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自称・未来人の幼馴染  作者: 千夏ケイ


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第35話 幼馴染がよくわからないので友人に聞いてみた

 歩き続け、俺たちはようやく学校についた。

 学校の時計を見ると、8時20分を指している。

 遅刻ではないにしろ、結構ギリギリだ。


「祐奈、もう学校についたぞ」

「そんな……離れなきゃダメ?」


 縋るような目で祐奈が見つめてくる。

 加えて、上目遣いなので、その威力はとんでもない。


(……っ! あぶねぇ……)


 思わず抱きしめそうになったが、公衆の面前、それも高校の目の前であることを思い出してやめる。

 あくまで人の目線があるからやめただけだ。決して俺がヘタレなわけではない。2人きりだったらもっと、こう……何かするはずだから。


「こんなことして、噂されてもいいのか?」

「噂? 別にいいよ。ひろくん以外どうでもいいし」

「お、おい。それって……」


 眉すら動かさず、さも当然かのように祐奈がさらっと言う。

 心臓が跳ねると同時に、1つ思ったことがあった。


「それって、俺のことが好きってこと?」


 そう。考えたら俺は、祐奈から好きと言われたことがなかった。

 キスは何回もしてくるのに、言葉は1度もない。

 俺も祐奈に好きって言っていないし、仕方ないのかもしれないが。


「……どうだろうね」


 先ほどまでの甘い雰囲気はどこへやら。物憂げな表情になった祐奈はスルッと俺の腕から離れていく。

 ……あれ? 好きじゃないの? キスしているのに?


「私、先に行くね?」


 女の子って、好きじゃない人とでもキスできるのか? そんなことはないはずだ。

 でも、何回もキスするほどキス好きの祐奈だったら……いや、祐奈に限ってあり得ない。精神年齢ははるかに高いんだ。そういうところはしっかりとしているはず。

 ダメだ。頭の中がグルグルしている。


 混乱から回復した時にはすでに祐奈はいなかった。

 それに、時計の針が8時25分を指しているのを見て猛ダッシュする羽目になった。

 せっかくゆっくりと登校したのに……



「——ってことが朝にあったんだけどさ。タツ、どう思う?」


 ついていくので精一杯な授業を終え、放課後の校門。俺は帰宅しようとしていた友人を捕まえて聞いてみた。


「東川さんのことはよくわからないよ……」

「まぁ、そうだよな」


 幼馴染の俺ですらわからないのに、わかるわけないか。


「じゃあ、一般論としてはどうだ? 腕を組んで登校するくらい仲が良くて、キスの経験もある男女に恋愛感情はあると思うか?」

「腕を組むくらいは恋愛感情なくてもできそうだが……ん? ちょっと待て」


 あ、まずい。キスの経験もある、なんて言っちゃった。これじゃ、俺と祐奈がキスしたってバレバレだ。

 どうかバレていませんように。俺は奇跡を信じて祈る。


「今、キスの経験もあるって言ったか?」


 ですよね。

 タツはそこに気付かない人間じゃない。


「まぁ……そうだな。何回かしたぞ」

「……そうか。東川さんは本気なんだな」


 タツが真剣な顔でつぶやく。


「本気、ってどういうことだ?」

「そうだな……宏樹、お前はこれからなにが起こるか知っているか?」


 何が起こるか、か。

 タツはぼかしているが、恐らくはホワイトデー……俺の死のことだろう。


「知っているぞ。祐奈が教えてくれたからな」

「だったら言うが、宏樹。これから死ぬ奴に東川さんがキスをするわけないんだ」

「いや、そんなことないだろ。死に際にキスするなんて探せばいくらでもあるんじゃないか?」


 現実のことはわからないが……映画やアニメ、漫画など、様々な創作物でこのシチュエーションは描かれている。

 こういった創作物がたくさんあるんだし、普通にあってもおかしくはない。


「違う、これは一般論じゃない。東川さんは一般人か?」

「未来人、だな」

「だろ? そして、東川さんは思い出を作りに来たわけじゃない」


 そうか、そういうことか。タツの話がやっと理解できた。

 つまりはこういうことか。助かる見込みもないのにキスすると、俺が死んだときの精神的負担がその分とんでもないことになる。ただの幼馴染から、そういうことをした相手に関係性が少し変わってしまうから。だからこそ、思い出作りでもないのにキスなんてしないってことか。


「なるほど、祐奈はちゃんと助けようとしてくれているんだな」


 言葉では何度も助ける、と言っていたが、こうして行動に表れているのがわかるとやっぱり嬉しい。

 

「みたいだな。ほんと、俺が愚かに感じるよ」

「愚か? 何の話だ?」

「あぁ、いい。こっちの話だ。気にしないでくれ」


 こんなにも秀才で、タイムループの力まであるタツが愚かだとしたら……俺は一体何なんだろうか。


「そんなことよりさ、体育祭楽しみだよな」


 露骨すぎる話題転換だ。触れてほしくないならそうしてあげるか。俺は配慮ができる男だからな。


「楽しみではないだろ。俺たち、100m走るだけだぞ?」

「そうかもしれんが、学校公認で勉強から解放されるんだ。喜ぶべきじゃないのか?」


 そこは嬉しいけど……正直、退屈な時間とトントンだ。


「なんか納得いってなさそうだな」

「まぁな。暇そうだなっていう気持ちのほうがでかい」

「暇、か。そんなことを言っていられるのも今のうちだぞ? 知らない奴がする競技でも楽しいかもしれないし。それに——」


 話している最中、俺の背中を叩いて、自分の家路へとタツが走り去っていく。


「俺の走りで感動させてやるからな!」


 こちらに向かって大声で叫んでくる。

 走りで感動、ねぇ……世界新記録達成の瞬間をテレビで見ていたのに、凄いなという感想しか出なかった俺が感動なんてできるのだろうか。


(ま、そこまで言うんだ。感動の走りとやらを期待してやるか)


 体育祭が少しだけ楽しみになった——のも束の間、俺はとあることを思い出してしまう。


「あれ、そういえばタツって運動できなかったような……」


 俺の独り言は風に乗って消えていく。

 でも、そうだよな。あんなにも楽しそうに、自信満々そうにしていたから忘れていたけど、タツは運動がからっきしだった。


 タツの方を見ると、まだそこまで走っていないというのにもう膝に手をついていた。

 タツも後ろを振り向き、俺と目が合ってしまった。

 バツが悪そうに再び走り出す。コケそうになりながら。


 だけど、それを見て俺は笑う気にはなれなかった。むしろ——


(ここまで運動ができないのに嫌がるそぶりを見せないなんて……)


 俺はタツに感心していた。

 俺も頑張らないと……そんな気にタツはさせてくれた。

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