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異世界旅はハンマーと共に  作者: 月輪林檎
二人旅の始まり

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全ての元凶

 シャワーを浴びてから一眠りして、夜。私は雷獅鷹の衣から普通の服に着替えて、黒い外套を身に纏う。寝る前にミラさんから受け取った資料は読んでおいたので、商会に関してはある程度知識を持っている。


「それじゃあ、行ってくるね」

「気を付けてね。何かあったら、雷で合図してね。飛んでいくから」

「アリサなら文字通り飛べるしね」


 アリサが心配そうにしているので、軽く抱きしめてから宿を出て行く。そして、路地裏に入ってから、二軒の建物の壁を蹴って屋上に上がる。


「ステータス様々だなぁ」


 ステータスがなかったら、こんな事は出来なかった。改めて異世界に来たって事を実感出来る瞬間だった。


「さてと……まずはここを見ている人がいないか確認かな」


 屋上から下を見て、宿を見ている人がいないかを探す。すると、スキルを獲得した。


『スキル【隠密】を獲得』


 こそこそと隠れている状態だからなのか、隠れるためのスキルを手に入れた。これまでも何度かモンスターの様子を探るのに隠れている事があったので、獲得までの経験値が溜まったのだと思う。

 これからこそこそする事になるので有り難い。

 その状態で宿を監視している人を探し続けた。【暗視】があるから、夜の暗闇でもある程度判別が付く。


「いた」


 あからさまに怪しい人が、宿の方をちらちらと見ている。路地裏の壁に背中を付けて宿を見ているのに、そうじゃなかったら逆に困る。


「脅す……いや、見張る方が良いかな」


 ジッと見ていると、その人が路地裏の奥の方に向かって行くのが見えたので、大通りを挟んだ向かい側の屋根に飛び移る。立ち幅跳びの世界記録を更新しているくらいには凄い事をしている。


「ふぅ……アリサに抱えられて飛んだ方が怖いって思ったかも」


 【精神耐性】のおかげで、ここでの怖いという感情は湧いてこなかった。そのまま怪しい人物を追っていく。すると、反対側の大通りに出て、別の路地裏に入っていった。


「また立ち幅跳び……はぁ……」


 足に力を入れて、反対側の屋上に飛び移る。そうして追っていくと、路地裏の空き地に他にも人がいた。怪しい人物が三人組と合流した。何かを話しているようなので耳を傾ける。


「どうだ? こっちの事はバレてるのか?」

「いや、気のせいだろ。取り敢えず、見た感じ騎士団が出入りしているような事はない」

「そうか……なら騎士団は、盗賊達のアジトに行っているって事だな。俺達の情報は残ってないよな?」

「分からない。騎士団の話を聞く限りでは、小屋は焼けているらしいから、情報も残ってないだろ」

「でも……盗賊に商会を襲わせるのはやりすぎだったんじゃ……」

「馬鹿。あのまま大規模輸送を担われたら、俺達の商会が潰されるんだぞ!? 大きな商会に取り仕切られたら、小さな商会は立ちゆかないだろうが! こうして適度に被害を出して、俺達が噛む要素を作るんだよ」

「俺達四人しかいない商会がのし上がるには、必要な事だったんだ」

「でも! あんな事になるなんて知らなかった!」

「相手は盗賊なんだから、そうなってもおかしくないだろうが!」


 話の内容が分かるくらいには、大きな声で話してくれる。興奮しているからかな。おかげで、相手があの四人しかいない事が分かったし、彼奴らがジルさんが盗賊の被害に遭ったきっかけを作った事も分かった。

 ジルさんが所属している商会は、結構大きな輸送事業も担っている。それに加えて、この辺りの商売もある程度担っている。だから、小さな商会が、この場所でのし上がろうと考えたら、まずはジルさんが所属する商会の傘下に入るか、力を削ぐしかない。

 そして、彼奴らは力を削ぐために盗賊に情報を流した。力の削ぎ方が犯罪者そのものだ。


「ここで殺すか……でも、さすがに正当防衛じゃないからなぁ……普通に犯罪者になる。ただなぁ……確かな証拠がないから、情報提供も難しい。脅すか」


 私は五階くらいの高さから飛び降りて、四人を路地裏に追い詰めるようにして着地する。


「うおっ!? な、何だ!?」


 四人とも困惑しながら私を見る。今の私は、外套のフードを目深に被っているので、顔が見えにくくなっている。


「お前達がやった事を知ってる。全てを自首して罪を償って。さもないと……死んだ方がマシと思えるような事をする」

「はっ! ガキが何言ってやがる!」


 私の声から子供だとバレたらしい。声変わりは一回くらいしているはずだけど、そこまで低くはなっていない。子供っぽい声である事には間違いない。

 私に向かって一人の男が殴り掛かってくる。だから、拳を避けてお腹に向かって拳を叩き込んだ。


「おぶっ……」


 殴ってきた男がそのまま吹っ飛んで壁に激突した。


「ごふっ……」


 男が血を吐いたので、内臓か何かがやられたかな。まぁ、向こうから殴り掛かってきた身を守っただけだし。


「死ぬ方を選ぶって事で良いんだよね?」

「い、いや!? ちょっと待って!」


 一人だけ及び腰だった人が私を止める。


「自首する! するから!」

「おい! そんな事したら!」

「でも! 僕達がやった事でいっぱい死んだ! あの人だって、心に傷を負っていた! 僕達はやってはいけない事をしたんだよ!」

「んなもん! 彼奴らの商会だって同じような事をしてるに決まってんだろ!」

「その証拠あるの? そんな適当な事で思い込んで、多くの人を盗賊に殺させて、多くの人の身体を凌辱させたの? そう。生きてる価値ないね」


 私がそう言うと、全員が怯えた表情をする。私が一歩踏み込む度に後ろに下がっていく。


「自分達が正しいって思い込んで、自分達のしている事を正当化して……自分のためなら、他人がどうなっても良いんだよね? それがどういう事なのか。自分達の身をもって思い知ったら?」


 私は雷鎚ミョルニルを金槌の大きさにして近づく。すると、さっきと同じ人が前に出て来た。


「全て騎士団に話す! だから、見逃して欲しい!」

「それで何かが変わるの? 傷付いた人は何も変わらないって理解してる? 死んだ人の一生は戻ってこないけど? 正直反省を促すつもりだったけど、結局あなた達が満足するだけだし、ここで死んだ方が世の中のためでしょ」

「そ、そうかもしれない……だけど! 一生を使って償うから!」

「具体的には?」

「え?」

「具体的に何をするの? 何を持って償いだと思ってるの? てか、騎士団に自首したら、そのまま極刑の可能性も十分にあるけど」


 私がそう言うと、全員が顔面蒼白になる。自首すれば極刑はないと思っていたのかもしれない。自分が犯した罪の重さを認識していないらしい。


「殺せ……ごふ……」


 私がぶん殴った男が血を吐きながらそう言った。その言葉に、他の三人が振り返る。


「こいつがいたら……俺達は……おしまいだ……」

「あ、ああ……その通りだ」

「だ、駄目だよ!」

「うるせぇ! お前は引っ込んでろ!」


 間に入っていた男が突き飛ばされて、残り二人が突っ込んで来た。その手には、短剣が握られている。これなら正当防衛は成り立つかな。短剣を避けて、頭を的確に打ち抜いた。頭が破裂して倒れる。

 それを見て気後れしているところに雷鎚ミョルニルを投げつけて、心臓を潰す。雷鎚ミョルニルを手元に戻して、最初に殴った男の頭も潰す。


「あっ……あっ……」


 一人生き残った男が絶望したような表情になっていた。目の前で仲間を三人も殺されたのだから、当たり前だろう。

 私が視線を向けると、必死に逃げようとしてくる。


「逃げるんだ? じゃあ、殺すね」

「ひっ! ま、待って!」


 逃げようとしていた男は止まって両手を前に出す。それでも足は止めない。逃げるための時間稼ぎかもしれないから。


「何?」

「自首する! これも仲間内の揉め事にする! だから!」

「信用出来ると思う? たった今殺しに来た奴等の仲間なのに?」

「本当! 本当だから!」

「ふ~ん……じゃあ、見逃してあげる。明日までに自首して。でも、何かこっちに不利益があったら……どこにいても見つけ出して殺すから」

「わ、分かった……」


 信用はしていないけど、こっちにとって都合の良い事になるかもしれないから、一旦放置しておく事にした。私は壁を蹴って屋上に上がって行く。そして、また屋根を伝って宿に戻る事にする。


(返り血が付いてるから、窓から中に入るかな)


 そんな事を考えていると、私が着地しようとした建物のベランダに人が出て来た。その人がユイリナさんだったので、驚いて着地をミスした。


「あっ……」

「え?」


 私が上から落ちてきたからか、ユイリナさんは驚いていたけど、咄嗟に手を伸ばして私の足を掴んだ。


「えっ? えっ!?」

「あ、そのままで……」


 逆さづりになった私は、雷鎚ミョルニルを元の大きさに戻してベランダの欄干に引っかけて身体を起こす。そして、ユイリナさんのベランダの中に入った。


「ヒナ様?」

「あはは……」


 帰り道でユイリナさんに遭遇してしまった。


(さて、どうやって言い訳しよう……)

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