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第30話 元兄の少女と妹の本心

 あの後、今にもトドメをさしそうな藍璃を何とか宥め、俺は吉良を救出する事に成功した。

 そして、晴れて男性陣も俺の部屋へと招き入れて、こうして皆で雑談に花を咲かせているのだが……。

 どういう訳か。藍璃だけは先程とは違って、その輪を複雑そうに眺めている。

 その瞳の先にいる、かつての俺には考えられないような愛想笑いを振り撒きながら、吉良と、そして仲良し三人組と語らう現神凪翔。

 翔もその瞳に気がついた一人で、俺にこう問いかけてきた―


『神凪藍璃さんはなぜ、神凪翔、及びにその友人全般に手厳しいのでしょう?』


 その言葉を聞いた俺は、少なからずそれに気がついた翔に、多少の驚きと賞賛を覚えた事を、今でも鮮明に覚えている。

 その言葉には、翔が兄として藍璃をちゃんと見てくれているような気がしたからだ。勿論、『手厳しい』という点で言えば、普段の暮らし中で充分理解出来る内容ではある。

 しかし、俺が驚いたのはそこではない。『友人全般』という言葉。

 吉良に関しては、その態度があまりにも露骨なので、その原因となるベッド進入事件は翔に伝えてあったのでそれには該当しないだろうが。

 普段の暮らしの中で、藍璃がその表情を見せる事はあまりにも少なく、本来他人である筈の現神凪翔がその事に気づき、かつては神凪翔であった俺に聞いてきたという事実に驚いたのだ。


「お茶とお菓子少なくなったから持ってきますね」


 そう言って藍璃が席を立つ。

「あ、私も付き合うよ」

 その表情の陰りが気になった俺は、大丈夫だと慌てる藍璃を無理やり押し切ると立ち上がり、その後ろにつく。

 そして、部屋の扉を閉めようとした時だった。

「優さん」

 ふと、普段二人でいる時にしか使わない“さん”付けで、翔が俺の名を呼ぶ。

 俺は閉じかけた隙間からその表情を伺うとその唇が微かに動き―

『しっかり頑張って下さい。“お兄ちゃん”』

 声には出さず、皮肉交じりに。だが、温かな笑顔で俺を見送った。



 時々聞こえてくる二階の部屋の、騒がしい声がどこか遠くに感じる。

 俺は一階のリビングで、藍璃と二人でお茶とお菓子の準備をする。

 すると藍璃は何を思ったか、突然。

「さっきはごめんなさい」

 と、俺に頭を下げてきた。

「別にいいよ。吉良君も悪ふざけが過ぎた所もあったし…」

 先程の、玄関扉の隙間に挟まって、身動きがとれなくなった吉良の姿を思い返し、俺は苦笑いで答える。

「その…あの人どうしても苦手で…」

 藍璃もその姿を思い返しているのか。まるで俺につられるような形で、苦笑いを浮かべた。

「昔、何かあったの?なんだか翔の男友達に辛くあたっているようだけど」

「…………たんです」

 藍璃がどんよりした表情で、何かを呟く。

「ん?」

 上手く聞き取れない言葉がなんなのか分かっていながら、知らないフリをするしか出来ない事に歯痒さを感じながら、出来るだけ優しい声色でもう一度声をかける。

「昔、ベッドに忍び込まれたんです……」

 案の定の原因。だがしかし、それは多感なお年頃である藍璃にはショックな出来事だったのだろう。

「勿論あの人以外は嫌いじゃないですけど…。少し昔の嫌な事思い出しちゃって……」

「え?」

 予想外に言葉を続いた藍璃が、昔を懐かしむかのような声色で、苦笑いを浮かべる。

 そして―

「昔は、ああやって私が知らないお兄ちゃんの話を聞くのが、とっても嫌いだったんですよ」

 藍璃は、その当時を思い返して照れくさそうに笑った。

「小さい頃、お兄ちゃんがまだ好きだった時の私には、まるで横から突然現れた他人にお兄ちゃんが取られた気がして、結構ショックだったかな…」

『今は全然そんな事ないですけど』とつけたし、お茶をカップに注ぎながら、藍璃が言う。

 その昔とは違う大人びた姿に、なぜか小さい頃甘えん坊で寂しがり屋な藍璃の姿がかぶった。

「勿論今はもう、そんな子供じみた感情なんて全然これっぽっちも無いですけど。傍にいて欲しいとかよりも、寧ろ寄るな触るなの気持ちの方が大きいですから。癖のようなものですよ」

 それは本心なのだろう。……出来る事ならば、後半部分の毒舌はさておきたい所だが。

 だが、今は子供の頃のように仲良くする事も、謝罪も望んでいないのは確かだろう。家族なんて……ましてや年頃の兄妹なんて、そういうものだと思う。

 藍璃だって、この話は本来翔には一生黙っているはずの本心だったはずだ。俺が、嫌っていると勘違いをしている優だからこそ、教えてくれた藍璃の秘密。

 だから俺は。苦笑いを浮かべる藍璃の頭を、ただ黙って撫でた。翔と優。言い方は複雑だが、二人の思いを込めて。

「………あ」

 藍璃は、俺の突然の行動に一瞬目を丸くして驚いた表情を見せたが、すぐに瞳を閉じて、頭に触れる手のひらの感触に身を委ねている。

 そして再び、大人しくなった藍璃が独白めいた言葉を口にして。

「……不思議です」

「ん?」

「昔もこうやってお兄ちゃんに頭を撫でられた気がします」

 確かに、昔こんな風に頭を撫でた記憶がある。それがなんだったかは思い出せないが、きっと今と変わらない関係であったはずだ。

「……翔の事、今は嫌い?」

 俺は微笑み、藍璃に静かに問いかけた。

 すると藍璃は、一瞬驚いてから、困ったような表情で舌を少し出しながら、藍璃は照れ臭そうに笑い――『昔の癖はそう簡単に抜けないものですから』と、答えたのだった。


祝!30話!間のお話も混ぜると33話ですが(笑)

このように続けられたのは、読者の皆様の存在が大きいでしょう。皆様に多謝です!

今回の『我が家へようこそ編』ですが、藍璃の本心が描かれました。藍璃の兄嫌いの理由は『嫌うという癖』な訳ですが…。一見すごく理不尽で意味不明かも知れませんが、言葉にすればこうなるんじゃないのかな?と思い、文章にしてみました。

どうだったでしょうか。少しは藍璃が可愛く思えましたでしょうか?

お手紙、コメント、感想大歓迎です!文法的におかしな部分、読み難かった部分があればご指摘、もし宜しければお願いします。

それでは〜。如月コウでした(礼)

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