第40話
「え!?あの薫がモデル!?」
その事実を耳にした綾奈と翼以外の者は、全員驚愕のあまり声を上げた。
確かに、普段は不釣合いな黒縁眼鏡のせいで隠れているが、顔はかなり整っている気はしていた。だが、だからと言ってあの何が起こっても無表情な薫が、モデルとしてアルバイトをしていたという話は、到底信じられるものではない。
「で、でも薫さんって笑わないんじゃ…」
同性の藍璃ですら、その衝撃に動揺を隠せずにいるらしい。顔が引き攣っている。
「普段はね。でもちゃんとバイトの時は笑うよ?」
それに対して翼は、『知らなかったの?』と言わんばかりの表情だ。
「いや…モデルがバイトなんて聞いてないけど…」
そういえば以前、薫にアルバイトの事について質問した時、『基本的には延々無言で立っているだけ』だと言っていた。
なるほど。確かに基本的には立っているだけである。その説明も間違えてはいない。
だがその言い回し方からすると、薫自身もあまり人には知られたくないのだろう。あの時言葉を濁した理由が、まさにそれなのだろうから。
その薫の行動に、思わず俺が失笑を溢していると―
「今日は済まなかったね。記念に何か、とも思うんだが…。もし良ければ、全員の集合写真なんてどうだろう?」
部屋から出てきた秋月さんとスタッフさん達がそう申し出てくれた。
集合写真と言っても、どうやらそれも少し本格的なものとなった。
みんな、各々今回の撮影でリストに上げられていた衣装の中から自由に選んで着たが、ヘアメイクまでして貰えて、特に藍璃が大はしゃぎしていた。
翔と吉良も、急遽準備された男物の衣装を身に纏い撮影に望んでいる。
普段とはまったく違う装いをして登場した時は、大いに場を沸かせてくれた。
女性をエスコートするのだからと着せられたタキシードが吉良には最高に似合わなくて、爆笑としての意味で、だが。
だが、一方の翔は不思議な事にその物腰や仕草で、不気味なほどその姿が似合っていた。
翼が『神凪意外と男前じゃん』と感心するほどだったが、元神凪翔としては少々複雑である。
「それじゃみんな準備出来たね?目線は気にせず好きにお喋りしたりしてくれてれば、こっちが勝手に撮影するよ」
緊張のあまり顔を強張らせている藍璃に、秋月さんは苦笑しながらカメラを構えた。
「では優ちゃんと愛の語らいを…」
「優さんに触るな。この下郎」
しかし吉良の言葉に一瞬にして反応する藍璃に、全員から笑顔が零れる。
カメラ目線でピースする者。気にせず雑談に花を咲かせている者。皆それぞれに楽しんでいる。その姿を、秋月さんやスタッフの人達も微笑ましく見守っている。
「優。感謝しています」
「ん?どうしたの?」
ふと薫が俺へと歩み寄り、小声で感謝の言葉を述べた。
「貴女は目立つ事は望まないでしょう」
本当に人の心を読めるんじゃないだろうかと思えるような言葉に、苦笑いを浮かべる。
確かに女である俺が目立つ事は苦手でもあるし、望んでもいない。
だがしかし―
「友達が困ってるなら手伝うのは当たり前でしょ?」
薫が仕事が上手くいかずにやつれていた父親を――秋月さん心配していた事は確かなのだ。その心配を払拭出来るなら、それもいいだろうと思えた。
その俺の返答に、薫は一瞬呆然としたが、すぐさま立ち直り―
「心遣い感謝します」
そう言って満面の笑みを浮かべた。
いつもの黒縁眼鏡もなく顔がよく見える。それは初めて見る薫の笑顔。
だが今それを驚いたり、はやし立てるのは違う気がしたので、俺も静かに微笑み返す。
「お?二人で密談中?」
「何か面白い事でもあったんですか?」
「まさか百合の世界へ突入――」
「吉良さん、そのまま棺桶に足を踏み入れたいですか?」
「藍璃。すでに吉良の顔が紫色に変色しています。踏み入れるどころか、すでに逝っている可能性がありますよ」
その俺達を囲むように、みんなが集まる。
そして響き渡る最後のシャッター音。
こうして、俺達の集合写真撮影は終わりを告げたのだった。
その一週間後。
写真が掲載されたらしいファッション雑誌を、秋月さんが記念にと送ってくれたらしく、薫が全員を集めて販売よりも先立って手渡してくれた。
その雑誌は、書店でよく見かけるファッション雑誌のひとつだった。
しかし秋物特集と題打ったページ紹介は表紙にはなく、皆で首を捻っていると―
「この『“YOU”のオシャレ特集』って…何?」
あるページまで辿り着いた瞬間に顔が盛大に引き攣る。そこに写っていたのは紛れもない俺の写真。しかも、一部分どころか数ページに渡って特集されているではないか。
しかも―
「これって…私達も載ってますね…」
苦笑いの綾奈が指差した先には、俺達全員の集合写真まであった。
慌てて薫に秋月さんに連絡を取ってもらったところ、『クライアントが写真をえらく気に入ったらしく、記事の内容を差し替えたようだね』と笑って言われてしまった。
さらに『また仕事を頼みたいと言って来てるんだが…』という戯けた誘いを熱烈に拒否して、呆然と立ち尽くす俺に対して――
「優。貴女はこの雑誌の発売日には校内どころか全国区ですね」
最後の集合写真の中では笑顔を浮かべている薫が、『予想外です』と言いながらもいつも通りの無表情さでそう告げるのであった…。
題名、一回ごとにあった方が良さげですね(ぇぇ)
次回から元に戻すようにしよう。うん。
今回の薫のお話はどうだったでしょうか?楽しんでいただけたなら幸いです。
次回はいよいよ第二部では最後(の予定)のお話!
夏休み最後のお話として、みんなで海へ出掛けます。そこで巻き起こるドタバタコメディ!どうぞ、お楽しみ下さい。
お手紙、コメント、感想大歓迎です。文法的におかしな部分、読み難かった部分があればご指摘、もし宜しければお願いします。
それでは〜。如月コウでした(礼)
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