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図書室ピエロの噂  作者: 鳴猫ツミキ(水鳴諒/猫宮乾)
【SeasonⅡ】―― 第三章:放送室の幽霊 ――
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【075】洗面器で視える未来の恋人

 その夜、ぼくは夢を見た。

 ぼくがいる場所は、洗面器の下みたいだった。目の前に、水面(みなも)がある。

 たまにゆがむそのむこうに、哀名の顔がある。目が合うと、哀名が息をのんで、あわてたように顔を上げた。すると、手に持っていたカミソリが落ちそうになった。ぜったいに落ちてくると思って、ぼくはさける用意をした。哀名のふるえている手から、やっぱりカミソリはぽろりと洗面器の中、つまりぼくがいる水の中におちてきたので、ぼくはそれをさけた。だけどほほにちょっとだけ痛みがはしった。


 アラームの音がしたのはそのときで、ぼくは上半身を起こした。

 やっぱり夢だった。もう朝だ。

 学校に行かないと。

 ぼくは顔を洗いに向かった。


「あれ?」


 すると右のほほに、うっすらと血がにじんでいた。皮がちょっとだけ切れたみたいな傷がある。昨日夢の中で、カミソリがかすった場所だ。


「夢だったんだよね……?」


 不思議に思いつつ顔を洗うと、水がしみた。 絆創膏(ばんそうこう)をはってから、ぼくは学校に行くことにした。


 ぼくが自分の机にランドセルを置くと、立ち上がった哀名が、ぼくのうでの服をひっぱった。


「楠谷くん」

「うん?」

「そ、その……ほっぺ、大丈夫……?」

「ああ、ぜんぜん平気だよ」


 やっぱり絆創膏は目立つようだ。それよりも、夢の中にでてきた哀名と、現実の哀名がおんなじに思えたから、自分に対して苦笑しそうになった。ぼくは本当に哀名が好きで、夢にまで見てしまったらしい。


「哀名さん!」


 そこへ七海さんが歩いてきた。


「洗面器のカミソリ試した?」


 七海さんがそういうと、哀名がビクッとした。カタがはねていた。


「昨日お昼の時に話した奴!」

「……」

「ほら! 未来の 旦那様(だんなさま)が見えるって言う奴!」


 無言の哀名を見ながら、ぼくは七海さんの声に、首をかしげた。

 旦那様ということは、女子限定の占いなのだろう。


「七海さんは、西くんが見えたの?」

「もちろん!」


 ぼくが聞くと、七海さんがすごくうれしそうな笑顔になった。

 幸せそうでなによりだ。


 それから授業がはじまって、すぐに放課後になった。帰ろうと思ってランドセルを手にしたとき、哀名がぼくを見た。


「楠谷くん、ちょっといい?」

「うん?」

「ついてきて……」


 哀名はどこかうかない顔をしている。うなずいてぼくがランドセルを持ってついていくと、誰もいない階段のところで、哀名がいきなりぼくに頭を下げた。


「ごめんなさい」

「えっ? ど、どうしたの!?」


 ぼくの声に顔を上げた哀名は、泣きそうだった。


「そのキズ、私のせいなの」

「どういうこと?」

「昨日、私……洗面器に、カミソリを落としてしまって……」


 ぼくも同じような夢を見たけど、もしかして現実のことだったのだろうか。


「へ、平気だよ! ぼくはよけたし」


 それに……もしぼくが哀名の未来の旦那様だったなら、洗面器の中にぼくが見えたんだったら、それはすごくうれしい。ぼくは喜んだ。だけど、好きな人がいる哀名は、どう思ったんだろう。聞きたいけど、勇気が出ない。


「ありがとう、楠谷くん」

「ううん」


 ぼくは笑顔を浮かべて、階段を見る。


「また明日。哀名、本当に気にしないでね」

「ええ」

「またね!」


 哀名に笑顔がもどったので、ぼくはほっとしてから家に帰ることにした。





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