今とはちがうと思った。あんまり学校では、キャラクターのプリントは見ない。それからぼく達は見て回り、いくつかの服を買った。それが終わったので、僕は正面にあるおもちゃコーナーを見た。
「ぼくね、薺におもちゃを買っていこうと思うんだ」
「そうか。俺もそうするか」
「うん、一緒に行こう!」
こうして続いておもちゃを見に行った。
ぼくも、買ってもらうほうからあげるほうになったんだなと考えたら、不思議な気持ちになった。少し、照れくさい。ぼくはおみやげに、ロボット工作キットを買った。最近これも、学校で大はやりだ。
「今日は付き合ってくれてありがとう。お礼に飲み物をおごらせてくれ」
「え? 大丈夫だよ」
「気持ちの問題だ」
「うん、ありがとうございます!」
ぼく達は、おもちゃコーナーを出てから、カフェに入った。そこでぼくはココア、水間さんはコーヒーを注文した。トレーを持ってイスに座る。
そこでぼくは思い出して、水間さんにふうとうをわたした。
「これは?」
「学習発表会のチケットだよ。二枚入ってる」
「ああ。そういえば。ありがとう、瑛」
「ううん。二人にも見てもらいたいし――……あ、でも……」
ぼくはそこで、水間さんに道家くんのこと、図書室ピエロのことを話さなければと考えた。
「あのね、図書室ピエロのことなんだけど」
ぼくがきりだすと、水間さんが真面目な顔になった。ぼくはけおされそうになったけど、がんばって続きを言う。
「今、学校に通ってるんだ」
「ああ、泰我から聞いている」
「え? そうだったの?」
「まぁな。長い付き合いだからな。正直、俺は複雑だが」
「……」
「とはいえ、寂しがりの子どものピエロの、邪魔をしたいとも思わない。だから、たとえば学習発表会で顔を合わせても、俺は特になにもしない。安心してくれ」
ぼくの考えを見すかしたように、水間さんがそう言って苦笑した。
「そ、そっか」
安心しながら、ぼくはココアを飲み込んだ。甘い味がする。最近は寒くなってきたから、温かい飲み物がおいしい。
そうしてカフェでお話をしてから、ぼく達は外に出た。それからぼくは、帰りは電車で帰る予定だったので、水間さんに送ってもらって改札に向かった。
すると、不思議なことがあった。
いつもはこんざつしているのに、ぼくと水間さん以外、誰もいなかった。
「あれ、おかしいね?」
「まずい、出るぞ」
水間さんが強引にぼくの手首をつかんで、早足で外に向かって歩きはじめた。
とってもしんこくそうな顔をしている。
「水間さん、どうしたの?」
外に出て、たくさんの人がいるのを見たら、安心したように水間さんが立ち止まって、大きく息を吐いた。それからぼくを見ると、カタで息をした。
「俺達は、『きさらぎ駅』に迷い込むところだったんだ」
「え? ここはきさらぎ駅だけど……?」
「ちがう。都市伝説のほうだ」
「? どんな都市伝説なの?」
「かんたんに言うと異世界の入り口の駅なんだ。たまにそちらの『きさらぎ駅』に、この駅は通じるんだ」
「どういうこと?」
「世界には、こちらの世界と、都市伝説の怪異などがいる『あちら側』があるらしい。きさらぎ駅の場合は、そのあちら側につなががっているんだ」
「あちら側のきさらぎ駅に行くとどうなるの?」
ぼくが質問すると、けわしい顔で水間さんが言う。
「人が誰もいなくなる、これが始まりだ」
「うん、さっきと同じだ」
「ああ。それから太鼓の音が聞こえはじめる。そして、鈴の音が聞こえたと思ったら、線路の上を片足の老人が歩いてくるそうだ。それから『線路の上を歩いてはいけない』と見た者に告げる。そのまま老人は消える。それを守らず線路の上を歩くと、もう戻れない異世界に行くことになるんだ」
ゾクゾクとした。もしぼく達は、あのままホームに行っていたら、どうなっていたんだろう。
「今日は俺の車で家まで送る」
「う、うん」
ぼくは青い顔をしたままで、歩き出した水間さんについていった。
そして車で送ってもらい、手を振り別れてから、マンションに入った。
家につくと、薺がリビングから顔を出した。その顔を見たら、やっと現実にもどってきたみたいな気分になり、ぼくはほっとした。
「おみやげだよ」
そう言ってぼくが服とおもちゃのふくろを渡すと、薺がうれしそうに、ほほを持ち上げた。いやされる。
「ありがとう、瑛にいちゃん」
「ううん」
「わぁ、ロボットが作れるの?」
「うん、そうだよ」
「すごい!」
クツを脱いで中にあがりながら、ぼくは薺と二人でリビングにいく。
その後は二人で、ロボット作りをした。ぼくが手伝いながら、薺ががんばった。
本当によろこんでくれて、ぼくはうれしい。




