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第38話

「……でどうだろう?神凪優君」

「いえ、だからもうまったく素晴らしいほど人の話を聞く耳持っちゃいませんね」


 目を輝かせて俺を取り囲む、見知らぬ大人の男女に口を呆然としつつ、俺は小野寺薫の父親と名乗る、秋月省吾という男性の問いかけに頭痛を抑えながら答えた。

「理解不能です」

 そんな俺の隣で、誰かがお茶請けとして差し出したお菓子を頬張りながら、薫は無表情に呟いた。確かにそれは俺も言いたい台詞ではあるが。

「つまりその……。私にモデルをして欲しい、と」

「その通り。理解が早くて助かるよ」

「いえ、だから再三お断りしているんですけど……」

「大丈夫」

「だから何が!?」

 繰り返される会話内容に頭を悩ませる。

 その一方では、どうやらこの家自体撮影場として使用する事も想定されている造りになっていたらしい。その場に居た人々が撮影の合図と共に、一斉に準備に取り掛かっていた。

 眩暈がする。どうして俺の周りには、人の困惑している姿を尻目に、それは杞憂だと言わんばかりに爽やかに話を進めようとするのか。

 そこへ―

「これは一体何事ですか?」

「来たな。その第一人者」

 俺が薫の家に居る事と連絡を受けて駆けつけた翔を、そんな言葉と共に、どんよりした目で迎え入れる。

 考えてみれば間違いなく翔が、人の困惑を尻目に話を進める第一人者である。そうなると、なんだかこの状況さえ翔によって生み出したものと感じてしまうから不思議なものだ。

「何をそこまでげんなりしているかは知りませんが…。とりあえず一人では不安かと思い、皆に連絡を取り、集合時間を早めた事は労って欲しいものです」

 そんな俺の不貞腐れた様子に、やれやれと言った感じで肩を竦める翔。

「み、皆…もうすぐ来るの…?」

 翔の言葉の意味に愕然とする。嫌な予感がする。それもかなり高確率な。

 このままいくと、訪れた翼辺りが『減るもんじゃないし、モデルぐらいやればいいじゃん』と言って、さらには皆がその言葉に同意して俺の逃げ場が無くなるパターンだ。現状を知られてしまえば十中八九そうなるだろう。

「それだけは避けたい…」

「ちなみに。吉良と藍璃ならすでにそこにいますよ」

 俺のすべての希望を打ち砕かんばかりの翔の発言に、今度はその場で崩れ落ちる。

「神凪優ファンクラブ。『優ちゃんは全校生徒で見守ろう会』会長の吉良耕介です。是非とも今回を機に、ご高名な秋月さんのお力添えにより優ちゃんの魅力を、世間に広めて頂きたく思っております」

「あ、あの…お会い出来て光栄です!神凪優の妹、神凪藍璃です。秋月さん、唯一の姉妹である姉の事綺麗に撮ってあげて下さいね!」

 こいつ等は年中頭のネジが二、三本足りてないのだろうか。当の本人である俺をぶっちぎりで放置して、勝手に話を進めてやがる。

 吉良。いつの間にそんな珍妙なファンクラブを立ち上げたんだ。つまりはあれか。夏休み前に学校で感じていた、妙に統率が執れた不気味な視線の元凶はお前か。

 藍璃。唯一という言葉。それは暗に自分には兄などいないと強調したいのか。犯罪者扱いの次は、存在を否定か。ツンデレと名乗るには酷過ぎるぞ。デレがない。

 そもそも、普段がツンツンしていて、二人っきりの時にデレデレしているのがツンデレの定義と聞く。しかし、藍璃は兄と二人っきりになろうものなら、デレデレではなくチクチク文句を言って来る。略してツンチク。心身ともにとても痛そうである。

「いつもながら藍璃さんは手厳しい方ですね」

「大丈夫だ。俺の時からあんなものだった」

「ははは……おかげで順応するのに苦労しましたよ。いえ。慣れたというより諦めの境地に至ったと言った方が相違ないでしょうか」

 笑いながら、その笑顔にかなりの苦悩と哀しみを滲ませる翔の肩を無言で叩く。

 よくよく考えてみると、こいつは最初はこんなダークユーモア溢れる人間では無かった気がする。どうも神凪翔としての神凪家で過ごす内に、こうなってしまったようだ。

 恐るべき神凪家。歳月は人を変えるとはよく言ったものである。

 そして―


「こんにちはー」


 室内に響き渡るインターホンと聞き慣れた翼の声。

 薫と共に出迎えると、翼の後ろには綾奈の姿もある。綾奈はこちらを確認すると、見る者をほんわかとさせるいつもの笑顔を浮かべて、会釈してくれた。

 そして予想通りと言うべきか。

 大人達が写真撮影の準備に大忙しな状況を横目で見つつ、事の顛末を聞いた翼は、いつもの破顔一笑すると―


「減るもんじゃないし、モデルぐらいやればいいじゃん」


 一語一句間違わず、予想通りの言葉を俺へと投げ掛けてくれた。そしてこれまた予想通りにその意見に同意する周りの方々。

「もう好きにしてください…」

 多勢に無勢。諦めたように承諾した俺は、促されるままに更衣室として準備された部屋へと姿を消すのであった。

さて。案の定、優は巻き込まれました(笑)

予想通りと言えば予想通りなのではないでしょうか。こと優に関しては、会長である吉良とツンチクの藍璃は、意外にいいコンビかも知れません。

次回はいよいよ撮影開始です。それと同時に薫の以前の発言の謎が明らかに…!!(内容は未定です/ぁ)

お手紙、コメント、感想大歓迎です。文法的におかしな部分、読み難かった部分があればご指摘、もし宜しければお願いします。

それでは〜。如月コウでした(礼)

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