ゴミ244 達人、ゴミを語る
12月30日、ビッドリー。
「奪う者」が俺たちの攻撃エネルギーを「奪って」集めて放った必殺の一撃を、俺は火ばさみでつかんで投げ返した。
大爆発が起きて、俺はすぐさま「自動収集」を起動し、その爆発の威力を収納した。
「ぐ……が……! こ……この……私が……!」
爆炎が消えて、見えた「奪う者」の姿は、もう助かりようがないほどボロボロだった。
ほとんど「肉片」と言っていいような有様で、4分の1ぐらいしか体が残っていない。
この状態でしゃべれるのが不思議でならない。
「無価値なゴミだと、そう言ったな?」
「奪う者」は、身の上話とともに、この国を「どうでもいい無価値なゴミ」と言った。「この国も、配下の魔王や悪人たちも、そして君たちも、私にとってはどうでもいい無価値なゴミに過ぎない」と。
「だが、ゴミとは、『無価値なもの』じゃあない。」
以前は俺も、ゴミとは『無価値なもの』だと思っていた。
何度か川の水を持ち上げたことがあるが、川の水がゴミと同じように持ち上がる理由が分からなかったから、ゴミ=無価値なものと考えたのだ。
だが、魔法をつかんで投げ返せるというのは、ゴミ=無価値なものという定義に合わない。魔法には効果を発揮する、その影響による恩恵を受ける人物がいるわけで、決して無価値ではないからだ。
そもそも、ゴミとして回収できたものも、スキルによって新品の素材になり、猫耳商会のリサイクル事業を使って「商品」として販売されている。今は俺のスキルでリサイクルしているが、いずれは地球のようにスキルなんか関係なくリサイクルできるようになるだろう。すなわち、ゴミにも金銭的な「価値がある」のだ。
では、ゴミとは何か。俺はそれを、こう定義した。スキルの効果との齟齬もないはずだ。
「ゴミとは、『誰の所有権も及ばないもの』だ。」
だから、発射した魔法や矢は、ゴミとしてつかめる。発射したあとは、当たろうが外れようが回収しないから。回収しない、放置する、という事は、すなわち所有権を放棄するということだ。
川の水を持ち上げられるのも、川の水に所有権者がいないから。よその領地から流れ込んで、よその領地へ流れ出ていく川の水には、領主だろうと所有権を主張できない。それをやってしまうと、川が氾濫したときなどに「上流の領主の所有物なのだから責任とって回収しろ」と言われてしまう。
そして水筒の水や地面の土は、スキルの対象外。これは「所有権者がいるから」だ。その所有権者が所有権を放棄すれば、たとえば掘り出した石などはゴミとして扱える。
言葉を教えてくれた大工を助けた時、材木をゴミとして持ち上げる事ができた。あれは、倒れていたら材木に商品価値がなくなっていたからだ。倒れそうになっただけで、まだ商品価値を失ったわけではなかったが、倒れるのを止める方法がなかった大工たちにとって、もはやそれは商品価値を失ったも同然だった。もちろん、あの瞬間大工たちの頭にあったのは、材木にしがみついている仲間のことだったと思うが、それはゴミを論じるにあたって関係ないので、ちょっとわきに置いておく。
「同じ日本人なら、知っているはずだ。リサイクルというものがある。ゴミとは、資源でもあるのだ。無価値ではない。
従って、あんたが計画しているような侵略や民族浄化は責められるべき行為だ。価値ある財産を奪おうとする行為だ。これまであんたの配下がやってきたテロ行為も同様だな。責められて当然だ。
そういう意味では、報復だけで終わっていれば話は違っていた。報復というのは、奪われたものを奪い返そうとする行為だからな。」
奪い返そうとしているのが財産でも尊厳でもいい。この世界に拉致された佐藤樹には、その関係者から尊厳を奪い返す権利がある。日本だったら、それは慰謝料とか損害賠償とかで金銭的に解決するものだが、5000年前の王宮がおこなった佐藤樹に対する扱いを考えれば、実力行使による自己救済というのも責められるべきではないだろう。
実力行使で自力救済なんて日本の法律では禁止されている行為だが、佐藤樹の尊厳を奪ったのは、当時の王宮――すなわち法律そのものだった。ならば自らの行為を合法とした王宮は、佐藤樹から同じことをやり返されても文句は言えない。
「しかし、5000年もたって、王宮どころか全国民が代替わりしている今、もう当時のことを理由に報復が認められるべきではないだろう。いくら何でも、今の人たちに5000年前の先祖の責任など問えない。」
普通に考えて、そんな遠い祖先の行為など、今の末裔には関係ないことだ。
世の中には、親が犯罪者だからといって子供まで犯罪者のように見る風潮が発生することがある。だが、それは「あの親に育てられたなら、同じような価値観で行動するのでは?」という不安と疑念からくるものだ。
5000年も前の、顔も見たことがない祖先の価値観など、受け継いでいるわけがない。日本でいったら、縄文時代中期の先祖のことで責任を問われるようなものだ。
「……ふー……。」
「奪う者」はもがくのをやめた。
「……分かって……いたさ……。
だが……止まらない……こともある……。
……私は……私の……心は……もう……壊れて……しまっ……の……から……。」
体が灰になっていき、「奪う者」は息絶えた。
その顔は、どこか満足そう、あるいは安堵したように見えた。ようやく止まれた、という事か。佐藤樹の日本人としての意識が、価値観が、まだどこかに残っていたのかもしれない。
「安らかに眠れ。もう誰もお前を害さない。」




