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自称・未来人の幼馴染  作者: 千夏ケイ


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第32話 キャンプのカレーは想像以上においしい

 まず、ひき肉を鍋に放り込み、炒める。

 ひき肉の色が変わってきたら今度はトマト缶の出番だ。中身をすべて入れ、こちらも軽く炒める。

 いい感じになってきたら、水を加えて沸騰させ、アクをとりながら煮込んでいく。


「すごいですね! 先輩、料理できたんですか?」


 料理ができる男子というのはモテるらしい。

 実際、俺を見る後輩の眼は輝いている。

 でもな、関口よ。料理ができる男というのは、俺みたいな人を指す言葉ではないんだ。

 だって俺は……

 

「そりゃ、祐奈に教えてもらいながらだったら誰でもできるって」


 幼馴染に作り方を聞きながらやっているのだから。

 

 本当は料理なんて一切できない。

 だから、そんな尊敬のまなざしを向けないでくれ。


「え、でも……料理ができる人ってこういうことじゃないんですか?」

「翼ちゃん、料理ができる人と調理器具が使える人は違うよ」

「そうなんですか……? 私てっきり……」


 祐奈が真実を伝えると、関口の目から尊敬の感情はなくなった。

 だが、それで失望されるというわけではないらしい。むしろ、勘違いをしていた自分にがっかりしている様子だ。


 しかし、変な勘違いだよな。今まで知らなかったがもしかして……


「関口って、もしかして料理できない?」

「…………ぐっ……!」


 俺の問いに帰ってきたのは、謎のうめき声だけ。

 どうやらビンゴのようだ。


「先輩は料理できる女の子のほうが好きですか……?」

「まぁ、俺は料理得意じゃないし。そういう苦手分野を補い合える関係っていうは素敵だよなって感じる」

「……ガンバリマス」

「めっちゃカタコトじゃんか」


 まさか関口が料理できなかったとは。

 祐奈のように料理できる側だと思っていたから意外だ。


「じゃあ、翼ちゃんも料理してみる?」

「はい……! 私、料理覚えます!」

「わかった。じゃあ……ひろくん、ちょっとそこをどいて」


 鍋の前の席とおたまを関口に奪われる。

 調理担当交代だ。


「まぁ、今回はあとルーとソーセージとレタスを入れるだけだからあまり経験にはならないと思うけど……」

「祐奈先輩、大丈夫です! 小さなことから始めていきましょう! それに、包丁はちょっと怖いので!」

「そ、そう……? なら、あとは私が言ったとおりにやってくれる?」

「任せてください! 調理実習以外では初めてですが、言われたことくらいはやってみせますよっ!」


 いや、ほぼ初めての料理なのかよ。

 まぁ、でもピッタリかもしれんな。

 関口が怖いと言っていたが、俺も怖くて包丁なんか持たせられん。


 そこから関口はルーとソーセージを入れ、最後にレタスをちぎって加えた。

 その後、少し煮込んで、ついにカレーが完成した。


「で、できました……! 私がカレーを完成させましたよ!」

「よくできたね。すごい偉いよ! このまま料理、頑張ろうね」

「祐奈先輩……! 私、いつか祐奈先輩においしいご飯が作れるように頑張ります!」


 また関口は褒められている。

 ひき肉とかトマト缶とかを炒めて、アクまでとったの、俺なんだけど? 俺には?

 ……と言いたいところだが、相手はさすがに料理初心者。そこと同じ土俵に上がるわけにはいかない。

 それに、俺がしたのも本当に簡単な作業だ。いつも料理をしてくれる母からすればこの程度お手伝いのうちにも入らないだろう。


「先輩にもおいしいって言ってもらえる物、何か作りますね?」

「……そうだな、その時はよろしく頼む」

「はいっ!」


 こうして目の前で笑う後輩を見ていると、さっきまで考えていたことがすべてどうでもよくなってきた。

 なんで俺は褒められたかったのだろうか。

 変に対抗心を抱かず、こうして笑顔を純粋に楽しむだけでいいじゃないか。


 ……なんか洗脳っぽいけど、それほどまでに魅力的な笑みだったのだから仕方ない。


「よし、じゃあ食べようか!」

「わかった……って言いたいけど、そういえばご飯用意してなくね?」


 カレーにルーだけあっても意味がない。

 ご飯があってこそのカレーだ。

 それを用意していなかった事実に気付いてしまった。

 せっかく出来立てのカレーなのに……


「大丈夫。私がこっちでみんなの分作っておいたから。ほら、あっちを見て」

「……え? いつの間に?」

「祐奈先輩、いつご飯触ってました……?」


 なんと、祐奈が作ってくれていた。

 俺と関口に指示をしていたはずでは……?

 そんな暇なかっただろう。


「あのねぇ、私が何十年料理やっていると思っているの? 未来人なんだよ?」

「未来人とはいえ、分身とかはできないだろ。じゃないとおかしいぞ」


 関口も首をぶんぶん縦に振ってくれている。

 そんな俺たちを見た祐奈は、小さくため息をついた。


「ひろくんたちとは料理のレベルが違うだけだよ」


 そう一言だけいうと、お皿とスプーンを取りにリュックサックのほうへ行ってしまった。


「先輩、私……祐奈先輩においしいって言わせられますかね?」

「……どうだろうな。レベルが低いって言われちゃうかも」

「そ、そんな……! そんなこと言われたら、私二度と料理できないです……」


 不安がっている関口が面白かったので、ちょっとからかってみる。

 俺も祐奈の料理力に驚いていたはずなんだけど……なんでだろう。俺よりも驚いている人を見ると逆に落ち着くな。


「そんなこと言わないから。ひろくん、翼ちゃんで遊ぶのやめなさい」

「帰ってきたか……いや、ごめんな」

「私で遊んでいたんですか!?」


 祐奈によって俺の悪行が速攻で暴かれ、関口が怒る。

 キャンプということもあるが……いつもより楽しい食卓だった。

 そのせいか、カレーの味もなんだかおいしく感じられた。

 調理が簡単なものしか入っていないのに。定番どころの野菜は一切入っていないのに。

 それでも、満足感はたっぷりだった。


「どうです? このおいしいカレー、私が完成させたんですよっ!」

「はいはい、わかったって。で、おかわりは?」

「お願いします!」


 横でドヤ顔をしながら口いっぱいにおかわりをしたカレーをほおばる関口とそれを見て苦笑いする祐奈。


 あぁ……こんな時間がこれからも続けばいいのにな。

 来年の秋にもまた、こんなことがしたいな。

 

 そのためには、変えられるかどうかわからない運命を変えなくてはいけない。

 今こうしていることに意味があるのかなんてわからないけど、それでも信じるしかないのだ。

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