第46話 疑惑?
暗闇を引き裂くように、花火が夜空に大輪の花を咲かせている。
男は言った。『好きだ』と。その男の言葉に女は頬を朱色に染めながら『私も好きです』と頷いた。
美しい色彩を放つ花火の下。こうして二人は永遠の愛を誓った。
そしてその二人が愛を誓った場所で、花火が終わるまでに告白すれば永遠に結ばれる。
『……と、こんな感じの言い伝えがある』
いよいよ夜の帳がおり、花火大会の開始を知らせる花火が打ち上げられてから、暫く経った時。
吉良が真剣か冗談か分からない表情で、そんな話を持ち出してきたのが、今より約30分前の出来事だ。
とある事情から、花火見学客が少ない岩場の影でぽつねんと立っている俺。
状況は激しくピンチである。それをなぜかと問われたならば。まずこの状況に陥ってしまうまでの経緯を話すとしよう。
俺は一人、夜空に咲く花火から少し離れた岩場の影で待ち人を待っていた。
薄紅色に染められた生地の浴衣に身を包んで静かに待っていると、ふとこの場所が、人目を避けるかのように立ち寄った恋人達の巣窟となっている事に気がつく。
この時点で、そこはかとなく嫌な予感はしていた。
だが諦めきれず、悪いと思いつつも、行き交うカップルの会話を盗み聞きしてみると、まさにこの場所が吉良が言っていた世迷言のような場所である事が判明してしまった。
そうしてやっと、先程から前を行き交う目障りな恋人達が、俺に対して白い目で向けていた理由が理解できたところである。
どうやら俺は、不本意ながらも綺麗に着せられてしまった浴衣のまま、不安げに瞳を揺らす恋する少女として認知されているらしい。
しかも、すでにここに到着して30分が経過している。これでは、相手に待ちぼうけをくらっているように見えなくもない。
「放って置いてみんなと合流、とはいかないんだろうな……」
ほのかに香る海岸の空気を吸い込み、溜息混じりに吐き出すと空を仰ぐ。
ここから離れられない理由は、呼び出された相手によるところが大きい。
呼び出し人は霧島京一。内容に関しては『謝りたい事がある』とのことだ。何の事かは皆目見当がつかないが、こちらとしてはコンテストの件で少々聞きたい事もあるので待ち合わせを承諾した。
しかし――
「これは新手の嫌がらせだろうか……」
ここはかなり居心地が悪い。謝りたいと言うのだから、迷信を信じてここで愛の告白といった類のものではないだろうが、嫌がらせとしては上出来である。
そんな事を悶々と考え込んでいると、いつの間にか背後に忍び込んでいた霧島が、とんとんと俺の肩を叩いた。
「そんなつもりはないよ」
「…………遅かったね」
表面上には出ないように、なんとか動揺を抑えながらも振り向きながら、俺は心の中で『しまった』と苦渋に顔を歪めた。
別に男口調を知られる事が拙いわけではないだろうが、現状で波風を立てないように過ごすには、女を演じる必要があるように思える。
たとえ本音でも、女口調で言ってしまえば、今の女の姿である俺には違和感が無い。だが、逆にそのまま男口調で話すと、違和感が生じてしまうのだ。
気にし過ぎている面もあるだろうが、どうしても元男として敏感になってしまう。
「とりあえず、優はこの場所が嫌そうだから歩きながら話そうか」
だが、霧島は違和感を感じなかったのか。何事も無かったかのように話を進めてくる。その態度に少し安堵するように、俺は霧島の提案に微笑み返す。
「それで、話ってなに?」
「剣道部でのこと。真剣にやってる奴を馬鹿にするような発言した事は謝る。けど、ああいったやり方は卑怯だ。優は剣道経験者だろ?」
海岸沿いを歩きながら、俺の問いかけに前を歩く霧島が答える。やはりそれでも根に持っているのだろうか。その口調はいつもよりも厳しい。
「その仕返しをするために、わざわざ審査員まで名乗り出たの?」
遠回しに質問する気などない。単刀直入に質問をぶつける。
「優勝したかったか?」
「さあ?どうだろうね」
俺の返答が、よほど面白かったのか。霧島は声を押し殺しながらも、愉快そうに肩を震わせて笑っている。
「……あれ?」
「ん?優、どうした?」
そこでふと、霧島の口調が、いつもの軽い感じが抜けた状態になっている事に気がつく。俺の名前を呼ぶ時も、いつの間にか呼び捨てになっているではないか。
「いや。優ちゃんじゃなくて優って呼ぶんだな、と思って。口調も少しいつもと違うような気がするしさ」
素直にその疑問を口にする。嫌なわけじゃないが、そうなっている理由が気になったのだ。
少し驚いたような表情を浮かべる俺に対して、霧島はすぐさま破顔すると――
「別に?本当はこっちの方が楽だからな。……優もそうだろ?」
嬉しそうに、そう言った。
話すネタがないですorz
最近、ますます迷走してる感があるので如何しようかと考え中な駄目作者でゴメンナサイ(ぁぁ)
お手紙、コメント、感想大歓迎です。文法的におかしな部分、読み難かった部分があればご指摘、もし宜しければお願いします。
それでは〜。如月コウでした(礼)
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