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第47話 誤算と勘違い

 突然過ぎる霧島のその言葉に、俺の体が一瞬強張る。

「私も?」

 なんとか取り繕い、冷静を装う。確かに翼や綾奈達の前では素を出している。しかし、それは翔としてではなく、優としての話だ。

 だが霧島は、俺の中の翔を見透かしているような感じがした。出来れば杞憂であって欲しいが――

「そうだな。自分を隠してる。あの三人と神凪翔の前では別かも知れないけど」

 やはり気づいている。

 勿論、まさか俺が神凪翔である日突然女になってました、なんて世迷言としかとられないような出来事までは分かってはいないだろうが……。

「本当は天然じゃなくてもっと計算高い、だろ?みんなが思っている優を演じられるぐらいだから」

 霧島は振り向き、迷い無く言い切った。その言葉は疑問形ながらも、確証は無いが確信はあって断言したと言っても相違ないだろう。その瞳がそう告げている。

「……別に隠してるわけじゃないけれど。みんなが勝手に私のイメージを作り上げただけでしょう」

 鈍器で頭を殴られたかのような衝撃。俺は髪を僅かに揺らしつつ視線を逸らして、吐き捨てるように呟いた。

 霧島の言葉ではない。今、己が口にした言葉に、俺自身が動揺したのだ。

 そうだ。俺がどうして、こんなどうしようもない状況でさえ女である事を頑なに拒み続けているか。その理由は至って簡単だったのだと、そこでようやく理解した。


『周囲からによる、自己への強制的な意識変革』 


 これこそが、俺が拒絶するただひとつの理由。

 もしかしたら、時間さえ経てば俺はこの状況を仕方がないと受け入れていたかも知れない。今の俺が置かれている現状は、不明瞭な未来において、男で在り続けるよりも女として生きる方がこの上なく容易である。

 それを理解した上でも拒んでしまう。なぜなら。まるで周りのすべての人間から、今まで翔として生きた自分の人生が無かったかのように否定されてしまっていると、どこかで感じているのだから。

 “S”と呼ばれたウィルスを悪性と呼ぶ事は納得出来る。仮に『人の変身願望がパソコンという媒体を通して形を成したモノ』だとすれば、それはやはり歪な代物となっているのは確かだ。

 否。元々、人の願望自体が歪な代物かも知れない。

 人は対照的な変革を望む。今の自分に足りないモノ、手に入れられないモノを望んだ結果なのだから。

 しかし、無意識に刷り込まれた習性を、変革させる事は不可能に近い。仮に変革出来たとしても、それは現在までの記憶も変革させないと歪なモノとなるためである。

 その結果。変革した世界の自分の立ち位置と、以前の自分の在り方の間にある絶対的な違いを埋められず、それを理解してくれない他者との距離を置こうとする。それが強制的に行われた変革ならば尚更だ。

 ゆえに悪性。どうやら俺は、予想以上に厄介な状況に立たされていたらしい。

「だから謝るよ。ごめん」

「え?」

 険しい表情のまま、押し黙る俺を見かねたのか。暫しの沈黙を破って、霧島が口を開いた。

「剣道部の件。それを忘れさせるぐらい怒らせたって事だろ?確かに真面目にやってる奴からすれば、ムカつく言動だった」

 そう言って、霧島は静かに頭を下げる。

 以前では考えられないようなほど、その紳士的な態度に少々の戸惑いを感じながらも、俺は慌てて霧島に頭を上げるように促す。

 だが、霧島は下げたまま――

「それと、コンテストの件も。優勝したかったようだけど、俺の一存で優勝させなかった事も」

 妙な事まで謝ってきた。

「正直、わざわざ人前でこけたりしてアピールしなくても優勝できるくせに、って腹が立って冷静に判断できなかった」

「え?いやいやいや。私的には優勝させて欲しくなかったからちょうど良かったんだけど……」

「え?だからあんな事したんじゃないのか?」

 お互いが呆然と顔を見合わせながら、先程からの会話を思い返す。どうやら、話の内容が食い違ったまま会話が成立してしまっていた事は確かなようだが……。

「え?なに?ひょっとして、マジでこけたの?あんなコントみたいな感じに?」

 ああ。どうやら霧島は、俺は打算的な考えの上で、盛大にこけたと勘違いしているわけか。なるほど。確かにそうだとすれば、俺はかなり計算高い女性に見える。

「ぷ……マジかよ。あれが計算じゃなくて……あははは!」

 素直に頷いた俺を見て、きょとんとしたまま瞬きを一度。そしてすぐさま腹を抱えて、霧島が笑った。




普通のラブコメっぽいよ、俺!(何)

今回は優の気持ちに重点を置いてみました。どうだったでしょうか?それなりに納得できる理由であればいいのですが…。

次回についてはまったく考えていません。今から考えます。第二部の最終的な終わり方をどうするべきか悩んでいるところです。

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