第33話 少女交響曲2
その日のお昼休み。
とある空き教室に集まった2−4組の女子達は、目の前に並べられた色とりどりの封筒に手紙を一瞥し、輪になって討論を繰り返していた。
「『好きです。付き合ってください』か…。飾らずにストレートに気持ちを伝えようとしたのは評価できるけど…これって手紙に書くような内容じゃないよね…」
「あ、ねぇねぇ!これなんてどう?『めっちゃ好きやねん!』だって」
「駄目駄目っ!そんなのただのネタじゃないっ!」
「じゃあさ。これなんてどう?『I LOVE YOU(優とかけてみたんですけどどうでしょう?)』だってさ」
「自分でネタの説明するなんて言語道断よ。却下却下っ!」
女三人寄れば姦しい(かしましい)とはよく言ったものである。
ましてやこの教室にいるのは、2−4組の女子全員、つまりは総勢14名揃い踏みだ。そのかしましさと言えば尋常ではない。
「い、いい加減に落ち着いて話し合いましょう〜…」
皆、あまりの白熱ぶりに、すでに本来の目的を見失っている。
それをなんとか静めようと、菜乃綾奈が先程からその小さい体で教壇に立ち、両手を掲げぶんぶんと振りながら、必死に言葉を投げかけている。
しかし、その姿はどう見ても半べそかいて地団駄を踏んでいる子供そのものだ。この暴動を鎮圧するには、如何せん迫力不足である。
「薫ちゃ〜ん……」
もうどうしていいのか分からず、綾奈が親友の一人に助けを求める。
その教壇の横。ちゃっかり己の椅子だけは確保し、何かをする訳でもなく事態を静観し続けていた小野寺薫は、ゆっくりと綾奈へと視線を移し、たった一言。
「不可能です」
いつも通り無表情で、きっぱり言い切った。
そして、その返答を予測していたのだろう。綾奈はただ深く溜め息をつく。
「翼ちゃん〜……」
無理とは思いつつも、あの輪の中心にいるもう一人の親友の名を呼んでみる。
「いや〜もう驚いたね。いつもはギリギリにしか来ないくせに、今日みたいに大漁の日に限って早く登校してくるんだからね」
しかし、どうやらいつの間にか議論内容が再びすりかわっているようだ。
「優は自分の事、全然モテないと思ってるようだけど…。まあそういう美人を気取らない、人懐っこい天然さが人気の秘密っていうのもあるんだろうけどさ」
「仲良くなりたいから、転校初日に早く来て皆に挨拶して回るなんて…。私達には真似できないよね〜」
「でも、そのせいで変に男子がたかっちゃって大変だったよ…」
「鼻の下伸ばしてる男連中にも、声をかけられたら嫌な顔ひとつせずに、笑顔で返事を返しちゃうんだもん。仕方ないよ」
翼の言葉をかわきりに、次々と出てくる優の深層心理を知らない者達が見てきた客観的な逸話の数々。
当の本人である優がこの話を聞けば、その場で半笑いのまま気を失うほどの、ある種の破壊力をもった代物である。
なぜなら。そのすべてにおいて、男として動き易いように動いた結果によるものなのだ。
しかも、それにより女子達は団結し、彼女達からしてみれば純真無垢な優を、男の毒牙から守ろうと日々暗躍しているとは…。
当の本人である優には、当然ながらあずかり知らぬ事であった。
「翼ちゃん〜……」
感慨深げに腕を組む翼の耳に、綾奈の声が届く。
「なに?」
「今日はそういう議論じゃなくて、ラブレターの差出人さんへの体のいい断り方と、対面でのお断り人の選出です〜…」
「あ、そうそう。本来の目的を忘れるところだった。時間もないし、この際断り方はアタリひいた人の自由って事で。さ、皆このクジひいて〜」
綾奈の言葉に、本来の目的を思い出した翼が、テキパキと適当ながらも話を進めていく。
そしてその結果―
「…………」
全員が、約一名の手に握り締められたアタリクジを見つめる。
本来ならこの時点で、喝采や冷やかしといった悲喜交々な言葉が飛び交うはずなのだが―
「…………」
「…………」
誰一人言葉を発しようとしない。
寧ろ全員が『なぜ自分がアタリを引き当ててやれなかったのか』という後悔の念に打ちひしがれている真っ只中である。
そう。アタリクジを握り締めたままピクリとも動かない人物は、誰がどう考えてもこういった色恋沙汰とはまったく無縁……といった可愛らしい次元すら超越して、感情自体に無縁に見える小野寺薫だったのだ。
アタリを引き当てた当の本人である小野寺薫は、そんな重苦しい空気をまるで意に介さず、いつも通り感情の起伏がまったく感じられない声色で一言。
「あたりました」
と、その場にいる誰もが理解しながらも、認めるべきかどうか迷っている事実を、ただ口にした。
ギリギリ執筆が間に合いました(挨拶)
はてさて。優が居ない時の三人は、いつも通りですね。翼が中心に居て、綾奈がそれに巻き込まれつつ、薫が静観しつつも傍に居る。これが彼女達の立ち位置のような気がします。
お手紙、コメント、感想大歓迎です!文法的におかしな部分、読み難かった部分があればご指摘、もし宜しければお願いします。
それでは〜。如月コウでした(礼)
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