ウォンバット到着
最後の休憩所から六時間程歩いていくと、ウォンバットの門の前に着いた。ここまで来ると鉱山の大きさがよく分かる。ここに街を作って、冒険者にも定期的に採掘をさせている理由も。資源を掘り尽くす心配が薄い事に加えて、恐らくここから色々な場所への資材の輸送が行われているのだと思う。
そこから高速馬車用の道もここからの輸送が目的だという事が予想出来る。それくらいに重要な街という事だ。
採掘作業をする人が多いのと、この場で精錬などをする関係かウォンバットの街自体もかなりの規模感だ。山の麓の半分以上を街で覆っている。今も壁を作って街の拡張工事が行われているみたい。
新しい壁の建設と街の拡張が出来る程の儲けが出ている事も分かる。儲けが多いという事は、それだけくすねようとするクズも多そうだけど、そこら辺は私には関係ないから気にしなくても良いかな。
門番の人に冒険者証を見せて、ウォンバットに入れて貰う。アリサの事をジロジロと見ていたけど、多分アリサの情報を聞いているからだと思う。小さく「例の……」って声が聞こえたし、そこは間違いないと信じたい。
今回はジルさんみたいに伝手があるわけでもないので、まっすぐギルドに向かう。ギルドは分かりやすいから有り難い。
ギルド内は、いつもよりも筋肉が多かった。採掘は筋肉を使うからかな。まぁ、ツルハシの重さを利用して頑張って掘れば子供でも掘れない事はないのだけど。本当に大変だしコツがいるけど、そのうち【採掘】も手に入るし。
ギルドの受付に行くと、人相の悪い筋骨隆々の職員が出て来た。アリサはその人を見て驚いていた。
特に驚くような事もないので、受付の職員さんに話し掛ける。
「こんにちは。今日この街に来たんですが、鍵が付いて治安の良い宿屋ってありませんか? 出来れば防音であると嬉しいです」
私はそう言って冒険者証を出す。アリサも同じように出した。二つの冒険者証を見た職員さんは、私とアリサを改めて確認する。
「ん? ああ、嬢ちゃん達が例の。話は聞いている。何かあればギルドに来てくれ。ぶちのめしてやる。それで宿だったな。鍵付きとなると高くなるが、今は満室かもしれねぇな」
「そんなに人が来てるんですか?」
街の宿が全部満室になっているというのは、宿屋からしたら嬉しい事かもしれないけど、客である私達からしたら困った事だった。
「ああ。まぁ、ウォンバットの宿は満室になる事が多い。鉱山での仕事は、上手くすれば普通の狩りよりも稼げるからな。金はあるか?」
「はい。潤沢に」
しっかりと稼ぐだけ稼いでいたから、資金の面では一切問題ない。
「滞在期間は?」
「一応、一月から二月程」
「なら、貸家が良いかもしれねぇな。月契約で小さな一軒家を貸しているところがある。若干予算オーバーになるかもしれねぇが、一月百万程になる」
一月百万という事は日で計算すれば三万四千リルくらいかな。結構高いけど鍵付きの宿屋が全部満室となるとそっちの方が良いかもしれない。
「何か気を付けないといけない事とかってありますか?」
「家具を壊したら弁償くらいだな。先に金を預けておけば、相手も快く貸してくれるだろうな。家具を壊さなければ金は返ってくる」
敷金って事かな。確かにその方が安心ではあるか。急な出費で弁償とかも出来ないくらいお金がなくなるってなったときに、敷金から払われるから。敷金ってそんな感じだった気がする。
「分かりました。後、私宛に手紙とか来ていませんか?」
「少し待て」
そう言って後ろに向かっていくと、手紙の束を持ってやって来た。
「送り主の名前を確認してくれ」
「……はい。私宛です」
「なら、これにサインしてくれ」
「はい」
受け取ったという証のためにサインをして手紙をインベントリに仕舞う。
「それとここまでに狩ったモンスターの売却をしたいんですが」
「何のモンスターだ?」
「ローリングアルマジロです」
「なら、解体場に行くか」
解体場でローリングアルマジロ二十三体をインベントリから出す。さっき手紙を仕舞ったから、【アイテムボックス】持ちだと分かっていたからか受付の男性が驚く事はなかった。
「ところどころ焦げ跡があるな。悪いが査定額は落ちるぞ?」
「はい。構いません」
これは想定済みだ。どう考えても魔法の練習とかした時点で多少は下がるだろうし。
「なら、全部で六十二万だな。これだけ稼げて、【アイテムボックス】があるなら、貸家の方が安全だと思うぞ」
受付の男性がお金を出しながらそう言ってくる。モンスターを複数体丸々持って帰る事が出来るのなら、貸家を安定して使えるからという事だ。これだけで六十二万という事は下手すれば、毎日それだけ稼げるかもしれないし。
【アイテムボックス】持ちが冒険者の中で重宝される理由がよく分かる。下手すれば使い潰されるという事も。
「はい。一応、そのつもりです。貸家を管理している場所って、ギルドの近くにありますか?」
「いや、門の近くだ。心配なら案内を出すが?」
「いえ、多分大丈夫です。困ったら門番さんに聞きます」
「それが良いだろう。気を付けな」
「はい。ありがとうございました」
お礼を伝えた私はアリサを連れてギルドを後にした。
「ちょっと意外だった」
「ん? 何が?」
「ギルドの受付って綺麗な女性がほとんどだと思っていたから」
「あぁ~……」
あんなに筋骨隆々の職員が受付をしている事にアリサは驚いていたみたい。受付はギルドの顔みたいなもの。人の良さでアピールするのが良い。それこそビビアンさんやカトリーナさん、ユイリナさんみたいな。でも、ここでは違う。
「アリサはギルド内を見てどう思った?」
「筋肉が多いかな?」
「それが一番の理由じゃないかな? 気の強い人とかも多そうだし、受付から威圧しておく事でギルドで問題を起こしにくくしてるんだと思う」
「あぁ~……なるほどね。色々な場所から人が集まってくるからこそ、問題を起こすような人も集まりやすいって事?」
「うん。後、単純に力が強い人が多かったりね。これがもっと中央の都市なら、普通に警備の人が立っていそうだけど、そこまでの人員はいないって感じかな」
採掘師達が悪い人という訳では無く、人が多くなればそれだけ悪い人が紛れ込む可能性が増えてくる。更に採掘のために筋肉を付けているような人が多いので、暴力事件になった時に女性の受付などでは太刀打ちし辛い。そういう面で言えば、あの筋骨隆々の職員達が目を光らせているというのは、牽制の一つになる。
そんな風に分析しながら、私達は貸家を出している不動産屋に入って貸家を借りる。貸家は、街の端の方にあるけど、そこは治安が良さそうだった。一階しかない一軒家だけど二人で住むには丁度良い。百二十万リルをすぐに払っておいたので、気前よく貸してくれた。
2LDKの家でトイレとお風呂は別。寝室が二つあるけど、結局一つしか使わないと思う。
「料理も出来るし、結構良いところだね」
「うん。定期的にお金を払う必要もないし、一日か二日ゆっくりしてから仕事をしようか」
「うん。じゃあ、お風呂に入ろうよ」
アリサが私の腰に手を回しながらそう言う。休むつもりだったけど、普通に休めない休みになりそう。まぁ、私も楽しいから良いのだけどね。




