ひとまず終わり?
横から振られてくる拳の側面に雷鎚ミョルニルを当てて攻撃を逸らし、角を向けて突っ込んで来るミノタウロスに当てる。拳にミノタウロスの角が深々と刺さる。硬さで言えばやっぱり角の方が上だった。
『ブモオオオオ!?』
叫ぶミノタウロスの後ろに回り込み、脊椎に雷鎚ミョルニルを叩き付ける。ミノタウロスは真上を向きながら身体をピンっと真っ直ぐにして倒れる。そこに別のミノタウロスが拳を振ってくるので、一歩だけ横に移動してギリギリのところで避ける。
そこから反撃出来れば良かったのだけど、他のミノタウロスも次々に拳を振ってくるので、それをギリギリで避け続ける。そうしてミノタウロスが密集して来たタイミングで、一体のミノタウロスに雷鎚ミョルニルを叩き付けた。雷鎚ミョルニルに雷を大量に溜め込んだ一撃によって、激しい雷撃が周囲に広がっていく。
『ブモオオオオオ!?』
これにより残り九体のミノタウロスを全員感電させる。私にも雷が来るけど、特に問題はない。雷を纏って戦闘していたり、雷に身を焼かれたりと似たような目には幾度となく遭ってきているので、既に慣れた。
感電して動けなくなっているミノタウロスの頭を次々に殴っていきミノタウロスを倒していると、残り三体となったところで、そのミノタウロス達の首が飛んでいった。それは大剣による一撃だ。
その大剣を操るのは、アリサだった。アリサの頬などに血が流れた跡があったので、恐らく怪我をしたのだと思う。でも、既に治っているみたい。私達の再生能力は異常なので、治っているという事はそこまで深い傷ではなかったのだと思う。
「ヒナ! 大丈夫!?」
アリサが大剣を捨てて私に駆け寄ってくる。そして、賢杖ケーリュケイオンで私の事を回復し始めた。
「怪我はしてないけど」
「全身火傷だらけ……って、これヒナのアーティファクト?」
「うん。火傷なら雷を自分で受けた時のものだね。威力重視で頑張ったけど、私の【雷耐性】と【雷電耐性】を突き抜けたみたいだね」
耐性が高くなっていても火傷を負う程の雷を雷鎚ミョルニルに溜め込んだという証拠になる。雷鎚ミョルニルに乗せられる雷の量も増えているのかな。それとも私が雷鎚ミョルニルを上手く扱えるようになり始めているのかな。
「そう……それなら良かった……のかな?」
「まぁ、アリサが治してくれたから大丈夫だよ。アリサの方も無事で良かった。あのミノタウロスは?」
「ちゃんとトドメを刺してあるから大丈夫」
「そっか」
私はミノタウロス達をインベントリに収納して、アリサが捨てた大剣の柄を握る。すると、ズシッと腕に重さが来る。軽々と持ち上げられる雷鎚ミョルニルとは大違いだ。
「重……」
重さに加えて、その大きさは私の身長の倍近くあるので、持ち上げるのも大変だった。それをアリサが軽々と持ち上げる。
「これアーティファクトみたい」
「えっ!?」
何気なく言ったアリサの言葉に驚いてしまう。言われて私もアリサが持つ大剣を調べる。
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炎剣レーヴァテイン:かつて、英雄の一人が用いていたと言われる古代遺物。熱を帯びた一撃は全てを断ち斬る。一部の能力は封印された状態になっている。指輪、イヤリングに変化する。『筋力+2000 耐久+1000 敏捷+1000 魔力+2000』
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本当にアーティファクトだった。しかも、かなり強い。筋力と魔力に大幅な補正値が入るし、雷鎚ミョルニルの炎バージョンって事で剣に熱を持たせられるから、相手の防御を簡単に崩せるかもしれない。
取り敢えず、ミノタウロスが認められていなくて良かった。仮に認められていたら、アリサも少し危なかったかもしれないから。
いや、それよりもアーティファクトと分かったって事は、一つ確実な事がある。
「え? 認められたの?」
「うん」
アリサはそう言って、炎剣レーヴァテインを指輪に変える。これはちゃんとアーティファクトに選ばれている証拠だ。選ばれていないとここら辺は出来ないから、他人にも分かり易く教える手段になる。
「アーティファクト二つ持ち!?」
「うん。ケーリュケイオンとレーヴァテインで二つだね」
「二つも持てるの?」
「特に問題はないよ?」
アーティファクトが一人一つだけとは限らない。実際に今目撃しているから、これは確実だ。せっかくなら私が持ちたいと思ったけど、私は選ばれなかったので諦めるしかない。
選んでくれた雷鎚ミョルニルは大事にしてあげよう。滅茶苦茶投げているけど。
そして、一つの事実が明らかになった事から、とある疑問が生まれる。
「でも、レーヴァテインを持っていて全滅するとかある?」
私の疑問はきっと当然のものだと思う。雷鎚ミョルニルを持つ私はミノタウロスと渡り合えるくらいのステータスを得られている。雷を扱えばちゃんと倒せる。炎剣レーヴァテインも熱を持たせられるから、大斧相手でも有利に立ち回れるはず。
だから、炎剣レーヴァテインを持っている人がいれば、あのミノタウロス達相手でも渡り合えるはず。
「もしかしたら封印された状態だったのかも。ステータスがある程度あって、体格がしっかりとしていれば振り回すくらいは出来るから」
「そうなの? アリサが触れてから何か変わった?」
「ううん。このまま発掘されたのかもしれないね」
「そっか」
ただの大きな剣として使っていたとしたら、話は別だ。だってステータス補助の恩恵は受けられないし、炎剣レーヴァテインとしての能力も扱う事が出来ない。
同じようにアリサが私の雷鎚ミョルニルを扱っても、ステータスは変化しない。でも、頑丈な鈍器としては扱える。そういう事だ。
こう言うのもあれだけど、宝の持ち腐れでしかないと思う。
「ちゃんと扱えれば戦況をいくらでも変えられたのに」
「そうだね。取り敢えず、ここの大物は倒したから他のミノタウロスも倒す?」
「うん。身体は回復してるし、そうしよう」
ここで坑道から出ても結局中に危険が残っている事に変わりない。ここにいたミノタウロスのように強い個体がいたら、また全滅の危機がある。アリサが新しい力を手に入れたところだし、倒して回った方が良いに決まっている。
アリサと一緒にミノタウロスを倒して回る。アリサが炎剣レーヴァテインを手に入れた事に加えて、私が本気で雷を纏い続ける事で倒す速度は一気に上げられた。
倒し続けて奥に着くと、そこで五人の生き残りを見つけた。
「大丈夫ですか!?」
男性三人に女性が二人。身体のあちこちを怪我している。アリサの賢杖ケーリュケイオンと私の雷鎚ミョルニルで回復させていく。辛うじて意識を保っているので情報を引き出す。
「ミノタウロスですか?」
「う、うん……一回り大きな個体が……それで皆が倒されていって……私達は必死に逃げてここまで……」
大きなミノタウロスは、さっきアリサが倒したミノタウロスかな。問題は他の脅威になるモンスターだ。
「それ以外に強いモンスターはいますか?」
「い、いや、確認してない」
「大きな気配ももうないし、全部倒し終わったかな。ひとまずこの人達を連れて外に出よう」
「うん」
深めの傷とかもあったけど、私とアリサで何とか塞いで治す事が出来たから、そのまま外まで連れて行く事にした。完全にミノタウロスに怯えている状態なので、なるべくゆっくりと進みながら、ミノタウロスがいるようだったら先行して倒すという方針だ。
でも、ここに来るまでに大分倒していたので、ミノタウロスに出会う事はなく、すんなりと外に出る事が出来た。
「嬢ちゃん達! 大丈夫か!?」
外に出たら、すぐにライデンさんが駆け寄って来た。軽く武装している事から街を守るために待機していたらしい。住人の避難とかもあるだろうから、安易に乗り込めなかったのだと思う。
「大丈夫です。坑道の奥でこの人達を見つけました。中にいたミノタウロスはほとんど倒したはずです。かなり強い個体も紛れていたようで、内部に入った冒険者は、この人達を除いて全滅したかもしれません」
「っ……そうか……」
ライデンさんは悲痛そうな面持ちになりながら頷いた。受付をしていたなら、知り合いも何人かいただろうし、そうなるのも無理は無い。
そして、私達の後ろにいる五人の冒険者達に目を移す。
「お前達も無事で良かった。後ろで休んでくれ」
ライデンさんが背後に手振りで合図を出すと、医療班と思わしき人達がやって来て五人を保護していった。五人を見送った後、アリサが私の横に並んで炎剣レーヴァテインを出した。
「これは……」
ライデンさんは目を大きく開いて炎剣レーヴァテインを見ていた。どうやら炎剣レーヴァテインの事を知っているようだった。
「そうか。あいつは最期まで選ばれなかったか」
「ご友人の形見でしたら」
アリサは、炎剣レーヴァテインを譲るつもりでいたらしい。ライデンさんの友人の形見なら、それを自分が奪うというのは駄目と判断したのかな。
「いや、アリサの嬢ちゃんが持っていてくれ。そいつは使い手がいて初めて生きる武器だ。あいつは終ぞ選ばれなかったようだが、アリサの嬢ちゃんが選ばれたのなら、アリサの嬢ちゃんが持っているべきだ」
「……分かりました。ありがとうございます」
そう言われてしまえば、アリサも受け取らない訳にはいかない。炎剣レーヴァテインを指輪に戻して、私の一歩後ろに下がる。下がる必要があるように思えないけど。私を前に出すのは、やり取りを任せるためかな。基本的にこういうやり取りは私がやっているし。
「取り敢えず、ミノタウロスの死体はどうしますか? 一応回収していますが」
「ああ、こっちで買い取る。だが、アーティファクトを持っているとはいえ、ミノタウロスを相手するのは危険すぎだ」
ライデンさんに苦言を呈されてしまった。まぁ、ランクが低い私達が無理に中に入ったら、死んでしまう可能性があったとなればギルドの立場で言えば、苦言を呈したくなるのも無理は無い。
「すみません。街の安全を考えれば、中で終わらせるのが一番だと思ってしまいました」
「結果的に無事に帰って来られたから良かったが、同じ事があった場合にまた上手くいくとは限らない。それだけは覚えておけ」
「はい」
「よし。しばらくは後ろで休んでくれ。他に仕事が出来たらよろしく頼む」
「分かりました」
一旦私達も休む事になった。結構沢山戦ったから、アリサも休憩が必要だろうし、お言葉に甘えてゆっくりとさせて貰おう。




