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自称・未来人の幼馴染  作者: 千夏ケイ


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第33話 キャンプは運命を変えられたのか

 カレーを食べ終わり、後片付けを終えたころにはすっかり日が沈んでいた。

 天と地による紅いコラボレーションはもう見られない。

 調理が簡単な具材を用意してくれたおかげでカレー自体はすぐにできたが……ちょっと話過ぎてしまったな。

 でも、楽しかったのだからそれでいい。


 それに、今気にするところはそこじゃないしな。


「で……本当に一緒に寝るのか?」

「もちろん。逆にどこで寝るつもりなの? テントもない秋の夜に」

「そんなことをしたら、それこそ先輩の命が……!」

「それはそうなんだが……」


 そう、夜が来た。それはつまり、あまり考えないようにしていた寝床問題と向き合う時間が来た、ということだ。

 冬まであともう少しなこの季節。熱帯夜なんていう言葉とは無縁で、むしろ夜は寒さすら覚える。

 こんな大自然の中、何の対策もなしに野宿をしたら、関口の言う通り無事では済まないかもしれない。

 

「さっきも言ったけど、ひろくんは私たちを襲うなんてありえないんだから大丈夫だよ」

「そうですよ! 先輩は安心安全って信じていますから! だから、先輩は私たちのことを気にせず、一緒に寝ましょう!」

「…………」


 穏やかに笑う2人からは一切の警戒心が感じられない。

 これは信頼されていると言っていいのか?

 なんだか男としてナメられている気がしなくもないが……


 なんだか癪だ。

 ここは男の怖さっていうのをわからせてやるか。


「まぁ、それしか方法がないもんな。でもな、俺だって男だ。何が起きるかはわからんからな……後悔するなよ?」

「後悔は……多分しないよ」

「それはそれでいいかもですし……」


 何の効き目もなかった。

 そりゃそうだ。2人とも俺にキスした経験があるのだから。

 キスできるだけの好意はあるんだ。ある程度までなら何の問題もないだろう。


(寝静まった後に襲うフリだけでもしようかと思ったが……やめておくか)


 それをやってしまったら、多分大変なことになる。俺が。


「……寝るか」

「あ、ひろくんはもちろん真ん中で寝てね」

「真ん中か……だろうとおもった」


 これに関しては予想はついていた。

 一緒に寝ることに何の抵抗もないくらいだ。どうせ端で寝かせる気なんて更々ないだろう、と。


 テントに入り、真ん中に寝袋を敷く。

 俺の右で祐奈、左では関口が同じように寝袋を敷き、入っていく。

 一緒に寝るとはいえ、さすがに少しは距離をとってくれているみたいだ。非常に助かる。


「あれ、ひろくん? 寝ないの?」

「寝るよ。でも、ランプを消さないとだろ?」

「あ、そっか。ごめんね、もう寝袋に入っちゃった」

「先輩、ありがとうございまーす!」

「いいんだよ、このくらいな」


 今から一緒に寝ることと比べたら、ランプを消すくらいどうってことない。

 ランプを消し、視界が黒く染まる。少し先すら見えないこの状況……その気がなくても祐奈たちに何かしてしまいそうだ。

 だが、ここは現代。スマホの明かりをつけて、俺の寝袋をしっかりと確認すれば問題ない。


 問題ない……はずなんだけどな。


「……何をしている?」

「あ、どうしましょう祐奈先輩、バレちゃいましたよ」

「いいの、このまま寝たふりでもしていたら寝てくれるから」

「いや、全部聞こえているんだけど」


 暗闇になった隙を狙ってか、2人の寝袋がぴったりと俺の寝袋にくっついていた。

 3人用とだけあって、テントはそこそこ広いのに。


「ほら、ひろくん。私たちは寝てるから」

「そうですよー……! すやーすやー……」

「寝てないじゃん」


 どうやら嘘をつく気はないらしい。

 勢いのみの正面突破でこのまま寝るつもりだ。


「……わかったよ。そこで寝ればいいんだろ?」


 ちょっと考えたが、こうなってしまった祐奈はテコでも動かない。

 一応寝ている女の子、という設定なので、俺が無理に手を出すわけにもいかないし。

 覚悟を決めて、寝袋に入る。

 

「やった! 良かったね、翼ちゃん」

「………………」

「つ、翼ちゃん?」

「……関口?」


 何も話さなくなった関口の方を見ると、彼女はすでに寝ていた。

 先ほどの嘘寝息とは違う、穏やかな寝息がかすかに聞こえる。


「……寝ちゃったみたい」

「寝たふりで本当に寝るなんてな……」

「ふふっ、なんだか子供みたい……って子供か」


 関口はまだ中学生。義務教育すら終えていない女の子だ。

 乗り継ぎやはしゃいだことによる疲れには、肉体的にも精神的にも勝てなかったのだろう。


 俺は男で体力はそこそこあるし、祐奈はタイムリープによって精神年齢は見た目より上だ。

 そんな俺たちについて来ようとすると、こうなるのも無理ないか。


「ひろくん、今変なこと考えなかった?」

「変なことってなんだ? 特にやましいことは何も考えていないぞ?」

「本当? 祐奈の精神年齢は、とか考えてない?」

「…………」

「あー! 考えてたんだ! ひどい!」


 寝袋でダイレクトアタックされる。

 何歳の時にこの時代にタイムリープしたかそういえば聞いていなかったが、これは聞かなくて正解だったっぽいな。女性の年齢はタブーらしい。


 しかし、攻撃がやまない。俺が悪いだけにどうすることもできない。

 ここはもう、寝てやり過ごすしかないな。


 そうと決めた俺は、揺らされながらではあるが、睡魔の導くままゆっくりと意識を手放した。



 ♢


 

 翌日の朝。唇にあたる柔らかな感触で目覚めると、そこには祐奈がいた。


「おはよう……祐奈、何かした?」

「いや、何も? キスなんてしてないよ」

「絶対しただろ。それ以外に考えられん」

「してないって。デリカシーがなくて、謝らずに寝たひろくんにキスなんかするもんか! まぁ、私は根に持つタイプの人間じゃないんだけどね!」


 めちゃくちゃ根に持ってる。

 しかし……キスじゃないとしたらあの感覚は一体——


「……っ! なんか、唇に刺激が来たんだけど……!」

「お、効いてきた? 実はこのリップを塗ったんだよね」


 と言うと、祐奈が俺にリップを見せてくれる。

 だが、俺は男だ。これ、と言われてもわからない。


「それ、なんなんだ……?」

「これはね、唇のボリュームアップ効果もあるリップだよ」

「リップってそんなものがあるのか……痛い……」

「女の子のおしゃれはね、我慢の連続なんだよ。それを味わって、女の子の気持ちを少しでもわかってね」


 どうやらこれは昨夜の仕返しらしい。

 塗られたリップは、着実にダメージを与えてくる。

 こんな攻撃を女子たちは我慢しているのか……女の子ってすごいな。


「そういえば、関口は?」


 痛みが若干引いてきたので、俺は祐奈に関口の居場所を聞いた。

 起きた時からすでにいなかったのだ。


「翼ちゃんなら外で片づけをしてくれてるよ。テント運びと料理を先輩たちが頑張ってくれたからこのくらいは私が、ってさ」

「へー、そんなこと気にしなくていいのにな」

「まぁね。でも、私はひろくんに仕返し——じゃなくて、モーニングコールしたかったから任せちゃった」


 今、確実に仕返しって言ったよな。


「ごめんって、もう年齢のことは考えないから」

「別にいいけどね? うん。だって、肉体はまだ高校1年生だし? なんだってできるし?」

「…………」


 俺は何も言えなかった。何が地雷かわからないから。

 でも、そうだよな。現代の技術では想像すらできないタイムリープを実現するくらいだから……


 ……いや、やめよう。さっき考えないって言ったばかりじゃないか。


 気付かれないうちに話を変えよう。


「しかし、キャンプに来たはいいけど……これで何か変わるのか?」

「変わっている……というか、変わってくれていないと困るよ」

「でも、今回は何の危険にも遭ってないぞ?」

「……そこはちょっと引っかかるんだよね。考えてもわからないから、気にしすぎるのもいけないんだけど……」


 溺れかけた海とは違い、今回は何も起きなかった。

 果たしてこのキャンプが運命にどう影響するのか。キャンプに行くこと自体で運命を変えられるのか、大きな出来事が起きていないから何も変えられないのか。全くわからない。


「まぁ、そうだな。気にしすぎるのも良くない。ほら、俺たちもテントを片付けちゃおう」

「……そうだね。考えてもわからないことは動いて忘れよっか」


 俺たちは一緒にテントを出る。

 他の物を片付けていた関口も加わって、3人でテントを片付ける。


 しかし、考えても意味ないとわかっていても気になってしまう。

 俺の命にかかわることだし、仕方ないのかもしれないけど。


(俺、どうなるんだろうな……)


 なぜか緩んでいたペグは、何も答えてくれない。

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