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第一話 (Cパート)

 その変身を間近で見れた少年は、出現した本物の赤き戦士を前にして涙や涎を吹きこぼさんばかりに感動していた。鼻血も出た。


「よし、戦車出してとっととケリつけるか」

「!!!」


 その発言に少年の気持ちがMAXに高ぶる。遂に本物の戦車戦隊の扱う本物の戦車が目の前に現れるのだ! それは胸が躍らないわけにはいかない。耳血くらいいっちゃったかもしれない。


 戦車戦隊のレッドセンシャーといえば、独軍系の車両を使って当時は戦っていた。だからパンサーとかタイガーとかその辺りの強戦車が出てくるのかと期待が高まる。


(それとも当時は使わなかった現用戦車のレオパルドとか)


 少年のときめきは加速して、いやがおうにも期待は強まる。


「出でよ、わが鋼鉄の戦友!」


 戦車召喚用のポーズを取りながらレッドセンシャーとなった大吾が叫ぶ。そうして時空が歪み、その裂け目からまろび出るように一台の履帯車両が現れた。


「……――?」


 その戦車の登場に少年の目が点になる。


 確かにそれは独車両だった。しかしそのあまりにもコンパクトにまとまりすぎた車体は――


「一号戦車ーっ!?」


 一号戦車。独陸軍が第一次世界大戦後、初めて量産した戦車である。


 訓練および生産技術の習得のための軽量簡易な軽戦車として開発されたが、本来の実戦用戦車である主力戦車三号、支援戦車四号の数が揃わず、第二次世界大戦開戦直後の波蘭土侵攻作戦等、二号戦車と共に実戦に投入された独軍の主力戦車の一つである。が、しかし


「なんでそんな激弱戦車なんですか!? しかもよりによってA型!?」


 少年はその美しさと無骨さが共存する独車両特有の優美な「小さすぎる」車体に思わず全力で突っ込んでしまった。


「むっ、莫迦にスンナよ! 独陸軍の初期電撃戦を成功させたのは、この機関銃二丁しか積んでない訓練用の一号と20ミリ砲しか積んでない偵察用の二号戦車なんだぞ!」

「それって自分でもさり気に莫迦にしてませんか!?」

「ウルセェ!」


 大吾=レッドは少年に言い返しながら一号戦車の車体を上り、砲塔のハッチを開いてそこに上半身だけ出した状態で収まった。平時に車体を進ませる車長の位置だ。


「行くぞT34男!」

「ボルガー!」

「唸れ、正義の業火を受けてみよ! 連装7.92ミリ機関銃!」


 正義で業火というのが間違っているよう気もするが、とにかく砲塔に二門据えられた銃口が火を噴いた。T34男にほぼ全弾が命中する。しかし胴体正面(本来の車体下面)やキャタピラに着弾しても全然堪えた様子がない。


「さすが戦闘員が元でも怪人は怪人、全然効かねえなぁ」


 主砲が機関銃二門の戦車を呼び出した時点で全てが間違っているのではないのかと少年も思うのだが、それは心中で留めて口には出さないでおく。


 少年の密かな思いなど全く知らないレッド=大吾は、車体側面についている斧に手を伸ばすとそれを掴んで取った。大体の戦車には片刃斧が装備されているが、絡まったワイヤーやチェーンを切断したり、木や枝を切って簡易迷彩を作ったりと何かと使える便利な道具の一つである。


「くらえ、アックスシュート!」


 レッドはそれをぶん投げた。まるで回転のこぎりのように飛んでいった斧は、相手のキャタピラ部分に当たったが、車載用の斧程度の強度では履帯のつなぎ目を切ることすら叶わない。ようするに全然効いてない。


「しょうがねぇなあ」


 レッドは今度は車体側面についているジャッキに手を伸ばすとそれを掴んで取った。ジャッキとは応急修理時に車体を持ち上げる工具である。自動車修理には欠かせないものであり、大概の戦車にも標準装備となっている。


「くらえ、ジャッキシュート!」


 レッドはそれもぶん投げた。それは相手の頭に直撃し、ゴーンっとなかなか良い音がした。しかしこれも効いているような気配がない。


「やっぱりきかねえか」

「……なんか回を追うごとに武器が適当になってませんか?」

「斧よりジャッキの方が破壊力あるぞ、重いから」

「ていうかどっちとも投擲……」

「大概の攻撃は投擲か射撃だ」

「ボルガー!」


 そうやってレッドと少年が言い合いしていると、今度は怪人の方が攻撃の姿勢を見せる。


 怪人が横を向くと、背中に背負っている砲塔が天を向いていた砲身を下へと旋回させて、その砲口をレッドたちのいる場所へと向けた。そしてすかさず発砲。


「む」


 レッド一人なら避けるのは容易いだろう。しかし今ここには自分以外に人間がいる。


「こいつはイエローの得意技なんだがなぁ」


 レッドはそうぼやきながら、しかして砲弾が発射されると同時に一号戦車を走らせ、少年を守るように攻撃の矢面に出た。そして右手をかざす。


「センシャーシールド!」


 そう言いながら発生させた防御磁場に砲弾が直撃し爆発が起こる。


「うわぁっ!?」


 少年が叫ぶ。防御磁場への直撃の爆光に包まれて一瞬何も見えなくなる。


「大吾さん!」

「だいじょうぶだ」


 少年の心配の声にレッドが応えた。光が薄れると殆ど無事な姿でレッドと一号戦車が現れた。


「イエローほどじゃねえが、この程度の攻撃、俺だって防げる」

「ボルガー!」


 殆ど無傷な相手の姿にT34男が悔しげな叫びを上げる。


 しかしこのままでは戦車戦隊側の攻撃は殆ど通じず、鉄車帝国側の攻撃は殆どが弾かれるという、どうにもならない状態に突入したことになる。


「このままいけると思ったんだが、しょうがねえか」


 半ば諦めたようにレッドが言いながら、新たな攻撃サインを出した。


「一号戦車変身!」


 レッドが雄々しいポーズを決めながら叫ぶ。


 戦車戦隊の力の一つとして、呼び出した戦車にバリエーションが存在するならば、そのバリエーションの車体へと戦車を変身させることができるというのがある。


 光に包まれた一号戦車の砲塔が消失すると、その上に15センチ重歩兵砲33年型が突如として出現し、それがそのまま砲塔の無くなった車体上に乗っかる。そして車体と歩兵砲を覆うようにコの字型の装甲が前面に被せられた。車体後部が光を放出するように粒子状になり、今まで四輪だった転輪が五つに増え、地面に設置していた最後部の誘導輪が上へと持ち上がった。


 その変身の間どこに行っていたのかレッドの姿がいきなり現れ、増加装甲内の車長の位置へと降り立つ。


「変身完了! 一号自走重歩兵砲!」


 レッドの雄叫びと共に戦車の変身が完了する。


 一号自走重歩兵砲とは本来の主力戦車である三号、四号の配備が進み、不要になった一号戦車B型を用いて15cm重歩兵砲を搭載した車両だ。仏国侵攻に合わせて38輌の一号B型がこの自走砲へと改装された。


 レッドは車体の上に載っている重歩兵砲の車輪の片方を外すとそれを構えた。一号自走重歩兵砲の特長として、その車体の上に15センチ重歩兵砲を何も手を加えずそのまんま載っけただけと言う豪快な設計――設計というのもおこがましいが――というのがある。これに箱型の増加装甲をつけただけで「自走重歩兵砲」と言いきってしまう辺りに、独国民のファンキーぶりがわかるだろう。車体から降ろして単体でも運用できるというような現場への配慮だったかも知れない。1.75トンもある歩兵砲を現地でどうやって降ろすんだって? 知らん。


「33式ビッグホイール!」


 そしてレッドは相手に向かってそれを外してぶん投げるという、さらにファンキーな攻撃手段に出た。


「15センチ砲撃たないんですか!?」


 少年の突っ込みと共に33式ビッグホイール――砲架移動用車輪は敵に向かって回転しながら飛んでいくが、やはりというかなんというか直撃しても大したダメージは与えていなかった。


「やはり効かないか」


 レッドはそう言いながら投げずに残っていたジャッキの一つを本来の用途で使って、失われた車輪の代わりに傾いだ砲の姿勢を戻していた。そんなことをするならジャッキの方を投げていれば……と、その時点で論争が間違っているな。


「しょうがねぇ、これで決めるぜ!」


 レッドはなんだか必殺技の前段階っぽいカッコイイポーズを決めると、右手をスッと相手に向けて突き出した。


「フィフティーンセンチバレットシュート!」


 レッドの咆哮と共に、一号自走重歩兵砲の最大の武器も咆哮した。


 なんだかカッコよさ気な必殺技名がついているが、要は15センチ砲弾発射である。そして何の問題も無く直撃。


「ボルガーっ!?」


 T34男が断末魔の悲鳴を上げてくず折れる。


 いかに怪人とはいえ直径15センチもある砲弾の直撃を受けて無事のわけがない。まして、戦闘員から変身した能力の劣る怪人である。


「鉄車帝国に栄光あれー! クロウラー!」


 お決まりの爆死台詞を残して吹っ飛んだ。というか喋れたんだな。


「……死んじゃったんですか?」


 戦車怪人の残した爆風にけほけほむせながら少年が聞く。


「あれを見てみな」


 さっさと変身解除と一号自走重歩兵砲を送り返すのをしながら、レッド=大吾は答えた。親指をT34男が爆死して果てた方へと向ける。


「……あ!」


 煙のはれたそこには、うつ伏せに倒れる元戦闘員の姿が。ちなみに頭はアフロだ。


「ああやって帝国崩壊後になってからやってくる戦闘員が怪人になるヤツは、爆発すると今までの悪さをしてた記憶が全部すっ飛んで、自動的に真人間に改正されるみたいなんだよな。爆発から人体を守る防御フィールドとかも考えたら凄い技術だよまったく」


 大吾はそう言いながら倒れ伏すはぐれ戦闘員の下へと歩いていく。


「おい、だいじょうぶか?」


 大吾がそう言うと元戦闘員はゆっくりと顔を上げた。


「……あ、ぁ……ここは?」


 記憶が混乱しているらしい。今まで自分がどこにいて何をやっていたのか全然思い出せない様子。


「悪い夢でも見てたんじゃねえのか?」


 大吾がそう言うと


「夢……そうか、夢か」


 なんだか納得したように言うと元戦闘員は身を起こした。ちなみに爆発に巻き込まれ(と言うか自分自身が爆発しているのだが)ているので、着ていた全身タイツの殆どは吹っ飛んでいる。一応大事なところは隠すように股間の辺りに布切れが「何故か」残っているが、完全に変質者の装いである。頭アフロだし。


「夢……つらくて、きつくて、痛くて……でも」


 半裸の男がそう言いながら立ち上がり、空を見上げた。


「なんだか清々しい夢だった」


 雲ひとつ無く晴れ渡った空のように、今の彼の心の中も真っ青に澄んでいるのだろう。


「そうか清々しいか、そりゃいい」


 大吾もそれを聞いて満足そうに笑うと、ポケットからくしゃくしゃになった紙切れを出した。


「ほら持ってけ。その格好じゃあ人前で満足に歩けやしねえ」


 大吾がそういって元戦闘員に渡したのは5000と描かれた紙幣だった。


「良いのか?」

「あんたの清々しい門出の祝いだよ」

「すまん、恩にきる」

「この先に服も売ってるリサイクルショップがある。それだけありゃあ一通り揃うだろう」

「なにからなにまですまんな。なんと礼を言っていいか」

「礼をしたいんなら、もう二度とここに来るな。俺は静かに暮らしたい」

「……わかった」


 彼も少しずつ何かを思い出してきたのだろう。その言葉に従うのが一番の贖罪だと感じた元戦闘員は、それ以上はなにも告げず去っていった。


「ったく、今月分のメシ代がなくなっちまったぜ。またせびってこねえとな」


 大吾はそうブツブツ言いながら寝床にしているゴザへと戻っていく。


「……大吾さん」


 その後姿を呆然と見送っていた少年は余りのことの連続に、感動で大粒の涙を零していた。


「大吾さーん!」


 寝床へ戻ろうとする大吾の隣へ縋るように少年が駆けた。


「やっぱり大吾さん凄いです! 格好良いです! 弟子にして下さい!」

「お断りだ!」


 号泣しながらの少年の願いを、意図も簡単に切って捨てる大吾。


「お前は別に戦車戦隊になりたいんじゃなくて、戦車乗りになりたいんだろ? だったら俺なんかよりもよっぽど先生向きなヤツはいっぱいいるぞ?」

「でも! でも!」

「あーうるさいうるさい、俺は疲れた、もう寝る!」


 大吾はゴザの上に戻ると、そのままゴロリと横になって少年に背を向けた。


「だったら良いって言うまでここで大吾さんのことを静かに視姦してます」


 少年の余りの言葉に大吾は思わず「ぶっ!?」と吹き出してしまう。


「なんだそりゃ!?」

「見取り稽古です!」

「……寝てる俺なんか見てるより、元戦車乗りだった俳優が作った神風って舞台でも見に行った方がよっぽど勉強になるんじゃねえのか?」


 大吾はそこまで言うと、もうこれ以上相手にしても埒が明かんと、目を瞑って静かになった。いくらもしないうちにぐーぐーと寝息が聞こえてきた。戦車戦隊の一人として世界を征服しようとする組織と一年もの間戦ってきた男なのである。この程度の衆人監視では、それだけの戦いを潜り抜けてきた彼の肝っ玉はびくともしないだろう。


「大吾さん、僕……諦めませんから」


 戦い疲れて眠る戦士の背中に一礼すると、少年はかつての英雄が暮らす公園を後にした。


「また来ます!」



【第一話 終】

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