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第32話:少女交響曲

 そもそも、神凪優という存在はとても不思議な存在だった。

 その美しい容姿には、同性である女性ですら溜め息をこぼす。

 しかし彼女は、それはまるで自分には関係無いかのように振る舞い、自己の容姿からくる優越感を満たすための付き合い方などせず、平等に――否。平等以上に他人と接する。

 ただ、いつも一瞬に垣間見える憂いの表情がどこか神秘的だった。

 誰もが羨むその美貌とその性格を、彼女自身は嫌悪している。このような自分は偽りだと。彼女自身が無意識に周りにそれを教えていた。

 だからこそ、彼女の周りには人は絶えない。偽りの自分のせいで、誰も傷つけたりしないようにと。そのために他人に優しく接している事を、皆理解しているから。

 だからこそ、周りの人間も彼女を傷つける事がないようにと願うのだ。神秘的な存在でありながらも妙に人間くさい――神凪優という存在を。

 だが、彼女にはある一定の距離以上からは歩み寄ってはいけないような、そんな魅力の持ち主である事は間違いない。

 しかし、そんな私達の杞憂を吹き飛ばしてくれたのもまた彼女だった。

 今回はそのきっかけを与えてくれた時の――私たちが、彼女を友と言うには、まだ少し距離がただのクラスメイトという存在であった時のお話だ。




「……………」

 桜も散り終えて、木々達が緑の蕾をその身に宿し始めた、そんなある日の午前8時少し前。

 少々登校時間にしては早いためか。道ゆく生徒の数がまばらな、峯苫(ほうせん)高校の正面玄関に位置する下駄箱の前。

 普段はギリギリに登校するくせに、酔狂にも珍しく早起きして一人で登校してきた事が、俺の人生になんらかの変化をもたらしたのかどうか。

 いつも通り、下履きから上履きへと履き替えようと下駄箱の扉を開けた時だった。

 ふと、上履きの上に置かれた何通かの手紙の存在に気づき、直感的に嫌な予感がした俺は無言でその扉を閉め直した。

「………まさか」

 意を決して再び下駄箱を開け、一通りの手紙を確認する。

『神凪優様へ』と書かれた手紙。そのすべての裏側には、各々のクラスと男の名前が書かれていた。

「マジかよ……」

 思わずその場で項垂れる。まだ手紙の中身こそ確認していないが、十中八九間違いないだろう。

「男の俺にラブレターって…それは拙いだろう…」

 やはり、いくら今は女として日々を過ごしているとは言え、気持ちまで完璧な女になり、ましてや恋愛など…。はっきり言って不可能な話だ。

「なに?優、どうかしたの?」

「ひゃっ!?」

 突然の背後からの呼び掛けに、素っ頓狂な声を出してしまう。

 そのびっくりした拍子で思わず手に持っていた手紙を再び下駄箱へと詰め込んだものの、一枚だけ手紙を地面に落としてしまった。

「悟技……」

「翼でいいって。なんか落としたよ…っと」

 朝練の最後の走り込みを終えたのだろう。空手の道着に身を包みながら、その特徴なサイドポニーを揺らしつつ、悟技翼は落ちた手紙を拾い上がる。

「あ〜と…それじゃ翼。それ、返してくれないかな…?」

 愛想笑いで伺いを立てる俺を無視し、手紙の表を確認した後、素早くその手紙を裏返し、何か新しい玩具を手に入れたような、そんな子供のように意地が悪い微笑みを浮かべる。

「優さ〜…これってどうみてもラブレターだよねぇ?」

「ど、どうだろうね?案外、果たし状かも知れないよ?」

「じゃあ私が返事しにいっていい?」

「…勘弁してあげて」

 恋文、果たし状に関わらず、翼が行けば相手は大きな傷を負う事になってしまう。あるのは、その傷が精神的か肉体的かの違いだ。

「そっかそっか。優はもてるからね。多感なお年頃の時にこういった手紙は心臓に悪いって事か」

(お前も確か同じ年齢のはずなんだがな)

 心の中でツッコむ。口は災いの元。こいつの前で迂闊な事を言えば、その瞬間その研ぎ澄まされた足で意識ごと刈り取られてしまう。

(それに俺がもてるだって?どこをどう見てそう思っているかは知らないが、残念ながらラブレターなんざもらったこともねえよ)

「そういうの、初めてもらったから…。少し驚いただけ」

「は?………あはは。そっか」

 俺の言葉に翼は少しの間ぽかんとして、すぐさま快活に笑う。

 そして、妙に慣れた手つきでその手紙を懐へと仕舞い込むと、俺の下駄箱の中に残った手紙までも回収していく。

「ちょ…翼っ!?」

 そんな翼の突然の行動に戸惑いながらも声を出す。

「んじゃ、また教室で会いましょう〜」

 しかし俺の制止もなんのその。翼はまるで何事も無かったかのように、部室へと走り去っていった。


「お、俺は手紙に対して何も返事しなくていいのか……?」


 その後姿を見送り、ぽつねんとその場に立ち尽くす俺の呟きは、突如吹いた春風によって掻き消されたのだった…。



予告通り、仲良し三人組と優のお話です。

まだ桜の季節の頃のお話ですね。15話から16話の間ぐらいの出来事で、四話構成です。

実は仲良くなった過程をその時に描写しなかったのは、まだ三人の魅力は出せてないと思ったためです。

そして今なら、その三人らしさを感じてもらえるように思えるので、ここで発表ということになりました。

心なしか優も、女性らしくなく、翼も今とは少しだけ距離を置いている付き合い方をしているように感じてもらえたなら嬉しいですが…(苦笑)

お手紙、コメント、感想大歓迎です!文法的におかしな部分、読み難かった部分があればご指摘、もし宜しければお願いします。

それでは〜。如月コウでした(礼)

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