保護者として
ギルドを後にした私達は、宿舎に帰ってきて昼食を食べてから部屋に戻る。汗を掻いたので、お風呂に入ってゆったりとする事にした。
「ふぅ~……」
「お風呂が好きなの?」
「う~ん……好きですね……って、メイリアさん!?」
いつの間にかメイリアさんが浴室に入ってきて汗を流していた。湯船で目を瞑っていたから全然気付かなかった。湯船に浸かっていると、他の音がどうでも良くなる事があるし、久しぶりの激しい運動で疲れていたから余計に気付きにくくなっていたのだと思う。
均整の取れた身体に普段の服では隠れている確かに育っている胸。いつも綺麗な人という印象を受けるけど、こうして裸体を見ると改めて綺麗だと思う。
汗を流したメイリアさんは、髪をタオルで縛ってから私の後ろに入って来た。必然的にメイリアさんを背もたれにする形になる。朝にミナお姉さんのクッションで安らぎを得ていたからか若干物足りない。
「それでビビアンとは楽しかった?」
「ん? はい。楽しかったですよ」
「それは良かったわ。可愛がって貰えたという事ね。まさか、本当に手を出されるとは思わなかったけれど。ああ見えて、いざという時の行動力はあるわよね」
「へ?」
メイリアさんの言葉から私がビビアンさんと関係を持ったという事が、メイリアさんにバレているという事が分かってしまった。
「えっと……何故バレてるんですか?」
「あら、本当にそうなのね。鎌掛けて良かったわ」
完全に誘導させられた。ちゃんと疑うべきだった。メイリアさんは、あの場にいた訳がないのだからバレているなんて事はあり得ないと。
「はぁ~……こっちは鋼の意思で保護者の立場でいるのにね」
メイリアさんはそう言いながら、私をぎゅっと抱きしめる。やっぱりメイリアさんも私の色欲にやられているのかも。メイリアさんは、私の事情を知っているから、ある程度は伝えても良いかな。
「そうだ。メイリアさんに伝えておこうと思うんですが」
「何?」
「何かわたしの魂に刻まれている力が溢れているらしいんです」
「ん? う〜ん……まぁ、良いわ。続けて」
メイリアさんは一瞬困惑していたけど、取り敢えず話を全部聞いてくれるらしい。
「その力が色欲らしいんです」
「色欲……スキルではなくて?」
「その内スキルとしても獲得出来るらしいんですけど、私が好きになった人には、私が魅力的に見えるようになるらしいんです」
「知っているわ。珍しいスキルの中でも有名ではあるから。なるほどね。私の気持ちがヒナちゃんの力に引き摺られたものだと?」
メイリアさんは不服そうにそう言う。でも、その可能性はあるので頷くしかなかった。
「全くもう……そんな事をヒナちゃんが気にする必要なんてないのよ。色欲の力で魅力的に見せられているのかもしれないけど、それでヒナちゃんを好きになったのは私自身なののよ」
「気持ちが無理矢理とかってないですか?」
「ないわね。魅力的に見える人と実際に好きになる人が必ずしも同じとは限らないでしょう?」
「う、う~ん……どうなんでしょう?」
魅力的に見える人がアイドルだとして、実際に好きになっていく人は、普通の人みたいな感じなのかな。自分にとって手頃なところで済ませるとか。それだとおかしいか。アイドル好きだけど、愛しているのは別の人という感じというだけで考えておこう。
「実際、初対面で会っても可愛い子だなと思ったくらいで、こうしてヒナちゃんを好きになったのは、ヒナちゃんを過ごしていく中だから。いや、それでも色欲に引かれてという事にはなるのかしら。でも、急に魅力的に見えるようになったとかはないわよ?」
「なるほど……」
メイリアさんが実際に感じている事がその通りなのなら、私が強制的に好きにさせるという事はないと考えても良いのかな。
「それにしても魂に刻まれた力ねぇ……そういうのってどこから知識を得るの?」
「神様のところ行けるスキルがあるので、そこで教えてもらったんです、多分ビビアンさんとしていたのを見られていたので……教えてくれたんだと思います」
「ふ~ん……じゃあ、これも見られているの?」
そう言われると、実際にはどうだか分からない。でも、ミナお姉さんの口ぶり的には、こういう時でも普通に見守っているらしいけど、部屋の構築とかで見ていない可能性もなくはない。
「多分……基本的には私を見守っているらしいので」
「それを意識すると、急に恥ずかしくなるわね……見守っている神様は、こうしてヒナちゃんを可愛がっているのを許してくれるのかしら?」
「はい。向こうに行ける日は、向こうでも可愛がって貰えますから」
「そう……ヒナちゃんの魂に色欲が刻まれているのは、あながち間違っていないのかもしれないわね。私が思っていたよりも淫らな子だったわ」
唐突に失礼な事を言われたような気がする。いや、私がやっている事を考えたら失礼でもないかもしれない。レパ、ミナお姉さん、ビビアンさんと転生してから三人と関係を持っている時点で、普通に色欲の人間という風に見られてもおかしくないから。
「そういえば、ヒナちゃんって基本的にネコ?」
「き、急に何を訊いてきてるんですか!?」
「え? いや、ヒナちゃんの性格的にそうかなって。まぁ、その反応で分かったわ。ところで、明日からは普通に狩りを続けるのかしら?」
唐突に話題が真面目の方向に向かった。メイリアさんのこの方向転換に一瞬返事が遅れてしまう。
「え? あ、はい。三日働いて一日休んで三日働くという感じでいきます」
「了解。それじゃあ、明日は狩りね。しばらくは私も狩り場に付いていくから、そのつもりでいて。団長からも許可は得ているから。ついでに、調査も出来るからってね」
「そんなに私優先にしていて大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。クビになったら、冒険者になるしね。それじゃあ、私はそろそろ出るわ。あまり長風呂しないようにね」
「え? あ、はい」
メイリアさんは、私の頬に軽くキスをしてから浴室を出て行った。一人湯に取り残される事になった私は、突然のことに少しぼーっとしてしまった。そして、我に返って気付く。
「えっ……あの会話で何もされないって事あるの!?」
あの会話をした時点で、もうそのつもりになっていたから、いつかないつかなとちょっと楽しみになっていたのに。お預けを食らってしまい、欲求不満である。
まぁ、正直どうしようもないので、私もお風呂から出て身体を拭き部屋着に着替える。丁度着替えたところで、扉がノックされる。まだ髪が湿っているけど、外に出られない格好ではないので出る事にした。
もしかしたらメイリアさんが帰ってきてくれたのかなと期待しながら出たら、そこにいたのはミモザさんだった。
「あれ? もう定期検診は終わったんじゃ……」
「定期検診は終わりましたが、私個人が遊びに来る事をやめた覚えはありませんよ」
魅力的なウィンクが私を貫く。欲が高まっているから、尚更魅力的に見える。取り敢えず、入口で止めている訳にもいかないので、ミモザさんを部屋の中に招き入れる。
「お風呂に入っていたのですね」
「はい。今日は討伐依頼をしてきて汗もかいたので」
「お身体に変調はありますか?」
「全然ないですよ。普段通りに動けました。メイリアさんも見ているので、嘘ではないと証明出来ます」
「それは良かったです。ですが、髪はしっかりと乾かした方が良いですよ」
ミモザさんは脱衣所の方から私が使っていたタオルを持って来て、私の髪を拭いてくれる。
「はい。しっかりと乾きましたね。ヒナちゃんは、あまり乾かさないのですか?」
「いえ、ちょうどミモザさんがいらっしゃってタイミングを逃した形ですね」
「それは失礼をしました。ちゃんと乾かせるのは偉いですね」
ミモザさんはそう言って頭を撫でてくれる。こっちの世界に来てから、周りに年上しかいないからか、こうして甘える事が普通だと思ってしまっている。もう少し大人になるべきか。次にキティに会ったとき、キティが大人になっていたらどうしよう。いや、キティは子猫のままのはず。同い年だけど。
「実はヒナちゃんのために軽食を買ってきたので、どうぞ」
ミモザさんはそう言って持って来た紙袋を開いた。その中にはベビーカステラが入っていた。
「ベビーカステラだ」
「はい。蜂蜜入りですので甘くて美味しいですよ」
「やった。ありがとうございます」
どうやらこっちでもベビーカステラと言うらしい。というより、転移者か転生者が流行らせたのかもしれない。
私は、ミモザさんと一緒にベビーカステラを食べる。運動した後だからか、良いおやつになった。しっかりと完食すると、ミモザさんは私の頭を撫でてくれた。そんなところまで褒めなくても良い気がするのだけど。
「そういえば、ハヤトさん達の旅は大丈夫なんですか?」
「はい。今回のグリフォンの件も調べるつもりらしいので、また長く滞在する事になりそうです。ジェーンは喚いていますが、勇者様は街の危険は排除すべきという考えで行動しているようです。私も教会などで仕事をしていますね」
「レベル上げとかって大丈夫なんですか?」
「はい。少しずつモンスターは狩っていますので問題はないと思います。向かって来るモンスターは基本的に倒しますし、森の奥の方に向かえば、平原などよりも強いモンスターはいますので」
ハヤトさんは、自分なりの勇者としての仕事を頑張っているというところかな。魔王退治だけが勇者の為せる事じゃないだろうし。というか、こういう性格だから召喚されたのだと思う。
ミモザさんは街での仕事をしてお金を稼いでいるという事かな。いや、それが聖女としての役割と思っての行動かもしれない。それだと私と一緒にいるのは良いのかな。
「さてと、私はそろそろお暇します。今度ヒナちゃんがお休みの日に遊びに行きましょう」
「あ、はい。私も行きたいです。明後日がお休みなので、明後日はどうですか?」
「はい。構いませんよ。では、明後日の朝に迎えに来ますね」
「はい!」
ミモザさんを見送くる。夜になると、メイリアさんが帰ってきていつも通りに寝る。メイリアさんとは、本当に何もなく過ごしていった。




