ウォンバットでの依頼
ウォンバットの貸家に入って二日が経過すると、貸家での生活にも慣れた。食材は普通に買えるので、栄養価の高いものを作る事が出来る。それが何よりも有り難かった。【生命維持】に頼る必要がないからね。軽い筋トレや夜の生活も普通に問題がないので、早速今日から仕事を再開する。
準備を整えて、アリサと一緒にギルドへと向かった。受付には、一昨日にもいた男性の職員がいた。
「ん? 嬢ちゃん達か。街には慣れたか?」
「そこそこですかね。貸家を借りたので、周りを気にしすぎないで良いというのは有り難いですね。初めての街ですが、ストレスが少なくて済みます」
「そうか。そいつは良かった。街にいる間は長い付き合いになりそうだな。俺はライデンだ」
「ヒナです」
「アリサです」
「おう。よろしくな。嬢ちゃん達も採掘か?」
「いえ、モンスターの討伐をしようと思います。このローリングアルマジロで」
私は依頼書と冒険者証を渡す。ライデンさんは少し意外そうな表情をする。まぁ、ウォンバットまで来て採掘をしない時点で珍しいしね。
「珍しいな。まぁ、安定して狩る事が出来るなら、モンスター方が効率は良いだろうな。これを終えれば、アリサの嬢ちゃんもDランクに昇級出来るぞ」
「私はまだですか?」
「ヒナの嬢ちゃんは、まだ先だな。Dランクの期間は一番長くなる。DランクとCランクの差はそれだけ大きいと思ってくれ」
Cランクからは、グリフォンみたいなのを相手にする事になる。確かに簡単に昇級とはいかないのも納得出来る。あれは油断すれば死ぬから。私は死んだし。てか、あれを相手に出来るという事自体が、割と人間離れしている証拠になる気がする。
ライデンさんは見た目では考えられないほどにテキパキと手続きをしてくれた。
「気を付けてな」
「はい。いってきます」
私はアリサを連れて街の外へと向かう。すると、アリサは私が思った事と同じような事を口にする。
「ライデンさんって、見た目よりも優秀?」
「アリサが筋骨隆々の人間をどういう風に見ているかは知らないけど、まともな態度で受付が出来て、こっちの質問に的確に答えられるのは優秀だと思うよ」
「う~ん……何か筋肉だけの人って頭が良くない気がする。何でだろう?」
「失礼だからあまりそういう事は言わないようにね。でも、もしかしたら、そういう人が身近にいたのかもしれないね。何か思い出せる?」
「う~ん……ううん。特には。そういう気がするだけ」
「そっか」
アリサの身近な人間の事が分かるかもしれないと思ったけど、どうやらそうはならなさそうだ。筋肉質な人がいたかもしれないとだけメモしておこう。
「筋肉か……ガンクさんとバルガスさんは元気かな」
「ヒナの知り合いだっけ?」
「うん。先輩冒険者だね。色々と教えてくれた人達だよ。ムキムキな人達だったけど、普通に頭は良かったかな」
「私の傍にいたかもしれない筋肉は、どれだけヤバかったんだろう……」
「さぁ……?」
相手の事を全く覚えていない時点でどういう人だったのか全く分からないので、考えても仕方ない。でも、筋肉をイコールで結んで馬鹿とするのはあまり良くない。頭の良い筋肉も確かにいるのだから。
「でも、割とムキムキな人は頭が弱いみたいな印象あるよね。あれってどこから来たんだろう?」
「犯罪者が、犯罪を成功させるために身体を鍛えるからとか?」
アリサが的確にピンとくる答えを出した。
「うわっ……説得力があるなぁ……確かに基本的に荒事を起こす可能性が高いわけだから身体を鍛えて素の力を上げるのは当たり前か。そして、そういう犯罪を行う人は大抵馬鹿。うん。説得力がある」
「犯罪者への憎悪とかが凄い?」
「盗賊に捕まって奴隷なんてさせられていたらね。あいつらは頭も悪いし身体も貧相だったけど。まぁ、私達に栄養のあるものを用意出来ない時点で、あっちも貧相にならざるを得なかったとかあるかもね。そのまま死ねば良かったのに。いや、死んだら殺せなかったからそのままでも良かったか」
「あ~……うん。盗賊への憎悪ね」
盗賊への憎悪は、そこらの人には負けない。ジルさんの件もあって、憎悪は深まるばかりだ。私が受けた仕打ちを言葉でしか知らないアリサでも納得してしまうくらいには酷いからね。
「色々と事を終えた後は盗賊を殲滅するために渡り歩く人になっても良いくらいには死んで欲しい。今すぐ勝手に全員血を吐いて死んで欲しい。四肢が破裂して二時間くらい苦しんでから死んで欲しい。身体が少しずつ裂けていって真っ二つになって死んで欲しい。内臓が全て爛れて死ぬほど辛い腹痛に襲われて死んで欲しい。取り敢えず、苦しんで死んで欲しい」
私から漏れ出る憎悪が深すぎたからか、アリサは私の頭を撫でてきた。盗賊は全て死ねば良いと本気で思っているので、こればかりは仕方ない。
「あれ? ヒナ。あれ初めて見るよ」
「ん? ああ、蠍型モンスターね。数は少ないけど、危険で稼げるらしいよ。アーマースコーピオンだっけな。あの鋏と尻尾の針に気を付けて」
「うん」
一応、アーマースコーピオンもDランク帯のモンスターではある。でも、大分上位の方に位置するらしい。ほぼほぼCランクだと考えれば、警戒した方が良い相手だと分かる。
「サポートをお願い」
「うん。ヒナも気を付けてね」
雷鎚ミョルニルを元に戻して、アーマースコーピオンに突っ込む。向こうもこっちには気付いているので、六つの足でがしゃがしゃと走ってくる。見た感じはロボットみたいな感じだ。
上から来る尻尾を雷鎚ミョルニルで弾き、左右から振られてくる鋏に対して右を雷鎚ミョルニルで、左を蹴りで弾く。そして、空いている左拳で顔面をぶん殴った。
アーマースコーピオンが三メートル程ノックバックしたけど、それだけだ。
「アーマーって付くくらいには耐久が高いか。雷鎚ミョルニルでの攻撃が大前提になるのは間違いなさそう」
試しに拳でどれだけ響くか確認したけど、拳で戦うのは向いてなさそうなモンスターだ。その分【体術】とかのレベル上げに使えそうかな。
でも、普通に倒すのを優先する。アリサが私の後ろから風魔法で放った風の刃で尻尾の針部分を斬り落とす。
そこで軽く苦しむアーマースコーピオンに向かって突っ込む。雷鎚ミョルニルで身体能力を上昇させて、アーマースコーピオンの背中に思いっきり雷鎚ミョルニルを叩き付けた。アーマースコーピオンの身体がひしゃげて苦しみ動かなくなる。
「あれ? これで終わり?」
「さすがにこれだけ身体が逆方向に曲がったら無理じゃない? 人間で言う背骨が折れているみたいな状態じゃないの?」
「う~ん……蠍ってどういう生物だったっけ……ちょっと気持ち悪いから調べた事ないんだよなぁ」
元の世界でも蠍に関しては、全く調べていない。何かあのフォルムがちょっと怖いと思って調べられなかった。こっちだと【精神耐性】があるから、ある程度は受け入れられている。
「そうなんだ。これからは私が戦う?」
「ううん。気持ち悪い相手は何度も戦ってるから大丈夫。【精神耐性】もあるしね。後、アリサが尻尾を落としてくれると安全に倒せるけど、どこに査定価値があるか分からないから、なるべく落とさずに倒そうか」
「出来るの?」
「うん。身体強化して、横から攻撃すれば大丈夫だと思う。ようは速さだね」
「なるほどね。じゃあ、頑張ろう」
「うん」
私のレベル上げも兼ねているので、基本的には私がモンスターを倒す。ローリングアルマジロは敵じゃないし、アーマースコーピオンも横から接近して身体を潰すという方法を使えば簡単に倒せる。
ただ、ここの相手は基本的に硬い。私の一撃でもギリギリ生き残る時がある程だ。そこが本当に面倒くさいかな。




