12
朝予約投稿するのですが11話は間違えて6時にあげてしまいました。
こちらのミスなので18時もあげます。
「甘いのが少ないにゃ」
と言いつつも、マリは様々な串料理をペロリと平らげていた。
パティーはそれには同意、とばかりに大きく頷いている。
紹介された宿に着くと、中から怒号が聞こえていた。
覗くと、年配のしっかりした体格の男性が、少しは鍛えられている男たちにボコボコにされていた。
妻と娘らしい人は「やめてー!」と叫び声を上げているが、客の中には冒険者らしい奴も居るが見て見ぬふりだ。
俺は二人の襟首を掴み、問答無用で石畳へ引き倒した。
ドタン! と鈍い音が響き、残りの二人が目を剥いてこちらを向く。
その二人を軽く睨みつけて威嚇すると、俺は足元にしゃがみ込み、血を流して倒れているオヤジに淡々と話しかけた。
「クラエス商会の紹介で来たエンマだ、部屋は空いているか?」
「な、何なんだ急に……!? てめえ、何しやがる!」
背中を強打された二人が痛みに顔を歪めながら這い起き、残る二人も腰の短剣に手をかけて怒声を張り上げた。
「おいコラァ! 人んちの取り立てを邪魔しといて、呑気に部屋の心配してんじゃねえぞ! 俺たちを誰だと思ってやが――」
「うるさい!」
俺がわずかに首だけを向け、殺気を込めて低く呟いた。
その瞬間、店内の空気が凍りつく。
「俺は紹介された宿の受付をしているだけだが文句あるのか?」
静かに立ち上がると、男たちは本能的な恐怖に押され、引きずられるように後ずさった。
「ひ、ひぃっー! お、覚えてろよ! シャーク会に逆らって、タダで済むと思うなよ……ッ!」
テンプレのような捨て台詞を残し、男たちは転がるように宿から逃げようとしたが、逃がすはずはない。
逃がして仕返しに来られたら安眠の邪魔だ。
瞬時に入り口を塞ぎ大の字で妨害する。
「取り立てとか言っていたが借用書は、見せたのか?」
「テメェーに関係無いだろうが!」
胸倉を掴まれたので、その手を握力で握り潰す。悲鳴を叫ぶが無視をする。
「オヤジさんは見せてもらったのか?」
「⋯⋯イヤ、息子に貸した金を返せの一点張りで見せてもらってない。」
「じゃあ、ただの恐喝じゃねえか。」
一応、持っているかもしれないから身体検査をしようとしたら暴れるので、優しく撫でたらおとなしくなった。
周囲はドン引きしているが気にしない。
調べたら借用書は持ってなかった。
「そこの冒険者、ちょっと衛兵のエレン隊長呼んできてくれね?」
「なんで俺が!?」
「オヤジを助けないで傍観していたんだ、それくらいはしろ!お前も撫でられたいのか?」
冒険者は敬礼をして慌てて宿を飛び出した。
店内には再び気まずい沈黙が落ちた。
床には、手首をへし折られて脂汗を流す男と、「優しく撫でられて」白目を剥いて転がっている三人のチンピラ。
店の隅で固まっていた他の客たちは、完全に息を殺して壁と同化している。
「オヤジさん、縛るもんあるか? 丈夫なロープでもあればいいんだが」
「え、あ、ああ! 裏の物置に荷造り用の頑丈な麻縄がある! おい、持ってきてくれ!」
オヤジさんの呼びかけに、奥で震えていた奥さんが慌てて太い麻縄を抱えて持ってきた。
受け取った俺は、手慣れた手つきでチンピラ四人を背中合わせにし、手首と足首をまとめてギチギチに縛り上げる。ついでに暴れられないよう、まとめて店の隅の柱へ括り付けた。
「ふぅ……。隊長が来るまでこれで良いだろう。」
「エンマお兄ちゃん、お腹空いたにゃ」
マリが空になった串をテーブルに置き、服の裾を引っぱってきた。
入り口の外からは、パティーが「いつまで待たせる気だ」と言わんばかりに鼻息をひとつ鳴らし、石畳を蹄でトントンと叩く音が響く。
「悪いな、待たせた。――で、オヤジさん」
俺は床にへたり込んだままの宿の主人に向き直り、懐からクラエス商会の親書を取り出して差し出した。
「改めて言うが、クラエス商会長の紹介で来たエンマだ。馬一頭と、あと俺とこの猫耳の娘の部屋を取りたいんだが……空きはあるか?」
「あ、あ、ああ……っ」
オヤジさんは腫れた目で紹介状の封蝋を見つめ、それから俺の顔と、隅で転がっているシャーク会の連中を交互に見比べた。
ようやく状況が呑み込めたのか、震える手でカウンターに縋り付きながら頭を下げる。
「た、助かった……!礼を言う本当にありがとう!
部屋なら、部屋なら一番いい特等室が空いてる! お連れの馬も裏の専用厩舎に入れさせてくれ! 金なんざいらねえ、アンタは俺たち家族の命の恩人だ……!」
娘さんも駆け寄って父親を支えながら、涙を流して何度も腰を折って礼を言ってきた。
「いや、宿泊代はちゃんと払う。金ならたんまりあるからな(笑)
……それより奥さん、オヤジさんの顔を冷やす水と綺麗な布を持ってきてやってくれ。あと、俺たちにも何か腹に溜まる温かいもんを頼めるか? こいつが腹を空かせててな。」
「は、はいっ! すぐにご用意します!」
奥さんが慌ただしく厨房へ走り、娘さんが駆け寄って父親の手当てを始める。
それから十分も経たないうちに、表からガチャガチャと甲冑の擦れ合うけたたましい足音が響いてきた。
「おい!エンマ殿が呼んでいるというのは本当か――ッ!?」
大門の警備隊長エレンが、息を切らしながら数名の衛兵を引き連れて宿の扉を蹴破らんばかりの勢いで飛び込んできた。その後ろには、先ほど走らされた冒険者が魂の抜けた顔でついてきている。
血相を変えて突入してきたエレンだったが、店内の光景――穏やかに娘の手当てを受ける親父と、柱の影でミノムシのように転がされているチンピラ四人、そしてテーブルで呑気に茶を啜っている俺の姿を見て、ピタリと動きを止めた。
「……エレン隊長、お疲れさん。早い到着で助かったよ。」
俺が軽く手を挙げると、エレンは引きつった笑みを浮かべ、兜の鍔を押し上げながら深々とため息を吐いた。
「……街道の盗賊団を討伐して街に入った足で、今度は街のゴロツキ退治ですか、エンマ殿。貴方という人は、本当に休むということを知らないのか?」
「この程度働いた内にはいらないよ。これから部屋で休ませてもらうさ。」
「働いた内に入らない、ですか……」
エレンは引きつった顔でミノムシ状態の四人を見下ろし、その中の一人の顔を検分して険しい目つきになった。
「こいつらは……歓楽街を根城にしている『シャーク会』の構成員だな。最近、悪質な取り立てや恐喝で苦情が頻発していた連中だ。まさかこんなところで暴れていたとは」
「息子の借金だとか喚いてたが、借用書すら持ってなかったぜ。ただの言いがかりの恐喝だ。オヤジさんも怪我させられてるし、きっちりしょっぴいてくれ」
「勿論です。現場を押さえていただいた上、身柄まで確保していただき助かりました。……おい、こいつらを引っ立てろ! 詰め所の地下牢へぶち込め!」
「「はっ!」」
衛兵たちが手際よく縄の端を掴み、うめき声を上げるチンピラたちを担ぎ出していく。
エレンは改めてエンマに向き直ると、姿勢を正して小さく頭を下げた。
「民間人への不当な暴力を見過ごさず、速やかに制圧してくれたこと、警備隊長として感謝します。……しかしエンマ殿、この『シャーク会』、背後にはドルフでも指折りの大商会が絡んでいるという噂があります。逆恨みで厄介な真似をされなければ良いのですが……」
「その時はまた撫でてやるだけさ。」
エンマがさらりと言ってのけると、エレンは「……敵に回さなくて本当に良かった」と喉の奥で呟き、苦笑いを浮かべた。
「ともかく、これ以上あなたの休息を邪魔する野暮はしません。何かあれば詰所に声をかけてください。夜警の巡回もこの近辺を手厚くしておきます」
「わざわざ出張ってくれて助かったよ、エレン隊長」
衛兵たちを引き連れてエレンが去ると、宿の中はようやく本来の静けさを取り戻した。
そこへ厨房の扉が開き、湯気とともに香ばしい匂いが漂ってくる。
「お、お待たせいたしました! あり合わせのものですみませんが、どうぞ召し上がってください!」
奥さんが盆に載せて運んできたのは、大麦の黒パンと、野菜と干し肉がごろごろ入った熱々のシチューだった。
「お肉の匂いがするにゃ!」
マリの目がランタンのように輝き、ぴんと立った耳が嬉しそうに小刻みに揺れる。
「よし、食うか。……オヤジさん、馬の方も頼むな。あいつ結構食うから、干し草は大盛りでやってくれ」
「ああ、任せてくれ! 一番上等の干し草をたらふく食わせておくよ!」
手当てを終えたオヤジさんが、破顔して力強く頷いた。
ひとまず宿とパティーの寝床は確保し、厄介ごとの種も衛兵に丸投げした。
温かいスープを胃袋に流し込みながら、エンマの頭の中はすでに、早朝に乗り込む市場の事を考えていた。
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