第37話 稀有の天才
数か月後、開発フロアは深夜の静けさに包まれていた。
モニターの青白い光が、レオンの疲れた顔を照らす。
レオンは椅子に深く腰掛け、乱れた髪を適当に掻き上げながら、画面に映るログを睨んでいた。
自己進化アルゴリズムのテストは、これで327回目の失敗だった。
ログの赤い警告が、まるで嘲笑うように点滅している。
レオンは大きく伸びをして、背もたれに体を預けた。
「はー、またコケたな。コアの安定性、マジで手強いぜ……」
「まあ、しかし、なんとなく見えてきたぞ。」
独り言のように呟きながら、彼はコーヒーの空き缶を片手で弄び、軽く笑った。
その時、静かな足音がフロアに響いた。
カシアが現れる。
彼女はレオンの背後に立ち、穏やかだが冷徹な声で言った。
「進捗を聞かせて、レオン。」
レオンが後ろを振り向き答える。
「自己進化モジュールの安定化、まだ失敗続きです。予測だとベータ版の完成まで10ヶ月……いや、1年は必要っすね。」
カシアが一瞬言葉を失う。
「……1年!? 最低でも2年はかかると思ったのに……」
「手強いですが、1年もあれば十分っす。」
「……想像以上の才能ね。期待してるわ、レオン。」
レオンは照れくさそうに頭を掻いた。
「そんな風に言われると、なんか気合入っちまうな。」
カシアは小さく微笑み、静かに続けた。
「クロノスが完成するまで、私たちはただ、進むだけよ。
政府のシステムに触れるのは、それから。
それまでは……誰も、私たちを止められない。」
レオンは拳を軽く握り、にやりと笑った。
「了解っす。クロノス、必ず完成してみせますよ。」
彼の瞳には、疲れの中に確かな遊び心と決意が混ざっていた。
開発フロアに、再び軽快なキーボードの音が響き始めた。
まだ遠い、コードの果てを目指して。




