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第一話 (Bパート)

 その初接触からなんやかんやあり、一年ほど戦いが続いて、最後は超巨大ドリル陸上戦艦型移動要塞であるデスクロウラー本拠地とデスクロウラー総帥を一挙に倒すことによって戦いは終結を迎えた。


 しかしてこの国全土を巻き込んだ戦いの当事者とその対抗組織は結局ほとんどが謎のまま終わっている。


 最初は戦車戦隊はこの国が極秘裏に用意していた秘密組織なのではないかと思われていたが、この国の政府はあっさりとそれを否定。


 戦車戦隊も超巨大輸送空母を拠点としていたため、その所在も知れず、数少ない資料により概要が大まかに知られるようになったのは最終決戦の後である。


 さて、そんな第三次世界大戦級の戦いが終わった後、その戦いに参加していた隊員はその後どうなったのか。


 戦車妖精と呼ばれるものに、その力を見出されていきなり戦車戦隊に選ばれたものだから、いざ戦いが終わってみると、その後はどうして良いのかわからなくなってしまった――というのがその実情である。


 と言うわけで、戦いの最中は熱血漢でならしたレッドセンシャーこと大鉄輪大吾は こんな怠惰な生活を送っていたのである。


 戦いの最中は一応自分たちの存在は秘匿するように戦車戦隊は戦っていた。こういった特殊な対応をしなければならない組織は情報を公開しても利点にならないほうが大きいからだ。しかしそれでも町中での戦闘が発生した際には、偶然戦いの場に居合わせた者が動画の撮影をしたり、戦いが長引けばマスコミの撮影班も駆けつけたりしていたので、その正体は意外に知られたものとなっていた。


 だから彼らの顔や存在は戦いの後半には良く知られたものとなり、鉄車帝国との戦いが終わった後に、「一応」この世界を救った英雄である彼らの姿を見ようと一時はひっきりなしにこの場所に様々な人が現れた。他のメンバーはその後の所在がようとして知れないが、彼だけはこの公園にいるのである。


 しかしこんな格好で呆けている彼の姿を目撃すると「見なかったことにしよう」と言う態で、結局みんな離れていくのであった。「あれは良く似た別人なんだ、多分!」とか「やっぱり本物のレッド様は二次元の中にしかいないのだわ!」「やっぱり青×赤よね!」「緑×青も捨てがたいわ!」など、平日の日中から公園でごろごろしているあの青年をダイセンシャーのレッドだとは認めたくないと、みんながみんな涙ながらに逃げ帰っていくのである。


 なので今となってはここへやってくるのは、戦車戦隊が殲滅した鉄車帝国の生き残りの戦闘員くらいのものなのだが、本日は戦車に憧れる少年がやってきたと言うわけらしい。


 久しぶりに面倒くさいヤツが来たなーと、大吾は心の中でぼやいた。


 ここは東京湾岸の一つにある埋立地。


 この場所には大規模な火力発電施設があったのだが、最後の戦いの時にここが戦場となり、ほぼ全ての施設が爆発炎上するという悲惨な結果となった。


 この公園はその発電施設に隣接して作られていたものなのだが、最後の戦いの際にも奇跡的にほぼ無傷の状態で残った。元レッドセンシャー大鉄輪大吾はそんな場所で時を過ごしていた。


「ぼ、僕、戦車が大好きで、大きくなったら陸上自衛隊に入って戦車乗りになりたいと思ってたんです!」


 少年が大吾を訪ねてここへ来た理由を語った。


「へぇ」


 そういえば、以前はこの少年と同じようなことを言ってくるやつがいっぱいいたなぁと、何の気なしに大吾は思った。


「そんな時、ダイセンシャーのみなさんが登場して、この国を救ってくれて、だから僕、どうしても会いたくて、憧れなんです!」

「憧れねぇ……」


 頭をバリバリかきながら興味なさ気に大吾が答える。


「じゃあ俺の相手なんかしてないで、戦車の乗り方の本とか読んでりゃ良いじゃん。今なら本以外にもネットとかにもいっぱいアップされてるだろ、暇人がブログに書いて」

「そ、そうですけどっ、でもそれでも大吾さんたちが一番戦車の乗り方に詳しいわけじゃないですか戦車戦隊なんですから! それにブログに戦車の乗り方書いてる人って殆どが実際に乗ったこともない憶測だけですよ!」


 少年はどうしても本物の真実が知りたいと熱い熱意(重複)を憧れの人に向けるのだが


「俺たちは戦車の扱いには長けているが、戦車の乗り方に長けているワケじゃない」

「……え?」


 あまりにもあっさりと怜悧に返されてしまった。


「おまえさぁ、将来戦車乗りにないたいっつーんなら、実戦配備された戦車は最低でも二人乗りだって知ってるよな? 一人で動かせる戦車なんて瑞典のあの謎戦車しかないっつーことも」

「……Sタンク、ですよね」


 少年はすこしためらいながらそれでも澱みなく答えた。


 Strv.103――通称Sタンクは、主砲が車体に固定装備された瑞典陸軍が保有していた主力戦車の一種である。砲塔を持たない戦車だ。


「それって自走砲とか駆逐戦車って言うんじゃないのか?」などの突っ込みはあるのだが「主力戦車である」と瑞典軍は語っているのでまぁ主力戦車――MBTメインバトルタンクなのだろう。


 瑞典は外国に攻め込む気が全くない。そして兵員も武器も豊富な露州連邦(露国)と違い、戦車は貴重な戦力であり、乗員はもっと大切な宝である。それをそのまま具現化させたSタンクはその待ち伏せ戦に特化した特異な形状がいつも話題に上るが、注目すべきはその操作方法である。


 Sタンクの運用は車長、操縦士、通信士の三名によって行われる。そしてこの全員の席に全員分の操縦装置が設けられている。つまり操縦装置が三つ。通信士席は後ろを向いた配置なのだが、操縦装置も後ろ向きに付けられている。後退用だからだ。そして射撃装置は車長席と操縦士席の二つに付いている。


 通常戦闘に入った場合、操縦士は射撃手もかねる。これは車長が戦闘指揮に専念するためだ。


 そうして砲弾は自動装填であるのだから、つまり、車長か操縦手のどちらかがいれば一人で操縦できるということになる。


 しかしこれは車体に砲が固定されていると言う特殊な車体構造だから可能なのであって、付け加えるならば、戦場においては射撃も操縦も戦闘指揮も通信も一人でこなしている戦車は何の役にも立たない。いや、戦車のそもそもの存在理由が「歩兵の盾となる」ことなのだから基本的な役目は全うできるが、それでも通常運用から逸脱した特異な対応でしかないだろう。


「俺たちは一人ひとりが一台の戦車を扱っていた。Sタンクみたいな緊急事態での一人乗りじゃない。いつでも一人だ」


 そして彼らは戦車戦隊という超人の集団。人智を超えた力で戦車を操っていた彼らに、一般法則は通用しない。


「まぁどういう理由かいまだに分らんが敵の策略で戦車が言うことを訊かなくなった時には、五人全員が一つの戦車に乗って手動で動かしたことはあるが、それでも90式や10式を動かしてる本物の戦車乗りに比べたらヘタクソだろ」

「……でも、それでも!」

「クロウラー!」


 諦めきれない少年の想いを無情にも切り裂くように、どこかで聞いたことのある台詞が公園に轟いた。


「あ~、また一人おいでなすったか」


 そこには全身タイツに覆面と言う怪しさ120パーセントの男が。


「デスクロウラー戦闘員!?」


 少年が驚いて声を上げる。


「壊滅したんじゃないんですか!?」


 少年の驚愕は続く。


 そう、目の前にいる大鉄輪大吾がそのメンバーの一人として戦ったダイセンシャーの活躍により、世界征服を野望に秘めた悪の組織は一掃されたのではなかったのか?


「まぁ前進基地的な隠れ家とかアジトとかあっただろうからなぁ。そこに駐屯してたヤツらとか殲滅しきれなくてまだ残ってるんだよ。そしてそんなヤツラが俺のところにやってくる。よせば良いのに」


 ぼさぼさの髪を更にぼさぼさにするように頭をかきながら、大吾がゆらりと立ち上がった。


「俺たちを倒せばデスクロウラーの再興が叶うと信じて疑わないんだよ、な?」


 大吾がそう言うと「クロウラー!」と同意するようにはぐれ戦闘員が答えた。


「まぁそういう想いの拠り所を作っておかなきゃ生きていけないってのもあるけどな」


 大吾が苦笑気味に笑う。そしてその眼差しが真剣なものへと変わる。


「そして、自分だって華々しく散っていきたいって願うのも、残されちまった者の矜持ってやつだ」


 その大吾の言葉に「クロウラー!」と答えながら、戦闘員は懐(全身タイツのどの辺りが懐なのか不明だが)から懐中電灯のような形をした小型機械を出した。


 そしてそれを公園の向こうで停車している一台のクローラーダンプに向けた。クローラーダンプと言うものを知らない方に軽く説明すると、通常はタイヤで走るダンプの足回りを履帯移動式にしたものである。不整地での運用に長けたダンプ、ということだ。


「クロウラー!」


 撤去作業が続く火力発電所後の一角に置いてあったそのクローラーダンプに戦闘員が小型機械を向けると、そこから謎の光線が放射された。それはクローラーダンプに命中すると、その車体が粒子状に分解される。光の微粒子となった車体はそのまま小型機械に吸い込まれ次の瞬間猛烈な光を発した。


 そして光が収まった其処には一人の怪人が立っていた。


「……戦車怪人」


 少年が息を呑む。


「ボルガー! ボルガー!」


 怪人となった戦闘員が怪人としての雄叫びを上げた。


 戦車の車体が後部を下にして立ち上がったような状態に、キャタピラの両脇から長い腕が生え、車体後部だった下面にはほとんど足首しかないような両脚、車体前面だった上面には頭部が載っている。


『怪奇、T34男』


 どこからともなく渋い声が聞こえた。この怪人は露国の主力戦車の一種であったT34を元にした怪人であるらしい。そしてその声はT34男が直接言ったのか、どこかに隠れたナレーターがアナウンスしてくれているのか不明だが、デスクロウラーとの本戦時代からこんななので、今更誰も突っ込まない。


 怪人T34男となったはぐれ戦闘員が大吾を睨み付ける。


 戦車であるT34がそのまま立ち上がったのなら物凄い大きさ(車体長6.1メートル)だが、相手は二メートルくらいの大きさに収まっている。三分の一スケールくらいだろうか。そしてそうやって怪人形態になると縮小されるのも鉄車帝国怪人の特長だ。


「あ~、また罪のない重機車両が一つ犠牲になっちまったか」


 いったいどの当たりが罪のないなのか不明だが、とにかく重機車両の一台が生贄となって新たな怪人が創生されてしまった。


 大吾はやれやれと言いながら上着のポケットから小さな機械を出した。


「まだ持ってるんですねそれ!」


 それがダイセンシャーへの変身アイテムだと気づいた少年が再び声を上げる。


「だって捨てるわけにも行かないし」


 変身アイテムの各所をカチカチ動かして動作チェックしながら大吾が答える。


「色々諸々考えたら、俺たちがそのまま持ってるのが一番の安全な保管方法なんだよ」


 どこか国営の保管施設に預けるのも考えたが、そこに誰かが侵入して、そのアイテムを手に入れた者が、もし間違ってダイセンシャーに変身できてしまったら大変なことになるのは分りきったことなので、それが一番の判断なのは確かだ。


「変身!」


 チェックが終わった変身アイテムをかざすと、大吾が雄叫びを上げた。アイテムの出す光に包まれた大吾の服が消えバトルスーツに変わりヘルメットが被せられる一連のシークエンスが終了すると、そこには赤き戦士が立っていた。


「レッドセンシャー!」

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