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ゴミ78 達人、埋まる

 1月28日、午前11時。

 ディバイドの競技場で酒樽作り選手権大会を観戦していた俺たちは、突然の閃光と衝撃に襲われ、気づくと暗くて狭い場所に閉じ込められていた。


「いったい何が……?」


 ゴミ拾いLV6の効果で、自分とゴミ拾い用具の半径1km以内にあるゴミを探知できる。その効果で、自分が大量のゴミに埋もれた状態になっているのが分かった。ただし、この効果ではゴミがどこにあるかを探知できるのみで、どんなゴミなのかは分からない。

 だがゴミ拾いLV1の効果で、俺の視界にはゴミが光って見える。この光は周囲を照らすことはないが、暗闇でもゴミだけがハッキリ見えるわけで……だから俺には見えていた。レンガでできた壁やら床やらとおぼしき巨大な板の破片が、いくつも俺の上へのしかかっている。

 楕円形に散らばる大量のゴミは、長い方向に直径250m、短い方向に直径200mほどの範囲に散らばっている。全部がそうなのか確認はできないが、たぶん間違いないだろう。


「……競技場が崩壊したのか。」


 俺たちを襲った閃光と衝撃――たぶん、あれは爆発だった。

 爆発音は聞こえなかったが、それは当然だろう。衝撃波というのは音速より速い。衝撃に襲われて吹っ飛ばされた一瞬後で、たぶん爆発音を聞いたはずだが、そんなものに気づく余裕などなかった。


「とりあえず脱出するか……。」


 相手がゴミなら、俺はその重量を無視できる。

 よっこらしょと立ち上がり、上に乗っている瓦礫を押しのけるが、瓦礫の量が多すぎて外が見えない。仕方がないので近くの瓦礫をゴミ袋に収納していくと、間もなくアローが見つかった。


「おい、アロー。大丈夫か?」

「ああ、何とか……つっ……!」


 答えて体を起こそうとしたアローが、腕を押さえてうずくまる。


「どうした?」

「けっこう痛い……これは折れたかな……。」


 ちょっと待って腫れてきたら、折れているとみていいだろう。


「無理するなよ。他には? 大丈夫か?」

「ああ、他はどうもない。運が良かったな。」

「そうか、よかった。」


 本当に運がいいな。

 悪くすると、大きめの瓦礫に頭を直撃されていたかもしれない。


「……他の観客も埋まってるのか……?」


 生きている人間はゴミではないから探知できない。死んでいれば死体は生ゴミとして探知できるかもしれないが、できてもこの大量の瓦礫の中で、どれが人間の死体なのかは分からない。ゴミの種類は探知できないし。

 ただ、人間の死体は放置しても死体遺棄罪になる。火葬して埋葬するという通常の手順を考えると、魔物の死体と違ってゴミとしての扱いは受けていないから、人間だと死体でも探知できないかもしれない。だが、そうだとすると、冒険者とかが魔物に挑んで死んだ場合、その死体が回収されなかったら、どうなるのだろうか? 自然界での死体の扱いは、人間だろうが動物だろうが単なる物体。餌または生ゴミとして、食われるか、食い残し同然に放置されて朽ちるかだ。

 ゴミとして判定されるその基準がよく分からないままだから、こういうときに若干困るな。


「そうかもしれない。

 だとすると、浩尉。あまり無闇に収納するのは危険だ。」

「ああ、そうだな。」


 と答えたとたんに、周囲の瓦礫が崩れ落ちてきた。


「きゃあ!」

「危ない!」


 悲鳴を上げて身をかがめ、防御態勢をとるアロー。咄嗟に出てしまう生物としての反応だ。殴られそうになったら思わず目を閉じるというぐらい当たり前の行動だ。こういう本能的な反射行動を封じ込め、逆らって、戦術的に有利になるように意図して動くのが武術だ。ボクシング選手や空手家なんかは殴られる瞬間でも目を閉じないように訓練する。アローだって弓矢を使って戦う以上、そこには一定の武術的素養があるはずだ。だが、この狭く閉じ込められた状況では、崩落する瓦礫から身を守るのに武術なんて役に立たない。

 だから俺は、俺自身の行動がとても不思議だった。俺は咄嗟にアローを庇っていた。どうしてそんな事ができたのか分からない。画面に映った「カメラに向かって飛んでくるボール」の映像ですら、視聴者は咄嗟に反応してしまう。危険のないただの映像だと理解していても、反射というのは脳で考える工程を省いて即座に自動的に反応してしまうから、映像だろうと実物だろうと見たら反射行動が出てしまうものだ。つまり、瓦礫はゴミだから崩落しても俺にとっては無害だという理解は、俺が起こした行動の説明にならない。

 だが、とにかく俺はアローを庇い、俺自身が瓦礫を支えることでアローは助かった。


「……こうなるもんな。」


 無闇に収納するのは危険だ。まだ生きている観客たちが、崩落に巻き込まれて死ぬかもしれない。


「すまない。助かった。

 浩尉は、相手がゴミだと、すこぶる頼りになる奴だな。」

「そんな弱い者イジメみたいに言われても……。」


 中からではなく、外から、上から順に収納していかなくてはならない。そのためにはゴミ袋と用具を瓦礫の上へ移動させなくてはならないが、手元から瓦礫の上へ移動させるには隙間が足りない。折り重なった瓦礫の向こう側に隠れた隙間を探すことができないのだ。探知ではゴミの種類も形も分からないし、ゴミ拾い用具を動かしてもそこに「感触」とか「手応え」というのはないから、手探りで進むこともできでない。重量を無視できるから、瓦礫を押しのけて移動させるのは簡単だが、それをやるとどこで崩落が起きるか分からない。


「昨日のうちにゴミ処理場へ行っておいてよかった。」


 俺はディバイドのゴミ処理場で作業しているゴミ袋と棒を呼び戻し、競技場の瓦礫を上から順に片付けさせた。最初から外にある道具を使えばいいのだ。

 スピードアップのために、メイゴーヤやニアベイ、キオートやダイハーンで作業中の道具も、ゴミ袋を使ったワープ――どのゴミ袋に収納したゴミでも、別の任意のゴミ袋から取り出せる――の裏技で呼び寄せ、手数を増やして作業を進める。

 だが瓦礫の量が多くて、観客全員を助けるには手数が足りない。


「まずは俺たちの脱出を優先するか。」


 そのあと応援を呼べばいい。

 ほどなく俺たちは脱出に成功した。

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