ミモザさんとデート
翌日もホーンラビット狩りをしていった。メイリアさんは、ただ見守るだけだったけど、その場にいるという心強さがあった。何が来ても今なら大丈夫と安心出来たから、普通に落ち着いてホーンラビットの狩りをする事が出来た。
ビビアンさんも復帰しており、受付を担当してくれた。関係を持ったからか分からないけど、いつも以上に頭を撫でて貰ったりして心が温かくなった。その分周りからの視線も温かった気がするけど、多分気のせいだろう。
その時に教えて貰ったのだけど、そろそろランクが上がるらしい。既にDランクの素養を持っているのだけど、規定通りEランクへのランクアップになるみたい。依頼をこなした数によって、ランクが上がるみたい。ただし、採取依頼を一件はやらないといけないみたいだから、そこだけ頑張らないと。
そんな一日を過ごした翌日。今日は予定通り休みの日で、ミモザさんとのデートの日でもある。ちょっと楽しみで、夜にウキウキしていたら、メイリアさんが寝ぼけて私を抱きしめて来たので、別の意味で寝られない時間が出来た。まぁ、それでも早めにベッドに入ったから、十分に寝る事が出来たけど。
メイリアさんと朝ご飯を食べた後、お出かけ用の服に着替えていく。
「これで良いかな」
私が選んだのは、シンプルな白のワンピースと水色の薄手のカーディガンだ。ワンピースがノースリーブなので、カーディガンを羽織ると丁度良い感じだ。白い小さな鞄にお財布を入れておく。インベントリはあるけど、見せびらかすようなものでもないし、おしゃれの一つだ。
服を決めて五分くらいすると、ミモザさんが迎えに来てくれた。ミモザさんは、黒いシャツワンピースを着ている。お腹辺りで軽く締めているので、ちょっとだけ胸が強調されている。本当に自分を魅力的に見せるのが上手い。いや、私に魅力的に見せるのが上手いのかな。いや、これなら誰でも振り向く気がする。
「可愛いですね」
私がミモザさんを褒める前に、ミモザさんが私の頭を撫でながらそう言う。大人な感じのミモザさんと比べると、私の服装はかなり子供っぽい気がする。
「清楚系で背伸びしている感じがしますね」
「え? 子供っぽくないですか?」
「はい。いつもの運動着などよりも大人っぽく見えますよ」
ミモザさんにそう言われてどうしようもなく嬉しくなる。でも、これって、子供に対するような言葉掛けではとも思ってしまう。まぁ、十五歳のおしゃれなんて、大体そんなものかな。おしゃれに目覚めるくらいの歳な気がするし
「あっ、ミモザさんもお似合いですよ。いつもと違う雰囲気で可愛らしさの中にクールさがあるような感じです」
語彙力がなさが際立つ褒め言葉だった。これでも目一杯の褒め言葉だ。それに、実際見た感じでそう見えてしまうので、内容自体に間違いはない。
「ありがとうございます。では、行きましょうか」
差し出されるミモザさんの手を取って、デートに出掛ける。メイリアさんとビビアンさんと観光地巡りをしていたけど、それはミモザさんに話した事があるので、今日は違う場所に向かうらしい。
案内された場所には綺麗な建物があった。屋根の先端には円形の何かしらのシンボルが飾られている。さらに、ステンドグラスも見える。多分月のステンドグラスかな。光を反射しているそれは、とても綺麗だった。
イースタンの街並みを構成している家々と比べると、結構変わったような建物だけど、それがどういう建物なのかは分かった。その建物は、私がその建物に持つイメージそのままの姿だったから。
「教会ですか?」
「はい。燈灯教と呼ばれる宗教の教会です。この世界を照らす太陽と月を信仰する宗教です」
「神様じゃないんですか?」
「いいえ、神ではあります。太陽と月は、私の生活を見守っています。起きれば太陽が。眠れば月が。そうした太陽と月を神と崇め、感謝し祈りを捧げ、毎日の活力を授かるのです。そうすることで、私達の生活はより安泰となり幸せな生活を送る事が出来ます」
「なるほど……」
確かに太陽や月の神様はいる。正確には存在するというよりも、どこの神話にもいるって感じだけど、多分それと同じかな。特に太陽神は、最高神としても扱われていたはず。日本の神話なら、太陽の神は天照大御神。月の神は月読命。後は……よく覚えていない。確かエジプト神話でも最高神が太陽の神様だったかな。
燈灯教は、明確に名前を付けているわけじゃないみたいだけど、太陽と月を神としているって感じかな。
「ヒナちゃんはどこかに入信していますか?」
「魂を司る神様を信仰しています」
「宗教名はないのですか?」
具体的な神様の種類だけで、宗教の名前を言わなかったからかミモザさんは首を傾げていた。こうして訊いてくるという事は、ミナお姉さんを信仰している宗教がない事と魂を司っている神様を信仰している宗教がないという事を表していた。
(本当にミナお姉さんの事は知られていないみたい。いや、燈灯教が太陽と月への信仰である事を考えると、実在の神様を信仰している宗教が存在するのかも怪しいか)
聖女であるミモザさんの口から出ているので、多分間違いはないと思う。
「はい。特にはないですね。色々あって信仰しているというものなので」
ミナお姉さんの事はこの世界に知れ渡っていない。それがはっきりとしたのだから、迂闊に名前を出すような事はせずに、何かきっかけがあったという事だけを伝えるに留めた。ミナお姉さんに迷惑を掛けたくないしね。
「なるほど。もし良ければ信徒になりませんかとお誘いするつもりでしたが、それでしたら無理強いは出来ませんね。ですが、教会の見学をしていかれませんか? よい経験になると思います」
「はい! ちょっと気になります!」
教会というものに前世でも行った事がなかった。そもそもうちは信仰している宗教はなかったし。なので、異世界のものとはいえ、その中身は気になる。
ミモザさんと手を繋いで教会の中に入っていく。教会には大きなステンドグラスが二枚対面に張られており、入口にあった月の対面に太陽のステンドグラスが張られている。二枚を比べると、太陽の方が少し大きいかな。
(この世界の東西南北は分からないけど、太陽のステンドグラスは沈む方向。月のステンドグラスは出て来る方向にあるかな。
多分東西は合っているだろうと仮定すると、西日になると太陽光が太陽のステンドグラスから入ってくるようになっているみたいな感じに見える。夜になって月の時間になったら、月光が月のステンドグラスから入ると。
逆でも朝日を表したりと意味を持たせられるけど……この配置に意味を持たせるとしたら……)
ステンドグラスを見ながら考えていると、ミモザさんが話し掛けてきた。
「太陽と月が何故この配置になっているか分かりますか?」
ちょうど私が考えていた事だった。正直正確な答えは分からないけど、自分なりの考えはなんとなく出せた。
「太陽は沈んでも私達を見守る。月は太陽が昇っても私達を見守る。例え天にいなくとも常に私達を見ているという意味でしょうか?」
考えられる答えを述べると、ミモザさんは目を大きく見開いてから、私の頭を撫でる。
「大正解です。太陽が中心にあるような配置になっているのは、遙か昔、燈灯教が生まれた頃の灯りの無かった時代は、生活が太陽と共に動くというものだったからと言われています」
確かに沈んでも見守っているという点は二つとも同じだから、どちらも同じ方向にステンドグラスを張っても問題はない。でも、実際には対面に張られており、私がしたような太陽が沈んでも太陽が昇ってもという太陽を中心としたイメージが強い。太陽のステンドグラスが少し大きくされている事も関係しているかな。
その理由が、今のように夜間でも灯りが充実している時代の前からある宗教で、太陽と共に生活をしていたかららしい。確かにそれなら太陽が中心寄りになっているのも納得だ。
「それじゃあ、あのシンボルの像は、太陽を表しているんですか?」
太陽のステンドグラスの下にある建物の屋根にもあった像を指して訊く。正直、ぱっと見ではそれがどういう像なのかは分かりにくい。
「いえ、太陽と月を合わせたものとなっています。中心の球が太陽と月を模しており、その周りが陽光と月光を模しています。よく見てみると少し違いが見えてきませんか?」
そう言われてジッと見てみると、球の方には半分から右が燃えるような意匠、左が少しだけ凹凸のある意匠になっている。右が太陽で左が月って事かな。陽光と月光の方は、少し荒々しい感じの陽光と滑らかな感じの月光という風に二つが重なっているように見える。
「何となく分かる気がします。右が太陽で、左が月。荒々しいのが陽光で、滑らかなのが月光ですよね?」
「はい。大正解です」
正解した。やったね。
内心喜んでいると、奥の方から神父様が出て来た。綺麗な服を着ているので、多分神父様で合っている。
「おや、ミモザ殿。今日は如何されましたかな」
「神父様。今日はこの子の案内で来ました。入信予定ではありませんが、私が信仰している宗教を知ってもらおうと思ったので」
「そうでしたか。小さな教会ですが、ごゆっくり見学なさってください」
「はい。ありがとうございます」
感謝を伝えると、神父様は優しく微笑んでまた奥へと戻っていった。誰か来たのに気付いて出て来てくれただけみたいだ。
「シスターさんはいらっしゃらないんですか?」
「今は買い物中だと思います」
「あっ、なるほど」
一通り教会の中を見ていく。ちょっとした彫像とか色々とあるので、結構楽しかった。小さな美術館って感じかな。こんな感覚でいて良い場所なのかな。まぁ、ゆっくり見学しろと言われたのだから、良いはず。
教会を出た後は、雑貨屋で色々と見て回った。欲しいと思うものがなかったので、特に何も買わなかったけど、ぬいぐるみ屋では少し迷った。それはミモザさんも同じだった。
子犬と子猫のぬいぐるみをジッと見ている。
「ぬいぐるみを買って、旅の邪魔になりませんか?」
「一応【アイテムボックス】はあるので」
「あっ、そうなんですね」
少ないと聞いていたけど、総人口から考えての割合なのだと思う。そう考えたら、知り合いに二人いてもおかしくはない。
「ヒナちゃんは、どっちが好きですか?」
「う~ん……どちらかと言えば猫ですかね。犬も大好きですけど」
「猫ですね。確かにヒナちゃんは猫っぽいですね」
「…………」
メイリアさんに言われた事を思い出して複雑な気持ちになる。行動は犬だけど、夜は猫という何とも言い難い扱いだ。
取り敢えず、それを悟られないように羊のぬいぐるみを手に取る。優しい雰囲気がビビアンさんに似ている気がする。それとシスター服を着た熊のぬいぐるみも手に取ってみた。熊のイメージはないけど、顔の雰囲気とシスター服でミモザさん的な感じがする。
「羊と熊ですか?」
「はい。まだ無駄遣いは出来ないので、ちょっと迷いますけど」
「では、プレゼントします」
「あ、ありがとうございます」
ミモザさんが羊のぬいぐるみと熊のぬいぐるみを回収していったので、遠慮するという事も出来ずに感謝する事にした。そうしてビビアンさんっぽい羊のぬいぐるみとミモザさんっぽいシスター熊のぬいぐるみを手に入れる事が出来た。




