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異世界旅はハンマーと共に  作者: 月輪林檎
異世界転生

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30/152

復活

 目を覚ますと、空が見えなかった。何かテント的な物の中に入っている事は分かる。でも、そのテントに全く覚えがないので、若干困惑した。それに若干頭痛もする。状況が飲み込めない。


「ヒナちゃん?」


 声がする方向を見ると、何故かミモザさんがいた。ミモザさんは安堵したような表情で私を見ている。でも、本当に何でミモザさんがここにいるのだろうか。テントという事は街の中ではなく、どこかの外だと予想出来る。つまりグリフォンと戦って、意識を失ってからどこかに移動させられたって事なのかな。


「これ何本か分かりますか?」


 ミモザさんが二本の指を出して訊く。


「二……」

「視力は回復しているようですね。左の視界も問題ないですか?」

「……? はい」


 そう返事をすると、ミモザさんが私の左手を取る。ミモザさんの柔らかく細い指の感触がする。


「触れられている感覚はありますか?」

「はい……」

「今はどんな香りがしていますか?」

「香り……ミモザさんの香り……」

「口を開けてください」


 言われた通りに口を開ける。そこにミモザさんが棒状の何かを入れる。ミモザさんの方から舌に棒を乗せるので、甘い味が広がる。


「どんな味がしますか?」

「甘い」

「感覚は大丈夫そうですね。意識を失う前の出来事を思い出せますか?」

「失う前……グリフォンと戦って……グリフォンの攻撃が当たった……?」

「記憶はしっかりとしているようですね。脈拍も正常。呼吸も問題なし。ご気分が優れない等はありますか?」

「頭痛と倦怠感……」


 少し落ち着いたからなのか、頭の痛みはそこまで感じなくなっている。ただじんわりと痛みがあるような感覚だ。倦怠感は、こうして寝ている状態でも怠いと感じるくらいにはある。


「顔色も悪いですし、貧血になっているのかもしれませんね。増血剤を飲みましょう」


 ミモザさんは、テント内にある鞄の中から錠剤を取り出す。そして、背中を支えながら私の上体を起こすと、錠剤を二粒口に入れた。そして、水筒の水を飲ませてくれようとするけど、何か口が上手く動かない。喋る事は出来るから舌は動いているのだろうけど、咥えられない。

 すると、ミモザさんは自分で水を口に含み、口移しで飲ませてくれた。おかげで錠剤を飲むことが出来た。


「ごめんなさい……」

「いえ、ひとまず安静にしていてください。ヒナちゃんは、本当に生きているのが不思議なくらいの状態だったのですから」


 生きているのが不思議。そういえば、最後に見た光景では、腕とか脚がなくなっていたはずだけど、しっかりと戻っている。確かに常人なら死んでいないとおかしいはずだ。でも、私には【不死】があった。本来なら期間限定だったらしいけど、奴隷時代に何度も死を経験した事で定着してしまったスキル。

 しかし、私に死の記憶はない。死に至るまでの記憶はあるかもしれないけど、いつどのタイミングで死んでいたのかは分からない。今回みたいにあからさまなのはなかったから。頭を殴られて毎回死んでいたという可能性も否定出来ないというのが怖いところだ。栄養失調とか餓死とかもあったはず。そのくらい消耗していた事があったから。でも、死を実感した事はない。そのくらい曖昧だ。


「はい……」

「では、回復のため今しばらくお眠りください」


 そう言ったミモザさんは、ポーチから紙を取り出して、私の鼻の前で振る。すると、甘いような良い香りが鼻から入ってきたと思ったら、すぐに意識が途絶えた。


────────────────────


 ヒナを睡眠剤で眠らせたミモザは、テントを出た。テントが張られている場所は、ヒナが倒れていた場所だった。ヒナを大きく動かす訳にはいかないので、ここでテントを張って治療を優先する事にしたのだ。丁度グリフォンによって開けた場所になっていたという事も大きい。周辺の火事も調査団の面々により鎮火させられている。

 外に出たミモザの元に、メイリアが近づいてくる。


「ヒナちゃんの容態は……?」

「もう大丈夫です。先程意識が回復し、視力や諸々の感覚、記憶などを確認しました。全て問題なしです。ですが、貧血の症状と思われるものがありましたので、増血剤を飲ませた上で眠って貰っています。もうしばらくは安静にして様子を見ましょう」

「分かりました……本当にありがとうございます」


 メイリアは、頭を下げてお礼を言う。対して、ミモザは両手を振る。


「いえ、お気になさらず。ヒナちゃんを助けるのは当然ですから。それより周辺の様子は如何ですか?」

「騎士団が到着し、分隊編成で調査しています。冒険者や一部の調査団は業務を交代し、既にイースタンに戻りました。勇者様ご一行も報告のために帰還しています。ミモザ様には、治療に集中するように伝えて欲しいと言伝を預かりました」


 本当ならば、ヒナの無事等も確認してから戻りたいと思っていたハヤトだったが、ジェーンが『さっさと報告した方が良いだろうよ。街道の安全にも繋がってくんだからよ』と言ったのがきっかけとなり、先にイースタンへと戻る事に決めた。

 その決意を固めたところで、騎士団の応援が来たので、入れ替わりで戻っていったのだった。だが、治療と経過観察のためにミモザは残る事にしており、ハヤトもそう言うだろうと考えたためにミモザは置いていく事にしたのだ。


「分かりました。私もお願いしようと思っていましたので丁度良かったです。私はヒナちゃんに付いていますので、この場の護衛をお願いします」

「お任せ下さい」


 メイリアは、ヒナの入っているテントを守るために、この場を離れない。そして、ミモザはヒナの容態が急変しないように見守る。


────────────────────


 再び目を覚ますと、空が明るい気がした。夕方というよりも朝という雰囲気だ。大分寝ていたらしい。いや寝かされていたという言うべきか。身体の倦怠感は残っているものの頭痛はない。隣には、ミモザさんが眠っていた。

 でも、私が起きた事に気付いたのかすぐに目を開いたので驚いた。


「起きましたか? 気分は如何でしょうか?」

「怠いですけど、さっきよりも良くなりました……」


 私がそう言うと、ミモザさんは身体を起こしながら、私の頭を撫でてくる。ミモザさんの手の感触を直に感じ取った。


「それは良かったです。顔色も戻っていますので、順調に回復していますね。今の時間は……朝ですか。もう一日休んでから街に戻りましょう。メイリアさんにもお伝えしてきます」

「え……メイリアさんが来てるんですか……?」

「はい。ヒナちゃんを最初に見つけたのもメイリアさんです」


 ミモザさんはそう言って、私の額にキスをすると、テントを出て行った。キスをされた場所から身体が温かくなるような感覚が広がっていく。これも魔法か何かなのかな。

 それから十秒もしないうちに、メイリアさんがテントに入って来た。メイリアさんは、私と目が合うと、安堵したような表情と共に涙を零した。


「ヒナちゃん……本当に良かったわ……」


 メイリアさんは私の傍に座り込むと、私の頭を優しく撫でた。メイリアさんの手も直に感じ取れる。

 メイリアさんにも本当に心配を掛けてしまったらしい。私の保護者にもなっているメイリアさんからしたら、私が死んでいるのも同じ状態になっているのは、本当に耐えがたいものだっただろうと思う。


「ごめんなさい……」

「謝る必要なんてないわ……私の方こそごめんなさい。通常業務よりもヒナちゃんを優先するべきだったわ。私が門で待っていれば、そこに戻ってくる選択肢も取れたでしょうに……」


 確かに、それは私も考えた。メイリアさんがいてくれたら戻る選択肢があったのは事実だった。それでも、私はメイリアさんが悪いとは思わない。


「メイリアさんのお仕事ですから……自分を責めないで下さい……」

「……ありがとう」


 メイリアさんは、私頬を優しく撫でる。それは私が生きている事を確かめるような手付きだった。そして、小さく微笑むと、私の額にキスをしてから立ち上がった。


「そろそろ騎士団の分隊が帰ってくる頃だから、私は行くわ。ミモザ様が付いてくれるから、大人しくしていてね」

「はい……あっ、私のトールは……?」

「アーティファクト? 回収はしてあるわよ。本当に重いのね。私以外だと持ち上げるのも大変そうだったわ。外に置いてあるから、帰る時に回収しましょう」

「はい……」


 一応、メイリアさんが雷鎚トールを回収してくれたらしい。かなりメイリアさんでも重いと言うのなら、本当に重い武器みたいだ。私が簡単に持てるのは、あくまで私が選ばれたからだろう。

 メイリアさんと入れ替わりにミモザさんが入ってくる。そのミモザさんは何かの器を持ってきていた。朝ご飯かな。


「食欲はないでしょうが、少しだけお腹に入れましょう。今のヒナちゃんは、エネルギーがありませんので」

「はい……」


 背もたれがないので、ミモザさんの身体を背もたれにしながら、ミモザさんに重湯を食べさせて貰う。ミモザさんの胸が良いクッションになって癒しを得ていた。重湯を食べ終わった後、器を戻しに行っている間だけ背もたれ無しに座ったままでいる。食べた直後に寝るのが良くないのは、こっちの世界でも同じらしい。その間にMPを消費して、足りない栄養を補給しておいた。

 その後はミモザさんの胸に頭を預けながら、ミモザさんの綺麗な声で紡がれる昔話を聞いて過ごしていく。その間に軽くステータスも確認しておいた。


────────────────────


ヒナ Lv9『雷鎚トール』

職業:槌士Lv4

MP:4011/4011 2522+189+700【MP超上昇】+600【竜の血】

筋力:2763(80)『2000』 1474+199+150【槌術】+40【剛腕】+900【竜の血】

耐久:3335(60)『1000』 2046+309+380【頑強】+600【竜の血】

敏捷:865『500』 584+201+80【疾駆】)

魔力:578『500』 578+100

器用:930 881+49

運:90 60+30

SP:90 60+30

スキル:【槌術Lv9】【投擲Lv1】

【雷魔法Lv1】

【MP超上昇Lv48】【剛腕Lv23】【頑強Lv47】【疾駆Lv7】【至妙Lv16】

【採掘Lv58】

【MP回復力超上昇Lv37】【重撃Lv16】【暗視Lv68】【見極めLv1】【気配察知Lv10】

【火耐性Lv8】【風耐性Lv6】【雷耐性Lv5】【斬撃耐性Lv5】【打撃耐性Lv10】【毒耐性Lv3】【痛覚耐性Lv10】【苦痛耐性Lv10】【精神耐性Lv10】

【高速再生Lv78】【竜の血Lv3】

【生命維持】【不死】【女神との謁見】

職業控え欄:旅人Lv1 平民Lv18 採掘者Lv48


────────────────────


 何か【竜の血】に目覚めていた。理由は分からないけど、再生力を増す効果があるみたいなので、もしかしたら身体を再生させる中で目覚めたのかもしれない。

 スキルレベルが一気に上がったスキルがいくつかある。MP関連は、多分再生中に衰弱死する可能性が高かったから、【生命維持】水分ら辺を補給した感じかな。耐性や【頑強】はあれだけの傷を受けていれば納得出来る。

 後は【見切り】が10まで成長してから【見極め】に進化したらしい。頑張って避けようとジッと攻撃を見ていたからだと思う。

 一つ気になったのは、こうして離れた場所にあるとしても、雷鎚トールを装備している判定だという事。まぁ、そうじゃないと投げたら、毎回装備が外れている判定になってステータスが上下する事になるだろうから普通なのかな。


「ヒナちゃん? 眠くなりましたか?」


 私がぼーっとしていたからか、ミモザさんが確認してくる。それでステータスを閉じて首を横に振った。ステータスを見ていただけだから眠くはなっていない。


「いえ、もうちょっと起きてます」

「そうですか? ですが、少し横になりましょう」


 ミモザさんはそう言って、私と一緒に寝袋に入る。大きな寝袋という事と私が小さい事もあって二人でも余裕だった。ミモザさんが私を軽く抱きしめるようにするので、丁度ミモザさんの胸に顔を押し付ける形になる。同時にミモザさんが軽く背中をトントンと叩くと、急に睡魔が襲ってきて、ミモザさんにしがみつくように眠りに就いてしまった。

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