表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/88

第51話 特異な変化と変わらぬ日常と

 季節の移り変わりというものは、なぜいつも突然に感じるのだろうか。

 暦を見れば、今日は九月一日。あれだけ騒いだ夏休みも終わりを告げた。今は、妙に懐かしさを感じさせる制服に袖を通して、峯苫(ほうせん)高校へ向っている最中である。

 頬に感じるまだ少し暑さが残る風と、僅かに伸びたブロンドの髪が戯れる。こうしていると、夏休みのすべてがどこかの夢物語のように思えてくるから不思議だ。

 もっとも――

「夏休み気分で連日連夜、遅くまでネットゲームしているからそうなるんですよ」

 その少女の姿には不釣合いな前傾姿勢で歩きながら、欠伸を繰り返す俺を横目で見ていた神凪翔の言葉を聞けば、詩人染みたそれがただの虚栄である事は明白だが。

「夏休みだろうが、学校だろうが普段通り過ごしてるよ。俺は」

「確かにそうでしょうね」

 元々翔自身、俺が自室へと戻って寝るという最低限の約束事は守っているので、それほど強く言い聞かすつもりもなかったのだろう。ささやかながらの抵抗の言葉に対して、翔は説得を諦めた事を溜め息で示す。

「尤も。随分と女性として成長されてはいるようですがね」

「ふ……」

 今度は翔の言葉に、俺は溜め息をついた。

 日に日に女性として順応していく己の思考と行動を顧みて、少しばかり遠い目で空を仰ぐ。

「ところで……。恋愛の首尾はどうですか?海で少々進展があったように感じましたが」

 その言葉に、睡眠不足とはまた別の妙な疲れを催して思わず顔を渋めた。翔が言いたい事は理解はしている。霧島との関係の事だろう。

 実際、あの時黙って二人で会って密談していたと思われても仕方が無い状況であった上に、二人で居た場所が場所だ。その密談内容が、そういった事柄だと誤認させてしまうのは致し方ない事である。

「そういった事柄は、まったく完璧になかった」

 なにやら妙な日本語だが、俺はとにかく最大限の否定を込めてそう答えた。

 この壮大な勘違いは翔だけではなく、綾奈を筆頭に暗黙の了解となっているため、不機嫌そうに答えた俺の表情を覗き見て、翔は『やれやれ』と肩を竦めて――

「……彼も報われませんね」

 と、だけ呟く。

 その言葉の意味を理解出来ないほど俺も馬鹿じゃない。だが、それを素直に認める事はどうにも気が引ける。

「報われない点で言えば、俺もそうだがな」

 こちらも肩を竦めて軽く悪態をつく。

(だからこそ、こうして憎まれ口のひとつでも言いたくなるというもんだがな)

 そんな言葉を心の中で付け足しながら。

 こんな事を口にしようものなら、再び翔の言及が始まるに決まっている。ついつい俺は、なんでもかんでも思ったことを口にしてしまう癖があるのだが、黙っている事も時には必要だと

最近切に感じる。

「ちなみに。貴女がのんびりしているせいか、少々時刻が報われない状況になりつつありますが」

 まるで俺の考えを見透かしたかのように翔は目を細め、呆れたように腕時計を指差した。どうやらいつの間にか、走ればなんとか遅刻せずに済むほどに切迫しているようだ。

「いってらっしゃい」

 しかしこのまま登校すると少々面倒な事になるので、爽やかに翔を見送ることにする。

「いや。いってらっしゃいではなくて、貴女も走らないと遅刻ですよ」

 すると、当然意味が分からず翔から疑問の声が上がる。

 しかし――

「お前と一緒に登校して、またあらぬ噂の渦中に晒される事よりもマシだ」

「……なるほど。それでは先に失礼致しますよ」

 俺の真面目かつ簡潔な説明に、翔は素直に頷いた。

 どうやら翔自身、そういった噂の渦中に晒されたという自覚はあるらしい。

 それはそうだろう。吉良が創設した、妙なファンクラブのブラックリストの最前列に名を連ねているのだから。翔は翔なりに苦労しているようだ。

「さて。俺もそろそろ行くとするか」

 翔がこちらを見ていない事を確認して、細い路地へと視線を移す。

 翔には悪いが、俺は常に『如何に貴重な睡眠時間を増やせるか』を追求していた自堕落的な男子学生だった。通常の通学路の他に、最短ルートというものもすでに開拓済みだったりする。

 慣れない体にスカートでは、少々都合が悪い場所だったりするので今まで使用は控えていたが。今となっては多少の体力面に不安はあるものの、時間内には難なく走破出来るだろう。

 そこまで考え至って、ふと無意識ながらも男であった過去の実績と、現在女である現状を照らし合わせて冷静に物事を考えてしまっている自分に気づく。

「なんだかな……」

 もう一度振り返り、走り去る翔の背中を見送りながら自分が置かれている有り得ない状況を再認識して、俺は苦笑いを浮かべるのであった。

 

 空を見上げれば、夏の微熱を残したままの太陽が忌々しげに輝いている。

 今日から二学期。

 特異な変化はあったものの、特別変化も無い日常を過ごすために。その日差しを掲げた手で遮り駆け出す。

 そして、女性となった俺の一日が始まる――。

 



お待たせ致しました!

ぷらマイS。第三部いよいよ開始でございます。

お話としてはかなり動きがあるように思いますので、矛盾のないように頑張ります;;

色々とまだまだ思案中なので、どうなっていくのやら。私自身も分かりません。

どうなっていくか?どうぞ皆様お楽しみ下さいませ。

お手紙、コメント、感想大歓迎です。文法的におかしな部分、読み難かった部分があればご指摘、もし宜しければお願いします。

それでは〜。如月コウでした(礼)

●ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)

●ネット小説ランキング>現代FTコミカル部門>「ぷらすマイナス*S。」に投票です

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
http://nnr.netnovel.org/rank08/ranklink.cgi?id=secrets
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ