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ゴミ209 達人、投げる

 9月30日、ザンドリフ。

 この都市に潜伏していた「染める者」は、とある研究所を乗っ取って生物兵器を量産していた。出荷直前でギリギリ間に合った格好だ。

 可能なら拘束して尋問を――と思ったが、「染める者」は液体に変身した。あれでは縛れない。

「変わる者」も液体だったが、その体は水でできていた。一方「染める者」の肉体を構成する液体は、水ではなかった。墨汁みたいな何かだ。「染める者」というだけあって、無色透明の水みたいに「染まる側」にはならないということだろう。

 とにかく、縛れないのなら、あとは倒すだけだ。


「機能拡張」――このスキルを使うと、ゴミ袋やゴミ箱は、絶対にゴミを納める。ゴミ限定のアイテムボックス。いや、ゴミ袋やゴミ箱が必要だから、魔法のカバンか。これまで15の都市を巡って、ゴミ処理場からゴミを収納してきているので、すでにものすごい量のゴミが収納されている。

「自動分別」――収納したゴミは、素材別に自動的に分類される。カフェオレをコーヒーと牛乳に分けるのは無理だが、接着されている程度なら分離できる。これで「鉄」または「さびた鉄」をひとまとめに扱える。

「素材合成」――収納しているゴミ(分別済み)から、指定する素材を新品の状態にして取り出すことができる。俺はこれを使って鉄材を取り出した。

 あとはステータスの高さに任せて、力ずくでむしり取る。鉄の塊を素手でむしるには、100トン以上の力が必要だ。しかし今の俺のステータスなら、それができる。

 そのステータスは、人間に比べて2000倍以上。むしり取った鉄の塊が野球のボールほどの大きさなら、全力投球すれば戦車の主砲の330億倍とかいう意味の分からない破壊力が出てしまう。


「ッだらァッ!」


 投げた。

 全力で。

 音速などあっさり超えている。20万㎞/h以上。マッハ167だ。

 マグニチュード7.8の地震と同じぐらいのエネルギーが、わずか直径7㎝ほどの玉に込められる。

 防御は不可能。逃げる暇などない。

 命中。

「染める者」は体が液体なので、「変わる者」と同じく物理攻撃は無効だろう。水面を叩いたのと同じように、ただ変形して、結局は元に戻る。そもそも防御する必要がない。逃げる必要もない。そのはずだ、「染める者」にとっては。

 だが、それが命取り。「変わる者」みたいに巨大化することもできず、人間サイズのまま俺の全力投球を食らえば、一瞬ですべて蒸発する。

 鉄の玉が「染める者」の体表を圧迫――液体の肉体に沈むよりも、粘性や表面張力を固体のように扱って押しのける。右足が沈む前に左足を出せば水面を走れるのと同じ理屈。ドボンと沈む暇を与えず、ドバッと吹き飛ばす。着弾の衝撃で「染める者」の液化した肉体が飛び散った。

 同時に衝撃力の一部が熱エネルギーに変換され、「染める者」の肉体を蒸発させ、周囲の空気を膨張させる。砕け散ったことで表面積が増え、蒸発は瞬時に完了するほど加速された。爆発だ。

 即座に「自動収集」――ゴミ箱やゴミ袋から半径1㎞以内のゴミを自動的に収納する。飛び散ったしぶきや蒸気は、「染める者」の体から切り離されたゴミとして扱える。髪や爪を切ったのと同じように。


 ドパアアアアアアアアアン!


 音だけが、何もなくなった場所に後から響いた。

 そして同時に、灰が舞い散った。魔族勢力が死ぬときに必ずこの灰が舞う。死体が残らないのだ。人間の死体は残るが、存在進化1回の悪人でも灰になるので、もしかすると存在進化と引き換えに起きる現象なのかもしれない。だとすると、達人の俺やハイエルフのアローも、死んだら灰になるのだろう。


「よし。絶好調。」

「もう何回か見ているとはいえ、相変わらず無茶苦茶な威力だな……。」


 アローが呆れたようにため息をつく。


「誉め言葉と受け取っておこう。」

「狙撃兵の立場……。」

「足止めは助かったぞ。俺には電撃の矢の真似はできないからな。」

「電撃の魔道具でも仕入れたら、同じことができるだろうに。」

「バカ言え。魔道具なんか投げたら、手から離れる前に壊れるわ。」


 豆腐を投げるがごとし。手を離れる前にバラバラになってしまう。

 だからこそ、多少変形しても問題ない単一素材で、なおかつそれなりに強度がある鉄。これしか投げられない。チタンがもっと一般的に利用されていたら、ゴミとして出されていただろうから、そっちでも……いや、重いほうが威力があるから、やっぱり鉄のほうがいいか。チタンは軽い。

 タングステンなら鉄より2倍ぐらい重くてアリだが、劣化ウラン弾とかは被爆が怖いしな……って、どっちも手に入らないんだが。

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