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自称・未来人の幼馴染  作者: 千夏ケイ


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第28話 幼馴染と友達の3人で話す夕暮れ時

『これにて、文化祭は終了いたします。みなさん、お疲れさまでした』


 太陽が空を赤く染め、昼と夜を分かつ時間。文化祭の終わりを告げる放送で俺は目覚めた。


「……寝過ごしたか。」


 起き上がろうとして——左腕が動かないのを自覚する。

 そちらを見ると、無防備な寝顔をさらした幼馴染の姿があった。


(そういえば、腕枕していたな)


 血の巡りがよくなかったせいか、祐奈の頭が乗っているより先の感覚はどこにもない。

 腕枕に憧れはあったが……実は相当危ない行為なのかもしれない。というか、多分そうだろ。血流を阻害するって普通に考えてやばすぎる。

 恋人たちはどうしてこんな行為を喜んでやっているのか。それとも、実はやっていなくてアニメや漫画、ドラマといった創作物にしかない行為だったりするのか?


 でも、そんなことはどうでもいい。創作物オンリーかどうか考えるのは別の機会にしよう。

 今はこの寝坊助さんを起こして、血流を回復させるほうが先だ。


 というか、一緒に寝るから寝過ごす未来は変わるってとんでもなく嘘じゃねぇか。

 結局寝過ごしてしまって全然変わっていない……どころか、左腕の感覚を失うというマイナスまで付いている。

 ……まぁ、由奈と一緒に昼寝ができたからプラスマイナス0、若干プラスよりではあるんだけど。


「祐奈、起きてくれ」

「…………んー……?」

「ほら、早く」

「あと5分寝かせて……」


 寝かせるわけないだろ。こっちは左腕の感覚がないんだよ。

 それでも腕を無理やり抜き取らない俺の優しさは褒められたって良い。

 まぁ、周りに誰もいないから褒められることはないんだけど。


 しかし……このままだとちょっとマズいな。

 文化祭終わりに会うって約束しているのに。


「俺、この後用事あるからさ。起きてくれよ」

「何の用事……?」

「タツと話す」

「そうだった!」


 一瞬で祐奈が起き上がった。左腕に血が巡っていく感覚がする。このジーンとした痛みは、血が戻ったことによる細胞の喜びなのだろうか。

 なにはともあれ、感覚も徐々に戻ってきた。

 ……うん、ちゃんと動く。良かった良かった。


「言ってた通り、朝隈くんと約束できたんだね。どこで話すの?」

「屋上。今日は特別に解放されているんだってさ」

「屋上か……確かに邪魔は入らなそうだし、いいね」

「よし、じゃあ……行くか。遅くなって待たせたら悪いし」

「うん……!」


 俺たちは部室棟の非常階段を一緒に降りた。

 帰りの準備をしている生徒たちの間をすり抜け、屋上へ一直線に向かう。

 屋上に近づくにつれ生徒の数は減っていき、屋上前の階段についたときはもう誰もいなかった。


「……準備はいいか?」

「大丈夫、もう覚悟はできた」

「わかった、じゃあ開けるぞ」


 建付けの悪い屋上の金属扉が大きな音を鳴らして開く。

 そこで見たのは、沈もうとしている太陽と赤く照らされた街並みだった。


「良い景色だろ? 文化祭終わりは毎回来るくらいお気に入りの場所なんだ」

「タツ……?」

「よう、文化祭お疲れ様。毎度のことながら疲れるな。精神も肉体も……どっちとも限界だ」


 やっぱりタツの口ぶりはおかしい。まるでこの高校の文化祭を何度も体験したかのような発言だ。

 俺たちは高校一年生。当然、文化祭なんて初体験なのに。


「やっぱり、タツは……」

「さすがに気付くよな。そう、俺は未来を知っている。中二病じゃあないからな? ……まぁ、宏樹と東川さんならわかるだろうけど」

「わ、私は……!」

「祐奈……」


 もう隠す気がなく堂々としているタツに対して、横にいる祐奈はずっと震えている。小刻みだが……その震えからは怖い、ありえないという感情がひしひしと伝わってくる。

 

 祐奈の感情が移ったのか、俺の心臓の鼓動もうるさくなってきた。

 そうか、そうだよな。祐奈が本当に未来人って知ったとき、キスも一緒にされたから気付かなかったが……常識外の存在を見たら身体はこういう反応になるよな。

 ……そう考えると、キスってやっぱり凄いな。畏怖すらも忘れさせられるとは。


「大丈夫、言わなくてもわかっているし」

「……え?」

「東川さんは未来人なんだろ?」


 ……あれ? 今、「東川さんは」って言ったか?


「待ってくれ、タツ。その言い方、お前は未来人じゃないのか……?」


 祐奈の方に視線を向けていたタツがこちらを見る。

 夕日に照らされたその顔は——少し笑っているように見えた。

 

「……宏樹、いつもはよくわからん考え方で行動するのにこういうところの嗅覚はいいんだな」

「ってことは……」

「まぁな、厳密にいえば俺は未来人じゃない。説明したら長くなるから省くけど……俺には寿命を迎えて死んだら、記憶はそのままにまた赤ちゃんからやり直す力がある。タイムループって言った方がわかりやすいか?」

「タイムループ……」


 祐奈のタイムリープに対して、タツはタイムループ。

 似ているようだが……違いはあるのだろうか?


「……私が説明するわ」

「頼んだ。正直、俺にはわからん」

「私がしたのはひろくんも知っている通り、タイムリープ。リープは飛ぶという意味なのは分かるよね? その意味通り、時間や世界を飛び越えるのがタイムリープだよ」


 震えながらも祐奈が俺の疑問に教えてくれる。

 しかし、あまりにも非現実的なことすぎて、理解しやすいのかしにくいのかもわからない。

 

「一方、ループの意味は繰り返し。時間が巻き戻ってある時間から——朝隈くんの場合は赤ちゃんからもう一度時間を繰り返すのがタイムループね」

「全く、忌々しい力だよ。望んでもいないのに、俺はずっと俺でなくちゃいけない」


 タツがため息をつく。

 望んでもいないのに、か。この話が本当なら、恐らくタツは……

 

「……そう、だったんだな。すまん、正直なんて言ったらいいかわからない」

「謝る必要はねぇよ。タイムループを経験していないのに、こんなのわかるわけないしな」

「…………」


 言葉が出ない。

 タツの力はある意味で死を超越したものだ。死んでもまた記憶を持ったままやり直せるのだから。時間の巻き戻しややり直しがきかないという普遍的なルールをもつ人生において、そのルールを根底から変えてしまうあまりにも強大な力だ。

 それなのに、全く嬉しそうじゃない。幸せそうじゃない。

 

 きっと、古代から現代に至るまで誰もが欲しがる力を持ったタツを——俺は少し憐れに思った。

 死を超越した者は、超越した者なりの悩みとかがあるんだろうな。俺には一生かけても理解できないだろうけど。


「それで……宏樹。少し、東川さんと2人きりにしてくれないか?」

「……なんでだ? 俺が居たらだめなのか?」

「まぁな。これは絶対に宏樹には聞かせられない、聞かせちゃいけない話だ」

「なんだよ、もっと気になるじゃん。それに祐奈も心配だし」


 こんなにも震えが続いている祐奈を置いていけというのか?

 いくら俺の幼馴染は強いとはいえ、さすがにそんなことはできない。

 

「……ひろくん、私は大丈夫だから」

「祐奈、いいのか……?」

「うん、先に帰ってて」

「……何かあったら連絡して来いよ」


 祐奈の顔を見てみるが、助けを求めている様子はない。

 本当に大丈夫、ということなんだろう。

 俺は2人に背を向け、再び重い金属の扉を開けて屋上から出た。


(でも、気になるよな)


 俺にはできない話とはいったい何なのだろうか。

 普通なら告白とかが思いつくだろうが、今の雰囲気でそれはあり得ない。未来関係のことであることに間違いはないだろう。


(……大人しく帰るか)


 変に話を聞いて未来を変えるわけにもいかないしな。

 変えた未来の責任を取るのは俺になるんだろうし。それも死という最悪な形で。

 

 命と好奇心を天秤にかけると、自然と足は動く。

 祐奈たちの話が聞こえる前に、俺は下駄箱へ向かった。

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