第42話 友達以上恋人未満ではある少女
「翔、お待たせ!」
息を弾ませながら全員分の飲み物を手にして翔へと駆け寄ると、微笑みその腕に自分の腕を絡ませる俺。
「いいですよ。それもまたデートの時間ですから」
そんな俺を見て、手にしている飲み物を半分受け取り、爽やかな笑みで答える翔。
その光景に、周りにいた男達が溜め息混じりに散っていく。その姿を横目に流し見つつ、俺と翔は腕を組んだまま、みんなが待つ場所へと歩を進める。
そして―
「優さん」
厳かに翔が俺の名を呼ぶ。
「なーに?翔」
それを満面の笑みで答える。
「優さんは男性ですね」
「そうだな」
「………泣いていいですか?」
「好きなだけ」
悲痛そうな微笑みを浮かべる翔を、慰めるかのようにその肩を叩く。
「ちなみに俺は、先程の自分の言動を省みて吐き気をもようしてきた」
「そうですか」
「………泣いていいか?」
「好きなだけ」
まったく同じような会話をして、先程とはまったく逆の言葉を掛け合う。そして今度は俺が翔に肩を叩かれる。
「ははははは」
「あはははは」
そして俺達は、お互いに不気味な笑い声を上げながら心の中で咽び泣く。
恋人同士とは言い難い雰囲気のはずだが、なぜか入り込む余地がまったく見えない、ある意味一線を凌駕してしまった二人に、周りの人間も俺への声掛けを諦めて立ち去っていく。
薫の案は見事成功してはいるが、こちらの精神的ダメージが凄まじい。このままでは海において、一生モノのトラウマになりそうだ。否、すでにトラウマだろう。今晩あたりうなされそうである。
「優は演技も完璧ですね」
その様子を見ていた薫が満足気に頷く。
しかしこれが完璧な恋人同士に見えるなら、世の恋人達は、常に嘆き哀しみ、今この瞬間ですら『いっそ地球よ滅んでしまえ』と祈っているような、バイオレンスな関係の上に成り立つ存在になってしまう。嫌過ぎる。
「そういえば他のみんなは?」
絡ませていた腕を離すと、気を取り直してその場にいない皆の居場所を問う。
「………」
その問いかけに、薫は黙って人差し指で海の方角を指し示す。
そこには―
「ほーら。そんなに下から水着姿を見たいなら、埋もれたまま満ち潮までいたらいい。運が良ければ上を誰かが通るかも知れないから」
「いやいや!?それって確実に、俺の顔も海水の中にありますから!?」
「いっそ逆方向で埋めてみるとか…」
「いやいやいや!?藍璃ちゃん、それってただの生き埋めだよね!?」
「いえ。てっきり満ち潮まで待つぐらいなら、ひと思いに死を選ばれるかと思って…」
「え、俺にあるのって死の選択肢のみ!?生きる選択肢は!?」
「残念ながら…」
「そうやって笑顔で埋めてる姿を見たら、まったく残念そうに見えませんよねぇ!?」
何処かで見たような光景が広がっていた。
「…薫。説明をお願い」
以前と同様に、げんなりした表情で薫に状況説明の求める。すると、薫も以前と同じように『わかりました』と頷き、事の顛末を話し始めた。
「吉良耕介が綾奈の恋人役としてビーチバレーで遊戯中、ヘッドスライディングを行いパレオの中を覗き見ました」
「…………」
道理で綾奈が止めもせず、涙目になっているわけだ。
どうやら俺達は、一番身近な危険人物の存在を忘れてしまっていたらしい。
「翼、藍璃」
さすがにその場から離れていたため、駆け寄って二人の肩を叩く。
「優、お疲れー」
「どうでした?お兄ちゃん役に立ちました?」
「ん、まあとりあえず大丈夫だと思うよ」
先程の事を思い出し、苦笑しながらも答える。
「で?吉良君は反省したの?」
出来れば話を逸らしたい俺は屈み込み、顔だけを残して砂に埋まった吉良に話しかける。
すると吉良は至福の時だと言わんばかりに、だらしなく頬を緩める。
「うん。優ちゃんの水着姿をこのアングルで見れて幸せ」
その瞬間。
その意味を理解した俺は、片手で体を支えながら足の指に力を込めて前蹴りを。
その右に位置する藍璃が。
左に位置する翼が。
下段蹴り――つまりはローキックで砂で固定された吉良の頭を打ち抜く。
「三方向同時攻撃はシャレにならなぶべらっ!?」
三方向から同時攻撃により、衝撃が逃げることなく完璧に伝わった吉良は、一瞬にして意識を手放す。
「良い旅を、です…」
さすがの綾奈も、今回ばかりは助け舟を出す気になれないらしい。
神妙そうな顔つきで、そっと手を添えて拝んでいた。
やはり小説を打つ、という事は難しいものですね。最近、しみじみとそんな事を考えております。
今回のお話は……今まで築き上げた仲間の絆の総仕上げ?のような気がする!……ような気もしないでもない。いぁ、ホント脊髄反射で執筆してゴメンナサイorz
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それでは〜。如月コウでした(礼)
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