途中で情報共有
休憩所になっている広場で一泊して、ウォンバットへの道を更に進んでいく。すると、正面から馬に乗った騎士が来るのが見えた。その中にグレイズさんがいるのを発見する。グレイズさんもこっちに気付いたみたいで、他の人達に手振りで指示を出してから、私達の前で止まった。
そして、態々馬から降りてくれる。
「良いんですか? 他の人達が」
「ああ。後は戻るだけだかな。問題はない。ここにいるって事は、嬢ちゃん達はマンチカンを出たんだな」
「はい。ウォンバットに向かう途中です。グレイズさん達は、オーガの調査ですか?」
「ああ」
私を襲ってきたオーガキング。それが何故ここまで来たのかの調査をグレイズさん達が行っていた。最寄りの街がマンチカンだった事もあり、しっかりと調べないといけないから、騎士団が動いたという事だ。
「割ときな臭い話が出ていてな。街にいるようなら話さないといけないと思っていたところだ。ここで会えて良かった」
「きな臭い? ウォンバットですか?」
どっちから来たのか分からないので、何がきな臭いのかは分からない。でも、私に言う事があるくらいだから、ウォンバットに向かう方の道の先で問題があったのかと思ってそう訊いた。
「いや、ウォンバットとは別の道だ。ウォンバットは右の道だからな。間違えないようにしておけ」
「はい」
「それできな臭いっていうのは、今回の事件に人の手が入っている可能性があるって事だ」
本当にきな臭い話が出て来た。人為的に引き起こされたという時点できな臭い。
ウォンバットに行く私に直接関係する事じゃないけど、あの事件に巻き込まれた私には聞く権利がある事だった。
自然発生じゃないとなると、他の場所でも同様の事を起こされる可能性がある。その事を私にも伝えておきたかったって事かな。
「オーガ達も追い出されたような跡があったが、他のモンスターの痕跡ではなかった。あれは人が魔法を使った跡だ」
「つまり、人為的にオーガによる襲撃を起こそうとしたという事ですよね?」
「状況から考えられる事はな。近くの街に被害が出ず、嬢ちゃん達が見つけるまでは確認出来なかったせいで、誰がやった事かが分からないというのが痛いところだ」
「同じ事が他の場所でも起こってるんでしょうか?」
今一番確認しないといけない事はそれだった。これがそこかしこでも行われているとしたら、愉快犯などではなく、下手すれば組織的なものの可能性が出て来る。これに対して、グレイズさんは首を横に振った。
「分からん。そこは今後の調べ次第だ。だが、ウォンバットでもないとは言い切れない。気を付けておいてくれ」
「はい」
一応、全ての街でその危険性があると考えておいた方が良いかな。
「取り敢えず、話は以上だ。直接伝えられて良かった。嬢ちゃん達も無関係とは言いがたい件だったからな」
「こちらこそ、騎士団内での情報統制等もあるかもしれないのに、お話しして頂きありがとうございました」
この前の商会の件も情報統制が原因で私達には話せないとなっていた。この件も公表するタイミングは選ぶような内容なので、こうして話してくれているだけでも感謝しないといけない。まぁ、私達が当事者だったという事もあるのだろうけど。
「問題ない。一応、あまり言いふらさないようにしてくれ」
グレイズさんはそう言ってから、馬に乗る。
「それじゃあ、ウォンバットまで気を付けてな。道は右側だぞ」
「はい」
グレイズさんは、改めて注意をしてからマンチカンへと向かって行った。本当に情報を伝えるためだけに止まってくれたみたい。グレイズさんには感謝しないと。色々ともみ消して貰ったし、下手したら捕まっていたかもしれないしね。
「きな臭い?」
グレイズさんを見送った後、ウォンバットに向かって歩き出したところでアリサが訊いてきた。
「きな臭いね。目的が分からないから、ちょっとあれだけど、確実に被害を出そうと考えている人の動きだと思うもん。オーガを倒そうとしているのなら、オーガに関する報告をギルドか騎士団にするはずでしょ?」
恐らくグレイズさんも感じていたであろうきな臭さはそこだ。仮にこれが人によって引き起こしてしまったものだとして、誤ってそうなったのなら報告が入るはずだ。しかし、グレイズさんの話を聞く限り、ギルドや騎士団に報告はしていない。
怒られるのが怖かったとかそういう子供らしい事でも、こうした問題が起こった時点で名乗り出ている可能性が高い。でも、そんな話もない。ただただ逃げているだけならまだ良い。
でも、もし犯人がいてわざと引き起こしたなら。それは最悪の事態となる。目的は街を襲わせる事。あるいは、冒険者へ被害を出す事。後者の場合、理由がよく分からないけど。
「そっか。ウォンバットでも同じ事が起こる?」
「どうだろうね。でも、グレイズさんの言うとおり注意はした方が良いと思う。人が引き起こした事なら、他の場所ではやらないとは限らないから。寧ろ、これを機に色々な場所でやらかす可能性が高いよ。もしかしたら、オーガ達の動向も追っていた可能性があるんじゃないかな?」
「私達に気付いているって事?」
「かもね。仮に気付いていたとして、この一ヶ月何もなかった事が違和感だけど」
今回の犯人で真っ先に思い付くのは愉快犯だ。でも、オーガが暴れている姿を見ないのは愉快犯らしくない。オーガが暴れる姿を見ていたとして、私が頑張っている姿を見て満足するだろうか。絶対にしない。
私が同じ立場で楽しむ事を想定するのなら、もっと多くの人が混乱している姿を見たいと思うはず。
そうなれば、私とアリサは、その犯人にとって自身の最大の愉悦を邪魔した気に食わない相手となる。でも、あれから私達に危害を加えるという事は……あったにはあったけど、犯人はマンチカンの人間だ。だから、今回のものとは関係がない。あの人達がオーガをけしかける理由はない。そうなれば、自分達も死ぬ可能性が高い訳だし。
心にゆとりがある犯人なのか、自分の手を汚す事を毛嫌いしているのかが考えられるかな。何にせよ、あのオーガの件に人が関わっているとなれば、色々と周囲の人間を警戒しないといけないかな。
「もしかして、今も私達を追ってきているとかある?」
「う~ん……どうだろう。【気配察知】に引っ掛からない距離感を維持しているならあり得なくはないけど。モンスターを倒さずにいられる状況ってそんなにないから、不自然にモンスターが倒れでもしていない限りはないはず」
「飛んで良い?」
「良いよ」
アリサに空を飛んで貰い、周囲の索敵をする。これで相手に勘づかれているとバレる可能性もあるけど、逆にその方が相手を牽制する事に繋がる。
そうでなくても、普通にモンスターがいないか探るのに上空からというのは有りなので、そっちに勘違いするかもしれない。どのみち利点が大きいので許可を出した。
一分程でアリサが降りてくる。
「モンスターがいるにはいるけど、基本的に森の中だね。妙に少ないと思うような場所はなかった」
「そっか。考えすぎかもね」
ここまで考えていた事は全てグレイズさんの話に基づく推測でしかない。グレイズさんの人の手が入っているという事が本当である以上、違和感が拭えないのだけど、これ以上気にしていても仕方ない。
ある程度警戒はしておくとして、そこまで過敏に考えるのはやめておこう。下手に今の視野を狭めるのは得策じゃない。
「ねぇ、ヒナ」
「ん?」
「もしかしたらだけど、私のブレスで焼け死んでいるって事はないかな?」
「……そういえば、オーガの大群を焼き払ったんだっけ?」
「うん」
「……よし。最低限警戒はしておく事にしよう。まだ希望的観測だから」
「そうだね」
本当にあり得そうな事を言われてしまい、本当にそうなのではと思ってしまったけど、それすらも可能性でしかない。
取り敢えず最低限の警戒だけはしながら旅を続ける事にする。




