第53話 転校生はお嬢様
なんとか迷子の少女を無事に職員室まで送り届け、久方ぶりに訪れた登校日以来の教室では、なぜか遅れている始業式までの間、皆が談笑していて悲喜交々の声が飛び交っていた。
皆それぞれの夏休みを満喫したようで、その自慢話や笑い話に華を咲かせているようだ。夏休みほどの長期休暇となれば、各自の体験談もきっと多種多様なのだろう。
その一方。俺はというと――
「優、いつの間にモデルなんかになってたの!?」
その中でも一際大きな人だかりの中心で、苦笑いと愛想笑いを足して二で割ったような複雑な表情を浮かべていた。
自分の中ではそろそろ記憶が薄れ始めていた事だが、夏休み中に偶然雑誌を見かけたクラスメイト達からしてみれば、これほど興味が沸く出来事はないらしい。皆、興味津々で瞳を輝かせている。
モデルに興味がある訳でもないので、本来ならばある程度の事実を述べて、煙に巻くような言葉を付け足せば終わるような話題である。
だがしかし。答えに窮しているのは、些か複雑な理由があるのだ。
「あの秋月さんに写真撮ってもらえるなんて羨まし過ぎるよねー」
女子の一人がうわ言の様に呟く。
そしてその言葉に触発されるかのように、もう一人の女生徒が己の疑問と、俺にとっては些か複雑な理由である要因を口にした。
「どうやって知り合えたの?やっぱりスカウトされたの?」
つまりはそういう事だ。
クラスメイト達は、秋月さんが薫の父親である事を知らない。ましてや薫が、証拠品と言わんばかり机に置かれた雑誌の最後のページ。その最後を飾っている集合写真に写っている少女だとは思いもしていない。
「翼も綾奈も羨ましい。やっぱりKAKOって可愛いかった?」
「そりゃもう」
「可愛い女性でしたよ」
突然のクラスメイトの問いかけに、二人が顔を見合わせて笑う。
KAKOというのは薫がモデルの時に使っている名前で、その名前に笑みが零れるのは仕方が無い事のように思える。
「………」
ふと視線を感じて、その先を追ってみると、黒縁眼鏡を中指で押し上げながら、我関せずに徹していたはずの薫がこちらを睨んでいる事に気がつく。
その視線には無表情ながらも『余計な事は思い出さなくても結構です』と、薫の無言の抗議が込められているようで、失笑してしまう。
そこへ――
「ニュースニュース!大ニュース!!やっぱりあの転校生の噂本当だってさ」
鼻息荒く大声で叫びながら教室へと駆け込んでくる吉良。どうやら噂の真偽を確かめるために、わざわざ職員室へと足を運んでいたらしい。その手にはメモ帳が握られている。
俺達は自然と吉良中心へと輪をつくる。
「え?じゃあ本当にご令嬢で、始業式遅れてるのはその紹介の準備するためなの?」
「うん。どうやらそうらしいよ。教員連中も、随分と急だったらしく慌ててる」
俺の質問に、吉良が重々しく頷く。吉良の言う噂、というものは、今日登校した時からずっとまことしやかに囁かれ続けていた事らしい。転校生がやってくる自体、珍しいと言えば珍しい事ではあるが、その転校生がご令嬢であるというのならば珍しいで片付けられる話ではない。
自慢ではないが、この峯苫高校はどこにでもある極々普通の学生が通う一般高校だ。当然、他校に誇れるような実績がある訳でもない。少なくとも、付き添いの同年代のメイドと共に登校するような異世界基準で創立された歴史ある高校ではない。
そこへ突然『ご令嬢』だ。噂にならないはずがない。
転校生、という言葉に先程の少女を一瞬連想してしまうが、どうにもご令嬢というには程遠く感じた。そうなると、彼女が噂の付き添いのメイドとなる訳だが…それもピンと来ない話である。
「へえ?んじゃ、やっぱり始業式で転校生の紹介するんだ」
先程までの話には傍観者気味だった翼が割り込んでくる。それほど盛大に自己紹介を行うのは、本人にも逆にいい迷惑な気がしないでもないのだが……。
「本人からすれば迷惑な話ですね」
いつの間にか輪に入っていた薫が、俺の考えを代弁する。
(本当に心を読んでいるわけじゃないよな……?)
薫の言葉に思わず不安になる。どうにも薫に読まれている気がする。
もっとも、翼達から言わせればそれは俺に対してだけではなく、他人の心の機微というものを察するのは、薫は人一番聡いらしい。
「それより少し気になる事があってさ」
そんな考えを遮るように、吉良に誘導され他のクラスメイトには聞かれない場所へと移ってから、神妙な面持ちで話を続ける。
「どうやらその転校生の苗字が、二人とも七瀬っていうらしいんだけど……」
さて。色々謎が多い第三部ですが、如何お過ごしでしょうか?(何)
後書き書くのも一苦労しそうな内容で、まったく困ったものです。正直まだまだ不安だらけですが、頑張って執筆いたしますので、応援宜しくお願い致します。
お手紙、コメント、感想大歓迎です。文法的におかしな部分、読み難かった部分があればご指摘、もし宜しければお願いします。
それでは〜。如月コウでした(礼)
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