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第52話 少女+お菓子+チャイム

「ふしゃーーーー!!」

「………」

 はてさて。あれから数分後しか経っていないはずのこの状況を説明する事が、これほど困難を極めるものになるとは誰が予想できただろうか。

 通学路から外れた最短ルート上にある平凡な公園の一角。

 通常なら一分も掛からず通り過ぎるだけの公園のはずだが、俺はちょっとした小動物の妨害により通れずにいる。

「がるるるる……」

 威嚇するが如く唸っている。それに対して先程からずっと、どうしたものかと頭を悩ませているのだ。その、小動物と称した存在が本当に獣の類であったならば、そう頭を悩ませる必要など皆無なのだろうが。

 残念ながら、小柄ながらも精一杯威嚇の唸り声を上げ続けているのは、その声や姿からには似つかわしくない、少女そのものなのだ。

 そのツインテールで美しいブロンドの髪を靡かせながら唸る姿は、些か迫力に欠けている。

 とりあえず――

「えーと。どうして唸ってるの?何か悪い事したっけ?」

「がるるるる」

 対話を試みてみるが失敗。先程からの態度からして、予想通りと言えば予想通りである。

 しかしながら、こうも目の前の少女を怒らせている心当たりが無いのだ。

 偶然今日。久方ぶりに訪れた公園で。さらに、遅刻寸前の状況下において、見知らぬ少女の神経を逆撫でするような言動は起こす暇もなければ、する余裕なんてあるわけが無い。

 とにかく今の最優先事項は、遅刻せずに学校へと辿り着く事。そのためにも少女の妨害を排除しなければならない。実力行使という手段もあるが、背丈から見て中学生らしき少女に対して行うには気が引ける。

 そうなれば対話が無理ならば、物で釣るしかない。鞄に学校で小腹が空いた時にでもと思って入れていたお菓子を手に取り、差し出す。

「……お菓子食べる?」

「ご馳走様」

「早っ!?もう食べたの!?」

 まさに電光石火。差し出されたお菓子を一瞬に してほおばると、少女は幾分か満足気に初めて言葉を発した。

「ボクを餌付けしようなんていい度胸だね」

 少なくとも、差し出されたお菓子を有無も言わさず奪い取った人間の台詞ではない。

 しかしながら、凛然と仁王立ちする少女の姿は、幼いながらもある種の風格を感じさせているが――

「…とりあえず。お菓子食べる?」

「ん、食べる」

 妙に素直な所もあるらしい。嬉しそうに手渡されたスナック菓子を頬張る姿はリスを連想させた。

「で?学校はどうしたの?」

 時計を覗き見てみれば、すでに遅刻は免れない時刻を示している。

 俺自身もそうだが、少女だって学生服を着ている以上、同じ立場にいる事は間違いはないだろう。

 だが、その問いかけへの少女の返答は至って完結だった。 

「道がわかんない」

 話を聞いてみたところ、どうやら少女は転校生として転校先の高校を探して、さ迷い歩いていたらしい。

 その風貌で、俺と同じ高校生という事実に驚きを隠せずにいると――

「お前。またボクの身体的問題に関して失礼な事考えたろ?」

 髪を左右に括っているリボンが、センサーのようにパタパタと動く。どうにも、少女はそういった視線には敏感のようだ。

 しかし、その大きな瞳を半目して睨みつけられたところで、やはり怖いという感情よりも子供を相手しているような気分が先立ってしまって、思わず苦笑いを浮かべてしまう。

「ごめんごめん。もしかして、それで怒ってたの?」

 そういえば、最初から俺は少女を中学生かそれ以下だと思って対応していた。

 少女はそれを察して、ずっと威嚇…と言うべきかどうかは判断に困るが。とにかく怒っていたのかも知れない。

「そもそもどうしてボクが子供に見られないと駄目なのさ?」

 不可解だ、と言わんばかりに肩を竦め、やれやれと溜め息をつく眼前の少女。

「……お菓子食べる?」

「ん、食べる」

 再び警戒心を解き、差し出されたお菓子を嬉しそうに頬張る少女。

(どう考えてもこれが原因なんじゃ……)

 そんな姿を見つめながら、困ったような笑みを浮かべる。

 それにしても、遅刻は免れないので諦めるとして、このままこの少女を放置して自分一人登校なんて後味が悪い気がする。

「仕方が無い、か」

「ん?」

 俺の独り言に、少女が反応して首を傾げている。

「とりあえず……どこの学校に行こうとしてるの?」

 お菓子をまだ食べている途中なのか。少女はその問いかけに一瞬顔を顰めたが、再び警戒心を解くと――

峯苫(ほうせん)高校」

 俺の制服に描かれた峯苫(ほうせん)高校の校章には目もくれずに言い切った。

 遠方から聞こえるその峯苫(ほうせん)高校のチャイムが鳴り響く。

「……あ、そう」

 俺はそのチャイムをどこか遠くに聞きながら、一人呟いた。


 ……最初っからそれを言ってよ、と。

 





さて。新キャラの登場です。

今回は、第三部の最初の五話という事で、あまりここで話し過ぎると駄目なので、コメントは控えさせて頂きます(ぇ)

お手紙、コメント、感想大歓迎です。文法的におかしな部分、読み難かった部分があればご指摘、もし宜しければお願いします。

それでは〜。如月コウでした(礼)

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