第31話 夏空に想う少女
藍璃の意外な一面を垣間見れた俺は、その藍璃と共に部屋へ戻る。
お茶とお菓子をもって扉を開けた先。そこに映し出された光景は―
「あの〜…翼さん。そろそろ降ろして欲しいんですが…」
なぜか窓の外にあるベランダから、逆さ吊りで吊るされている吉良と。
「降ろす?まあ、優も帰って来た事だし、そろそろ許してあげてもいいか…」
その言葉に、面倒くさそうに答える翼。
そしてそれを大慌てで止めている綾奈に、『さすがに首からは危険ですね』と冷静に言いつつ苦笑いの翔。
それと―
「少々時間がかかっていたようですが何か問題でも生じましたか」
その背後で巻き起こっている出来事を素晴らしく我関せずでスルーして、平然と俺達へと歩み寄り、語りかけてくる薫。
「…薫。説明をお願い」
げんなりした表情で、状況説明の達人である薫に質問する。すると、薫は『わかりました』と頷き、事の顛末を話し始めた。
「貴女達二人が退室後も暫くその事実に気づかずに雑談に興じていましたがふと吉良耕介が部屋の主である優が不在である事に気づきある犯罪行為を行いました」
「犯罪行為?」
その仰々しい物言いに、俺と、その後ろに控えている藍璃が息を呑む。
「え、マジで許してくれるの?いや〜ロープで吊るされた時は一瞬どうなるかと思った……って、どうしてロープを切ってるんですか?それって降ろすんじゃなくて落とすですよねっ!?」
「うっさいな〜。あともうちょっとだから我慢しなさいよ」
「翼ちゃん落ち着いて〜!?」
「いやいやっ!?もうちょっと我慢してて切られたら、待ってるのは自然落下だけですからっ!?」
「わかったわかった。やめるって」
「しかしまことに遺憾ながら、ここまで切ってしまっていると吉良の自己の重みだけでも切れそうですね…」
「うおぃーーー!?」
その先には、玄関扉に挟まれてた時も思ったのだが、意外に余裕があるっぽい吉良と、半泣きの綾奈の制止には耳を傾けず、翼が黙々と切断作業を行い、翔が素の口調でトドメをさしている姿。
そして―
「はい。部屋の主である優の許可を得ないままでの盗難目的による下着の捜索。これは窃盗罪にあたります」
やっぱり我関せずに、淡々と事の顛末を話す薫。
(いや、罪名は別にどうでもいいのだが…)
俺は深い溜め息を吐く。
「ま、まあ…別にまだ盗んでないんでしょ?だったらそれぐらいで許してあげようよ」
今まさに地獄への片道切符を手にしている、吉良を許すように翼を説得すべき近づいて、肩を叩いて説得する。
すると吉良は何を思ったか、懐に手を突っ込み一枚の布切れを申し訳無さそうに差し出す。
「あ、でも一枚もらちゃ――」
「地獄へ堕ちろ」
素早く地獄への片道切符を奪い取ると、吉良の言葉を遮り、俺は即座に翼の手にあるカッターナイフを手にし、躊躇うことなくそのロープを切った。
日が暮れ始め、あたりはすでに夕暮れの橙色で染め上げられ、騒がしかった今日一日が終わろうとしている。
「お邪魔しました」
そう言って、家路へと着こうとする彼女等に一言二言挨拶を交わし、その遠ざかる後姿を三人で見送る。
「こういう時ってせめて駅まで送っていたりするのが普通じゃないの?お兄ちゃん」
「……と、確かにそうですね。それではいってきます」
「うん。いってらっしゃい」
もうすっかり口調を隠す気がないらしい翔は、そう言って彼女達の後を追う。
そして、そんな翔の背中を優しい眼差しで見送る藍璃。
「ホント優さんが来てから変わったな、お兄ちゃん……」
その呟きには、藍璃の心中にある様々な感情が入り混じっているように感じられて、今の俺には返す言葉が見当たらず口を摘むんでしまう。
「でもやっぱりその気持ちも分かるかなぁ……」
「え?」
「優さんの前だと、なぜか自然体で居られちゃうんですもん」
その短めのポニーテールの尻尾を左右に揺らしながら、満面の笑みで言う。夕日が染め上げた世界の中で、その笑顔は不思議な魅力に彩られていた。
「さ、お父さんもお母さんももうすぐ帰ってくるでしょうし、今の内に晩御飯の準備でも始めるとしましょうか」
再び悪戯っぽくクスリと笑って、扉を開けて家の中へと消える藍璃。
「自然体、か……」
そう、橙色の世界の中で一人呟き。俺は空を仰いだ。
その一方。神凪家の庭では。
「だ、誰か…救急車……さすがにこれは…死ぬかも知れない…」
吹き荒む冷えてきた風に吹かれながら吉良は、橙色――ではなく白い世界へとその意識を手渡そうとしていた。
第二部では多少のシリアスさも…(挨拶)
吉良はいつまでも馬鹿なままで居て欲しいものです。
藍璃シナリオは如何だったでしょうか?少しでも楽しんで頂けたなら光栄です。
次はどうしましょうか……。次は仲良し三人組と優のお話かも知れません(未定)
お手紙、コメント、感想大歓迎です!文法的におかしな部分、読み難かった部分があればご指摘、もし宜しければお願いします。
それでは〜。如月コウでした(礼)
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