いざ坑道へ
私達は鉱山の麓で待機を続ける。坑道の穴からは、戦闘音は聞こえてこない。そこから分かる事は戦闘が奥の方で行われているくらいだ。それも現状から考えられる推測でしかない。
「アリサ。何か聞こえる?」
私よりもアリサの方が聴覚は優れているはずなので、アリサなら何か聞こえているかもしれないと思って確認してみた。
「奥の方で戦闘をしているらしい音しか聞こえないかな。詳しい場所は分からないよ。それと戦況も把握出来ないかな」
「そっか」
苦戦しているかどうかも分からない以上、私達出番があるのかどうかも分からない。出番が欲しいというよりも、私達の出番の有無がそのまま街の危険度に繋がるからだ。
「あっ……戦闘音が消えた」
「終わったって事?」
「うん……でも、マズい方かもしれない」
アリサがそう言った瞬間、坑道の方から低い咆哮が聞こえてきた。本当にマズい方向に終わっている。
「他の冒険者は!?」
「どうだろう。ギルドから向かって行った冒険者は全部中に入ったと思うけど……」
全滅。そんな言葉が脳裏を過ぎる。戦闘音が消えた後に咆哮が聞こえている事に加えて、さっき見た冒険者達でギルドにいた冒険者が全部となれば本当に最悪な状況と言える。何故なら、Cランク帯の冒険者は、全員中に入っているだろうから。
内部が全滅した可能性が出て来たという事は、街の危機は変わらず迫ってきているという事。それを考えれば、ここで大人しくしている状況ではない。
「アリサ。行くよ」
「えっ……でも……」
アリサは心配そうに私を見る。私も自分の心臓の鼓動が早くなっている事を自覚する。それでも行かないといけない。そこまでする義理というものはない。強いて言えば、ライデンさんにお世話になったくらいだ。それもギルドの職員として。
だからと言って、ここで見捨てて良いという話にはならない。ウォンバットを見捨てるとしたら、坑道に入る以上に不快な気分になる。
「今ここで見捨てたら、私はそれを後悔すると思う。だから行かないと」
「なら、坑道から出て来た後でも良いと思うけど……?」
「それは駄目。外に出したら、街への被害を押えられなくなるかもしれない。安全に事態を終わらせるのなら、坑道に入るしかないよ」
「でも、ヒナの顔は強張ってる。それを見て放っておけると思う?」
「大丈夫。【精神耐性】もあるから」
「【精神耐性】があって、その状態だから言っているの。ヒナも自覚しているでしょ?」
【精神耐性】を言い訳にしたけど、アリサには無駄だった。【精神耐性】は常時発動するパッシブ系のスキル。つまり、今こうしている間にも発動しているはずだった。発動している状態で、この調子というわけだ。
「それでも行くよ。中で倒した方が安全っていう事に変わりはないから」
「…………分かった。無理そうだったら、無理矢理連れ出すから」
「うん」
一度深呼吸をしてから駆けていく。現場が混乱しているから、特に止められること無く中に入る事が出来た。同時に、中から強い気配を感じる。
「ドラゴンだったアリサよりは弱い気配……これなら大丈夫かな」
「ヒナ」
「大丈夫だよ。入るまでは怖かったけど、入っちゃたらどうって事なかった。本当に怖いのは、坑道内にある牢屋って事なのかも。衰弱していたのも牢屋の中だし」
衰弱死などへの恐怖が、そのまま衰弱していた場所である坑道に向いているのだと思っていたけど、実際には坑道内の牢屋に恐怖しているのかもしれない。状況への恐怖は自覚していても、場所に対する恐怖心の特定は出来ていなかった。
でもこれで坑道は大丈夫だと分かった。それなら動き回れる。
鉱山を見て恐怖を抱いた理由もしっかりと確定した。鉱山があるという事は坑道がある。坑道があるという事は、私が捕まっていたような牢屋があるかもしれない。牢屋があるかもしれないという事を無意識に考えて恐怖心を抱いた。そう考えると納得出来る。
「だから、ここに牢屋がないと分かれば大丈夫だよ。まぁ、そのためには坑道全部を見て回らないといけないんだけど」
無いという事を証明するためには、どこを探しても無いという事を確認するしかない。それをしている暇はないし、無いと信じて走るしかない。てか、普通坑道に牢屋はない。そのはず。坑道に牢屋がある必要がないし。
「アリサ、気配の位置は?」
「先導する」
「火と風、土の魔法は無しだよ。空気がなくなったり、落盤したりするかもしれないから」
「うん」
アリサの魔法は強力だけど火魔法を使えば酸素を使う事になるかもしれないし、風魔法も新鮮な空気が吹っ飛んでいく可能性がある。土魔法を使えば周囲の土が移動して落盤に至る可能性がある。
後は威力の強い攻撃を使うと落盤するかもしれないけど、そこまで説明すればアリサも理解出来るはずだから問題はない。
そうしてしばらく走っていると、正面に三体のモンスターが見えた。黒い体毛に鋭く湾曲した角。筋骨隆々の身体に牛の頭。どこからどう見てもミノタウロスというべきモンスターが三体もいる。
血が滴る大斧を担いで、人間の足を食べていた。【精神耐性】がなかったら、尻餅付いて泣いていたと思う。そのくらいには怖い光景だと思う。てか、牛のくせに肉を食べるな。
『ブモオオオオオオオオオ!!』
私達を見つけたミノタウロスが咆哮する。私達が聞いていた低い方向が坑道を抜けて来たミノタウロスの咆哮だったのだと分かる。
雷鎚ミョルニルを出して身体強化をしながら駆けるのと同時にミノタウロス達も駆けてきた。アリサが水魔法で後ろの二体を押し流してくれたので、一対一の状態になる。
振られる大斧に横から雷鎚ミョルニルを叩き付けて粉砕する。そして、雷を纏わせた雷鎚ミョルニルで頭を叩き、雷で内部を焼いた。
『ブモ……』
口から煙を吐くミノタウロスは、拳を握って振ってきた。ギリギリのところで避けて、今度は脇腹に雷鎚ミョルニルを叩き付ける。ミノタウロスの身体がほんの少し浮いて近くの壁にぶつかる。
本当は叩き付けるつもりだったのだけど、ミノタウロスも相当強いみたい。こうして戦ってみた感じ、恐らくグリフォンくらいの強さがある気がする。つまりCランク相当の強さがあるように感じる。拳を受けてないからはっきりとは分からないけど、少なくとも耐久はグリフォンよりも遙かに上だと思う。
黒焦げのミノタウロスが再び私に向かって来ようとした瞬間、アリサが羽の手でミノタウロスを殴り飛ばす。真っ直ぐ飛んでいったミノタウロスは、押し流された後に再び向かってきていたミノタウロスの一体に直撃する。
「私も物理で殴るよ。見た感じ高威力の魔法じゃないと効果がないから」
確かに、魔法を受けたミノタウロスはぴんぴんしている。ただ水鉄砲を受けただけのような印象だ。それならアリサのステータスでぶん殴る方が効果があると思う。
「うん。気を付けて」
「ヒナもね」
アリサの安全を確保するために、私は武器破壊から優先する事にした。ミノタウロスに接近して、振われてくる大斧に雷鎚ミョルニルを合わせて叩き付ける。ミョルニルによる上昇値も合せた私のステータスなら大斧を簡単に壊せる。
大斧を壊した後は、アリサが突っ込んで羽の手で顔面を掴んで叩き潰すだけだ。アリサのおかげで、ミノタウロス三体は瞬く間に倒せた。だが、ミノタウロスの咆哮はまだ続いている。これで全部じゃないという事だ。
「アリサ!」
「うん!」
私達は出来る限りミノタウロスの数を減らすために駆け出す。




