表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/245

ゴミ80 閑話 ディバイド警備兵団

 領主様から命令を受けた私は、直ちに全部隊へ伝令を飛ばし、編成を急いだ。

 競技場が崩落? 観戦中の観客が生き埋め? 大音量の爆発音は聞こえてきたが、聞いただけでは理解できないほどの大規模な被害が出たようだ。

 兵士からの報告よりも早く情報を伝えてくれたのは、昨日から領主様の屋敷に来ていた客人だという。素晴らしい判断力と行動力だ。客人自身も腕を折っているというので、僧侶部隊の1人に回復魔法を掛けさせた。だが、骨折はすぐには治らない。回復魔法は自然治癒力を高めるもので、即効性という意味では、止血効果は高いが、治療効果は低いのだ。

 浅い切り傷なら数日で治り、深刻な筋肉痛でも1週間で治る。骨折は箇所や程度によって数ヶ月。それが自然治癒力だ。なぜそれだけ時間がかかるかといえば、体の中に「修理のための材料」が足りないからだ。食事によって材料は追加されるが、肉は肉、骨は骨で、使う材料の種類と量が違う。そのため、浅い切り傷のようにすぐに十分な量が補充できることもあれば、骨折のようになかなか十分な量を補充できないこともある。

 回復魔法で自然治癒力を高めても、材料が足りなければ怪我は治らない。しかも食事には様々な材料が含まれ、骨折を治したいからといってそれに必要な材料だけを食べるというわけにはいかない。当然1度に食べられる量には限界がある。そういうわけで、骨折に回復魔法をかけても、そうすぐには治らないのだ。

 とりあえず客人には休んでもらって、骨折からの回復に専念して貰う。


「……客人には、休んで貰って正解だったな。」


 競技場に到着して、最初に思ったことがそれだった。骨折した客人なんて、連れてきても邪魔になるだけだったな。

 途方もない瓦礫の山。この中から生き埋めになった人たちを探し出す? それなんて無理ゲー? 呆然としてしまう光景だ。

 だが、投げ出すことは許されない。なぜなら市民を守るのが我ら兵士の役目だからだ。


「団長、あれを見て下さい!」


 部下が指さす方向を見れば、瓦礫の山の近くに固まって休んでいる人たちがいた。よく見ると、負傷者が多く混じっている。


「まさか、自力で出てきたのか?」

「団長! あ、あれは……!」


 再び部下の声に振り向き、その視線を追うと、瓦礫の山の上を飛び回る無数の棒と袋に混じって、人間が1人、別の人間を背負って瓦礫の上を走っていた。それは奇妙な走り方だった。慎重に歩くような足取りでありながら、全体としては異様に素早いのだ。まるでシカが断崖絶壁を慎重に降りていくような、確かに慎重な動き方なのに移動速度はまるで全力疾走だ。


「あれは……大使殿じゃないか。

 なんという人間離れした動きだ……。」


 領主様からの伝達事項として、その存在は知っていた。念のため、顔も確認している。まさか、こんなところで見かけるとは。

 それにしても、謎の能力で瓦礫を吸い上げるように撤去しつつ、恐ろしい速度で救助作業を進めている。これが大使殿の実力か……騎士爵を賜るには、これほどの事ができなくてはならないのだろうか。目指していたんだけどなぁ……これは無理だわ。


「ええい、客人にばかり頼っておれぬ!

 僧侶部隊および第1班は場所の確保! それ以外は救助活動を開始!

 ディバイドの民はディバイドの兵が守るのだ! 急げ!」


 メンツを盾に部下たちを煽る。

 バタバタと兵士たちが動き、スペースが確保されて、機材が設営されていく。診察台、薬、包帯、縫合用の針と糸などだ。しかし、すでに救助された人たちの中には、意識のない重傷者までいるようだ。どこまで助けられるか……。

 同時に瓦礫の前では一斉に探知魔法が使われ、生存者多数との報告が飛んできた。私は即座に、大使殿に協力を求めることを決断した。正直、兵士のメンツなんてどうでもいい。市民を守るのが我らの存在意義なのだから、1人でも多く助けるために、使える手はすべて使う。


「大使殿! もうしばらくご協力願いたい! 生存者の場所が分かった!」

「もちろんだ! 場所を教えてくれ! それと掘り出した生存者を運んでくれ!」


 大使殿の能力で、埋まっている生存者の上から優先的に瓦礫を撤去して貰う。

 そしてすでに掘り起こされ、運び出すのが間に合わずに撤去作業の邪魔になっている生存者を、我ら兵士が人海戦術で運び出す。

 大きな瓦礫すら軽々と持ち上げて消してしまう大使殿に、瓦礫の撤去作業では敵わない。だが、1人ずつ背負って運んでいるのと比べれば、いくら大使殿の動きが素早いといっても、人海戦術に勝るほどではない。


「第2班、大使殿について探知作業急げ!

 それ以外は、発見済みの生存者を運べ! 動け(ムーブ)動け(ムーブ)!」


 兵士たちがワラワラと生存者を運び出し、設営された救護所へ。

 僧侶部隊が回復魔法をかけつつ、第1班が薬や包帯で応急処置をしていく。あまり丁寧なことをしている余裕はないから、多少は傷跡が残ったり、折れた骨が少しズレてくっついたりするかもしれないが、勘弁して貰うしかない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでくれてありがとうございます。
楽しんでいただけたら、幸いです。

「楽しめた」と思っていただけたら、上の☆☆☆☆☆をポチっと押していただきますと、作者が気も狂わんばかりに喜びます。
バンザ━━━┌(。A。┌ )┐━━━イ!!

「続きが気になる」と思っていただけたら、ブクマして追いかけていただけると、作者が喜びのあまり踊りだします。
ヽ(▽`)ノワーイ♪ヽ(´▽`)ノワーイ♪ヽ( ´▽)ノ
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ