マンチカンを発つ
それから一週間。私達は旅支度を進めていった。野菜類の補充と肉の補充。装備の点検。旅ルートの選択。やる事は多い。今回は山道が危険との事だったので平原ルートでの旅になる。途中森を通るので、そこが危険だけど、山道の方が大変との事なので、草原ルートにした。
そして、今日が出発の日だ。荷物をインベントリに纏めて入れる。アリサがシーツを破るという事はなかったので、そこら辺の弁償はない。まぁ、そもそもミラさんは弁償とか受け付けないだろうけど。
「忘れ物……ない……?」
ジルさんが部屋の入口で確認してくれる。あれから時間も経っているので、大分声も出せるようになっている。ジルさんの素の声は可愛らしく綺麗な声だ。
「大丈夫です。だよね?」
「うん。確認したけど、忘れ物はなさそう」
「です!」
「そう……でも……一つ……忘れ物……」
ジルさんがそう言って私にキスをする。ジルさんを私に残すようなキスだ。キスよりもジルさん自身が忘れ物という感じだ。口を離したジルさんに、私の方から軽くキスをしてから扉を開ける。
ジルさんと一緒に宿の受付に行くと、ミラさんが手を振っていた。ミラさんに鍵を返すのと同時に軽く腕を引っ張られてキスをされる。
「またね」
「はい。また来ます」
私もミラさんにキスして返事をする。するとミラさんはカウンターを乗り越えて私を抱きしめる。
「気を付けてね」
「はい」
ミラさんは私の額にもキスをすると、アリサも抱きしめてから見送ってくれた。そんな宿の出口には、私服姿のユイリナさんが立っていた。ユイリナさんは私を見つけると優しく抱きしめてキスをしてくる。抱きしめ方は優しいのにキスは激しい。
「私はこれから仕事なので、ここまでですが、本当にお気を付けて。またお会い出来る日をお待ちしています」
「はい。その時はまた可愛がって下さいね」
「はい」
頬を撫でてくれるユイリナさんに私もキスをしてから別れる。手を振りあって別れて、ジルさんと一緒に街の出入口まで向かう。ジルさんとはここまでだ。さすがに外までは危険だから連れていけない。
ジルさんは最後にアリサも抱きしめる。アリサもジルさんを強く抱きしめていた。結局三人でという事はなかったけど、二人も互いに仲良くなっていたから寂しいのだと思う。
アリサと十分に抱きしめ合ってから、ジルさんは私の方に来て私を抱きしめる。そして、首に強くキスをして、頬にもキスをして、唇にもキスをした。
「また……ね……愛……してる……」
「はい! また! 私も愛してますよ」
私からもジルさんにキスをして、力強く抱きしめる。最後にまたキスをしてから、ジルさんと手を振り合って別れる。そうしてマンチカンを後にした私とアリサは、次の街ウォンバットに向かって歩き出した。
歩き始めてから少ししたところで、アリサが私の顔を覗きこんでくる。
「どうしたの?」
「ヒナが泣いてないかなって」
「泣かないって。また会いに行くし。ちゃんと手紙も出すもん」
「私も書きたいな」
「一緒に送ろうか。書く手紙が多くなっていくのは繋がりが増えている気がして良いね」
レパ、リタ、キティ、メイリアさん、ビビアンさん、カトリーナさん、ユイリナさん、ジルさん、ミラさんという繋がり。これからも増えていくという事が、私には嬉しい。この内三分の二と肉体関係を持っているというのが、別の繋がりみたいに思えてしまうけど。
「手紙って何書いてるの?」
「う~ん……近況報告とかかな。誰かと寝たよとか」
「ヤバい手紙……」
「いや誠実なだけだから。ちゃんと隠れてないで堂々とする! それが私なりの誠意だもん。別に何をしたとかは書いてないし」
「そこまで書いてたら驚きだけど……」
レパの手紙だけは、何人と寝ましたという報告を書いてある。その分レパの嫉妬を買うだけかもしれないけど、ここは正直でいたい。
メイリアさんの手紙には、どういうモンスターを相手にしたとかそういう報告書的なものも書いている。後は食事で最近これを気を付けているとか。保護者として気になるだろうし。
他の皆の手紙は、楽しかった場所とか、こういうものが美味しかったとか、そういう他愛のない事を書いている。後は相手の話への返事とか。つまり普通の手紙のやり取りだ。
「それにしても今日からはヒナを独り占めだ」
「外なんだからあまり長くするのは無しだよ? ちゃんと周囲の警戒もしないといけないからね?」
「そこで禁止しない辺りヒナもえっちだよね」
「アリサに言われたくない」
アリサの精神衛生上も考えて、アリサが望めばする事にしていた。ただ、私がアリサに奉仕する事は九割九分九厘ない。てか、そんな事になったのは、偶にはとかでミラさんとやったりしたくらいだ。
「まぁ、それはさておき、最初の休憩所まで時間ギリギリだから、ちょっとだけ早歩きで行こう」
「それなら飛ぶ?」
「……それは最終手段。私も身体を鍛えないと。まだちょっと細っこいし」
「でも、大分ふっくらしてきたって言ってなかった?」
肉が付いて骨があまり浮いてこなくなってきたけれど、まだ平均よりも細い。向こうの世界では細い方が羨ましがられるけど、骨が浮いている状態を健康とは言い難い。太りたいという訳では無いけど、せめて平均的な身体付きにはしておきたい。
健康的な意味もあるけど、戦闘的な意味合いも大きい。ステータスで色々と誤魔化しが利くとはいえ、素の筋力があることに越した事はない。
「昔と比べたらね。ご飯も沢山食べられるようになってきたし」
「口の周りに付けちゃうけどね」
「うっ……でも、少しマシになってきたでしょ!?」
「う~ん……そうだね。次付けていたら舐め取っちゃおうかな」
「何だか、アリサが動物っぽくなっていく気がする……」
「ドラゴンですから」
澄まし顔でそう言うアリサに、思わず吹き出してしまう。アリサはこういう冗談を言えるくらいにドラゴンである事を受け入れている。私が全く気にしないというのもあるのかな。
今のところアリサの身体で問題は起こっていないけど、これから先もないとは限らない。でも、私だけはアリサを肯定し続ける。アリサはドラゴンじゃなくて人だから。
「ヒナ。フラワーマンティスが近づいて来た」
「珍しいね。倒して鎌だけ回収したら燃やしておこうか」
「そうだね」
フラワーマンティスが自分から近づいてくる事は珍しいが、絶対にないということはない。私達も数は本当に少ないが、遭遇した事がある。アリサが見つけたフラワーマンティスの首を弾き飛ばして倒し、鎌だけを回収して後はアリサに焼いて貰う。焼かないと死体が放置されるだけになってしまうから。
そもそもフラワーマンティスを食べたいと思わないから、焼くのに抵抗はない。売れる部位も基本的に鎌だし。
それから何体かフラワーマンティスやファングボアを狩る。森や花畑から飛び出してきた個体だけだから、そこまで多くないし、倒すのにも時間は掛からないから何も問題はない。
私達はウォンバットまでの道程を着実に進んでいった。




