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第28話 藍璃の女心と夏の空

「さあ、皆俺について来い!」

 威勢のいい掛け声と共に、俺は翼が提案した『自宅に三人を招待する』という当初の目的通り、皆を引き連れて自宅へと向っていた。

 少々予定外の―


「案内はこの吉良耕介にお任せあれ!」


 なぜここにいるか分からない、目の前を歩く吉良の意味無く元気な掛け声と共に。

「どうしてあの変態がいるんだよ」

「理解不能です」

「吉良君はいつも元気ですね」

 そしてその心中を、三者三様の言葉で言い表す仲良し三人組。

「優〜、誰かに今日のこと話した〜?」

 吉良がいるのがよほど気に入らないのか。不機嫌そうに翼が言う。

「話した記憶はないんだけど……」

 聞くな。それは俺が一番聞きたい。

「……優さん」

「分かってる」

 そんな俺に翔は、静かに傍へと歩み寄ると、神妙な面持ちで耳打ちする。

 前をいく吉良本人は些細な問題としてしか捉えていないであろう過去の出来事により、奴を今、家に招待するのは危険なのだ。

 その出来事というのが――なんというか。

 吉良が俺の家に遊びに来て、何度目かのある日のことだった。

 その時は他愛も無い馬鹿話がいつも以上に弾んでしまい、気がついた時には、日が落ちてから随分と経っていた。

 そこで、あまり深く考えずに俺は『泊まれば?』と吉良に進言する。

 すると同じくあまり深く考えずに『そうだな、世話になるとしますか〜』と、吉良は笑って答えた。

 その夜、事件が起こったのだ。

 トイレに起きた吉良が、寝惚けたまま俺の部屋の隣に位置する部屋、すうすうと寝息を立てて眠る藍璃のベッドに潜り込み、朝を迎えたのだ。

 よくよく思い返せば、藍璃のあのマウントポジションからの攻撃を見たのはあれが始めてである。

 そしてそれから吉良を連れて来る度に、俺は藍璃の逆鱗に触れ、後からその怒りを宥めるのにとても苦労するのだ。

 しかしながら、徒歩10分程度の所にある自宅へと到着する間に、この事態を打開できる妙案など思いつくわけも無く、ついには玄関へと到着してしまう。

「優ちゃ〜ん?」

 玄関の扉に手をかけ静止している俺に、翔の働きにより一番後ろにいる吉良が声をあげる。

(ええぃ!もうどうにでもなりやがれっ!)

 その、あまりにもこちらの気苦労を無視した発言に意を決し、玄関の扉を開け放つ。

 そしてその先には―


「いらっしゃいませ!」


 満面の笑顔で、客人を出迎える妹の藍璃の姿。

「お久しぶりです!ようこそいらっしゃいました。どうぞどうぞ、遠慮せず上がって下さい」

 わざわざ下履きに履き替えて、玄関扉を押さえつつ、笑顔を振りまいている。これほどまでに上機嫌かつ愛想のいい藍璃は珍しい。

 どうやら俺と翔の心配は、ひとまず杞憂に終わりそうだ。そう思った矢先だった。

「あ、何人ですか?後から人数分のお茶とお菓子でもお持ちしま――」

「6人だよ。藍璃ちゃん」

 吉良の声に、一瞬顔を引き攣らせ、藍璃が笑顔のまま凍りつく。

(やっぱり駄目だったか)

 その、知る人が見れば露骨過ぎるリアクションに、俺と、たぶん後ろに控えていた翔も、事後の対応について頭を痛めながら溜め息をつく。

「さ、どうぞどうぞ。お上がりください」

 しかしそんな俺と翔の予想に反し、藍璃は一瞬その動きを止めたものの、何事も無かったかのように皆を一人一人丁寧に迎え入れる。

「お邪魔しま〜す。良くできた妹さんだな〜」

「ありがとうございます。ゆっくりしていって下さいね?」

「ご、ごめんなさい。大人数で押しかけちゃって」

「いえいえ。うちは全然気にしませんから。ゆっくりしていって下さい」

「お邪魔します」

「はい。いらっしゃいませ」

 先頭に立っていた俺が足を踏み入れると、藍璃は並んでいた順番通り、翼、綾奈、薫と挨拶を交わしつつ迎え入れる。

 そして吉良へとその順番が回ってきた。

「藍璃ちゃん大きくなっ――」

 バタン…ガチャン。

「………」

 その場にいた全員が、一瞬何が起こったのか理解できなかった。

 先程まで開いていたはずの玄関扉は、他でもない藍璃の手によって閉められている。

 ……丁重にチェーンロックが施され。

「もしも〜し?翔の大親友の吉良耕介お兄ちゃんがまだ入ってないですよ〜」

 何が起こったのか理解出来なかったのはあちらも同じようで、吉良がドンドンと玄関の扉を叩く。

 すると藍璃はチェーンロックが施されたままのドアを少し開けると―


「秘境へ帰れ」


 冷たく言い放ち、再び扉を閉め直した。

「あ、あの……藍璃……さん?」

「さあ、四人ともぼ〜としてないで上がって下さい!」

 先程、場を一瞬にして凍りつかせるような発言をした人間とはまるで感じさせない満面の笑みで、さり気なく人数を減らしつつ、二階奥にある優の自室へと戸惑う皆を案内する。

「お茶とお菓子は私が準備しますから。優さんは、皆さんと雑談でもしておいて下さい」

 階段のすぐ傍から、最後まで渋った俺を見送る藍璃。

 その時。

『ピンポーン』

 インターホンの音が家内に響き渡る。

 藍璃は、二階の階段の傍にあるインターホン用の受話器を笑顔のまま手に取ると―

『もしも〜し。吉良耕―』

「黙れ」

 吉良が名前を言い終える前に笑顔を崩さないまま、神凪家女性陣の伝家の宝刀とも言える言葉を告げて、情け容赦なく受話器を置く。

「ささ、遠慮せずに」

 言葉と表情のギャップが生み出す恐ろしさは、薫で十分に理解していたつもりだったが…。どうやらまだまだ理解不足だったらしい。

 そして俺が、藍璃の恐ろしさを痛感しているこの頃。



「……さて。私は今日一日どこで時間を潰しましょうか」



 吉良と一緒にいない者として自宅から締め出された神凪翔は、夏らしい良く晴れた空を見上げ、諦めと共に呟いたのだった……。

パソが一瞬壊れました(挨拶)

いきなり画面が暗転して動かなくなった時は、この世の終わりかと思いましたよ。今、買う余裕なんてないですからね…。

はてさて、今回ですが。藍璃が中心となったお話を書くつもりです。学校生活の描写になると、中学生の藍璃の描写はほぼ皆無ですからね…。今更ながら設定が甘かったな、と思ったりします(苦笑)

お手紙、コメント、感想大歓迎です!文法的におかしな部分、読み難かった部分があればご指摘、もし宜しければお願いします。

それでは〜。如月コウでした(礼)

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