盗賊となった以上は
その場に生き残っている盗賊がいないかを念入りに確認して、盗賊に襲われていた女性に駆け寄る。女性は大体十八歳くらいかな。ふわふわした水色の髪をしていて、兎の耳が生えている。腰にはふわふわの水色の尻尾もある。兎人族みたい。
「ひっ!?」
女性は私を見て怯える。耳をぺたりと閉じて、縮まっていた。
目の前で平然とした顔のまま盗賊を次々に惨殺していれば、怯えるのも当然だ。
「私はエスキモードッグから来た冒険者です。この近くで盗賊が出たと聞いて排除しに来ました。怪我を治しますね」
あちこち擦り傷や切り傷が残っている。なので、雷鎚ミョルニルを使って傷を癒す。外傷だけは治せるけど、心はそうもいかない。ジルさんと違って、声は失っていない。
インベントリから大きめの服を用意して手渡す。私だとサイズ的にギリギリなので、腰から下には新品のアリサのショートパンツを渡す。
「あ、ありがとう……」
「他に捕まっている人に心当たりはありますか? 人の気配がほとんど感じなくて」
「あ、えっと……私も分からない。ちょっと待って」
そう言って女性は眼を瞑り、耳をあちこちに向けていた。音で探ってくれているみたいだ。私は音を出さないようにするため、身動き一つ取らずに、女性が口を開くのを待つ。
「向こうに微かに呼吸音が聞こえる」
「盗賊の寝息かもしれません。私が先に歩きます。後ろから道の指示をお願い出来ますか?」
「分かった……」
女性は少し顔を強張らせながら頷いた。この場所と私への怖さが拭えていないからかな。でも、協力があれば捕まっている人を救える可能性が増えるので、一緒に来てもらう。
「私はヒナです」
取り敢えず、名前を知れば、少しだけでもマシになるかなと思って自己紹介しておいた。
「私はローナ」
「よろしくお願いします。ローナさん。行きましょう」
大きな部屋を二つ程経由して先に進んで行く。捕まえた人は大分奥の方に入れているらしい。真っ直ぐじゃなくて、分かれ道を二つ経由しているので、ローナさんの案内があって良かった。
そうして着いた場所は鉄格子によって遮られた牢屋だった。手作りだからなのか、粗雑な造りだけど非力な女性を閉じ込めるには十分だった。
「っ……」
心臓の鼓動が速くなるのを感じる。大分克服してきたはずだけど、こればかりは慣れない。予想していたから、少しはマシな方だけど。
「ねぇ」
ローナさんが軽く肩を叩いて顔を覗きこんでくる。それで我に返った私は、大きく深呼吸をする。
「すみません」
「いや、それよりも大丈夫なの?」
「はい。ちょっとトラウマがあるくらいですので。早く解放してあげましょう」
私はそう言って笑い、牢屋に近づいていく。そして、雷鎚ミョルニルを振るい、牢屋の扉を破壊する。それでも中の人達は反応しない。近づいてみると、栄養失調と身体の傷が原因で死にかけているという事が分かった。
私はすぐに散らばっている人達を担いで一箇所に集めていく。
「ちょ、ちょっと……安静にさせないと」
「大丈夫です。複数人を一気に治療します。密集させておいた方が効率が良いので」
こうして運んでいる間も、【生命維持】と雷鎚ミョルニルによる治療をしているので、運んでいる最中にすぐに死んでしまうという事はない。そこから両手を使って二人ずつ同時に治療を進めていく。
その間、ローナさんには外から盗賊の仲間が来ないか索敵して貰う。耳の良いローナさんならそっちから音がすれば分かるはずだから。
「ねぇ……」
治療に時間が掛かるからか、ローナさんが私に声を掛けてきた。
「はい」
「あなたは何者なの? どうしてそこまでするの?」
一応冒険者と言ってあったはずだけど、その冒険者が自主的に盗賊を倒しに来て、こうして治療もしているという事が違和感になっているのかもしれない。ギルド主導なら、私一人で来る訳もないし。
「盗賊が嫌いなんです」
「それは……身内が被害に遭ったとか?」
少し聞きにくそうにしながらもローナさんは訊いてきた。身内への被害を真っ先に聞いた理由は、私が捕まっている人達を見て動きが鈍ったように見えたからかな。実際には牢屋の方を見て鈍ったのだけど、その辺りは私の事情を知らないと分からない事だ。
ローナさんは、こうして私の事情を聞く事によって、私を信用して良いのか判断するつもりなのかもしれない。
そういう事情を抜いても、特に誤魔化す理由はなかった。
「確かに両親は殺されましたが、それだけではなく、私自身盗賊に捕まって八年間奴隷として坑道で働かせられたんです。一年くらい前に、この雷鎚ミョルニルを発掘して、同じく捕まっていた皆と一緒に盗賊を皆殺しにして脱出しました。そう言った経験があり、盗賊という存在を許せないんですよ」
「そうならざるを得ない理由があっても……?」
「それは選択出来る事です。そうなる事を最後に決めた以上、それは自分から望んでそうなったという事です。理由があれば盗賊になって人に危害を加えて良いという事にはなりません。ローナさんは、そんな理由があれば、こうして被害に遭った事を許せますか?」
「それは……ない……ごめんなさい」
ローナさんは申し訳なさそうな表情になりながら、頭を下げて謝罪していた。意地悪な問いではあったから、その辺りの謝罪かな。でも、それはお互い様だ。
「いえ、私こそ配慮に欠けました。ごめんなさい」
そこからはまた静寂がその場を支配するようになる。若干気まずい空気でもあるけど、治療を進めていく必要はあるので手は動かし続ける。ひとまず全員危ないところは脱出した。このまま治療を続ければ、安心出来るって感じだ。
(すぐに死ぬ事はなくなったけど、まだ栄養が足りてない。怪我もまだ完全に塞がっていないし、もう少し治療は続けないと街まで連れて行くのは厳しいかな)
ここで死なないとなっただけで、ここから街まで連れて行くのには、もう少し治療を進めた方が安心出来る。栄養も私が補充し続ければ、普通に食事などで摂取するよりも効率的に健康になれる。
後は、本当に時間の問題だった。そうだったのに。
「お、音がする! 外から何か入ってくる!」
「人ですか?」
「うん……人。二人……鎧を着てる」
この時点でアリサが来たわけじゃないという事が分かる。これが冒険者か騎士団なら良い。でも、そうじゃないとしたら。
「ローナさん、こっちに入ってください」
「わ、分かった……」
何が来ているか分からない以上、ローナさんには牢屋に入ってもらっていた方が安全だ。交代で外に出て、打ち出の小槌で入口に大きな岩を出現させて塞ぐ。
ローナさんは牢屋の中で相手の動きを探ってくれている。こっちに迫る謎の人物二人。味方であれば嬉しいけど、仮に敵なら。
雷鎚ミョルニルを握る手に嫌でも力が入る。




