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夜桜

『将生、おかえりなさい。』

『ただいま。花。』


駅まで迎えに行った。

すこし疲れていそうだったが、表情は明るい。


『‥あの』

『合格したよ』


ケロッと発表された。


『え!すごい!おめでとう!!』

『うん。試験で仲良くなった人たちと連絡先も交換したんだ。まだ飲みに行こうって約束もできたし、良かったよ。』

『え!そうなんだ。みんな合格できたの?』

『‥いや、合格したのは俺のグループでは俺合わせて2人だけだよ。』

『そうなんだ‥それなのに、みんな仲良くなれたの?すごいね。』

『良い人ばかりだったよ。誰が合格してもおかしくなかった。』

『そうなんだ‥』


将生は誇らしくもあり、どこか寂しそうな表情を浮かべていた。


『‥てことは、宇宙飛行士なれるの?』

『うーん‥まだだね!』

『え?まだなの?』

『宇宙飛行士候補者になれたんだ。訓練生っていう認識でいいよ。』

『これから2年間基礎訓練をしなきゃいけなくなるんだ。日本だけじゃなくて、アメリカにも行かないといけない。』

『アメリカ‥』

『‥花がどうしたいか花が決めていいよ。』

『え?』

『花は今薬剤師として勤務してるし、薬剤師の仕事が好きだろ?続けたいだろうし、俺ひとりでヒューストンに行くよ。花がついてきてくれるなら嬉しいけど‥。』

『‥考えておくね。』

『うん。』

『まあ、でもとにかく!おめでたいね!お祝いしなくちゃー!』

『そうだな〜。みんなに会いたいよ。』

『んじゃまた真緒や北川くんに声かけに行くね!』

『そうだな、みんなでご飯食べに行こう。』


そっか‥そうだよね。アメリカ行くんだよね。

仕事か‥花が頭に浮かんだのは杏奈さんだった。花は、杏奈さんの抗がん剤のレジメンを担当医師と共に作成した抗がん剤治療にあたっている。今ここでアメリカに行けば引き継ぎをしないといけない。

けど‥ここだけは、最後まで見届けたい。

けど、ヒラマサに杏奈さんのことは花の口からは話せない。

杏奈さんには口止めされてるし、何より家族間の大切な問題だ。花には医療従事者としての守秘義務もある。


将生が試験に合格した。喜ばしいことだ。

存分に応援したい。

もう今みたいに会えなくなるのか‥。


花は夜空を見上げた。

将生は宇宙に行ける切符を得る権利を手に入れた。将生はこのままいけば、宇宙に行ける。

まるで別世界の話みたいだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


後日。

みんなで集まって食事会が開かれた。

真緒が指定してきたイタリアンレストランに行くことになった。

お洒落な雰囲気のレストランだった。

入り口で予約名を言うと、中に通された。

1番奥にあるお洒落な個室に通された。

そこには真緒と和紗と寺倉、北川、隼人が、座っていた。


『やっほー!久しぶり!花!ヒラマサ!』

『久しぶり!真緒!』

『仕事お疲れ!そして、ヒラマサおめでとう!』

『ありがとう。』

『お疲れさま。真緒も仕事忙しいでしょ?』

『今日は休みだったから大丈夫よ!』

『明日は、5時起きなんでしょ?』

『あー‥まあね?』

『ここに当直明けもいるわよ』

『‥寝ても良い?』

『ソファ席でよかったね。寝て良いよ。』


そういうと寺倉は、そのまま死んだように本当に眠ってしまった。お疲れ様だ‥。


『みんな忙しいのにわざわざ集まってくれてありがとう。』

『何言ってんの!本当に夢を叶えてすごい!』

『ありがとう。』

『んじゃ、ヒラマサのJAXA就職祝いを祝して、かんぱーい!!』

『『『カンパーイ!』』』


みんなでお祝いが始まった。


『ねえ、このお店って真緒が予約してくれたよね?なかなか予約が取れないって噂のイタリアンでしょ?よく予約取れたね。』

『え?あー‥まあね』

『真緒。カルパッチョとアヒージョを持ってきたよ。』


声がして振り向くと、お洒落な口髭を生やして、長い髪を一つにまとめた彫りが深い背の高いイケメンイタリア人男性が立っていた。

黒いシェフの服をきて、腰にエプロンを巻いている。

‥今、真緒って言ったよね?

彼の視線は美しい真緒のことを掴んで離さない。少し頬も赤くなっている。


『あ、ユーゴ。ありがとう。もらうね!あれそうだ!せっかくだしみんなで写真撮りたいの。撮ってくれない?』

『ああ、良いよ。』


イケメンは、そのまま真緒からスマホを受け取ると、みんなの写真を何枚か撮ってくれた。

そして、真緒にスマホを渡した。

真緒は写真を何枚か確認すると満足そうに笑い、イケメンの肩をなでた。


『ありがとうー!』

『ごゆっくり』


そういうとイケメンは料理を置いて去っていった。去り際にウインクしていった‥。


『‥真緒。今の人って?』

『‥ああ、まあ、彼氏?』

『そういうことか』

『えー!!いつから?』

『お洒落イタリア人?』

『イタリアと日本のハーフなの。お母さんがイタリア人でね。お父さんがホテルのチーフシェフをしてるの。彼もホテルで働いてたんだけど、一年前からここで独立してお店してるんだ。』

『えー!!すごすぎ!!』

『めちゃくちゃイケメンだもんね』

『年上?』

『6歳上なんだ。今年で32歳!』

『素敵だ‥羨ましい』

『和紗がそんなこと言うなんて珍しい』

『元ホテルシェフでパパもチーフシェフ。31歳で独立して自分の店持って人気店にするなんて‥超ハイスペじゃん。』

『そんなことないよ。あ!でも、そこに唾液垂らして寝てる帝王大医学部卒のエリート医者いるわよ。ハイスペじゃない。』


そういうと真緒は寺倉を指差した。


『‥この状況で勧められても皮肉にしか聞こえないな〜あはは。』

『それは言えてる。』

『‥』


北川くんと隼人が苦笑いしながら話してる。

和紗は無視だ。

寺倉くん‥世間的にはすごいエリートなのに、私たちのグループといるとキャラクターが際立っていじられキャラに降格してしまう。


『‥え、なに?俺の話してた?』


寺倉の声を無視して、和紗は真緒の左手の薬指につけてる指輪を指差した。


『てか、その指輪ってもしかして?』

『あ、実は婚約もしててね。今年中に籍入れようかなって。花には言ってたんだけど‥みんなには今日伝えようとしてたんだ。』

『私はこの店のオープン祝いに真緒と一緒に一度来たことがあったから‥』

『えええ!言ってよー!みずくさ!』

『ごめんねー!』

『てか、どこであんな素敵な人と出会うの?』


キラキラした目で聞く和紗にデレデレで言葉を詰まらせる真緒。

代わりに花が茶化すように話した。


『ユーゴさんの一目惚れなんだよね?

イタリアに留学した時に、同じくイタリアに留学してた日本人留学生のメンバーで会った時にユーゴさんに会ったって聞いたよ。』

『えええ!!やば!素敵!やばすぎ!!』

『まあまあ‥友達の紹介的なやつ?恥ずかしいよ!てか、もう今日はそんなことよりヒラマサのお祝いでしょー!』

『良いよ。俺の話は。みんなの近情報告とかの方が知りたいし。』


真緒の話がぶっ飛んでるユーゴさんとの出会いに寺倉はぶつぶつ何かを唱えている。


『俺が死ぬほど勉強して、死ぬほど解剖と病理頭に詰め込んで、臨床実習行って、大学と病院と研究室を往復して‥今も病院とカビ臭いアパートを往復して、日本の土地で毎日血反吐吐きながら必死に働いて生きてたのに‥同世代のやつがイタリアに行ってイケメンが美女達と合コンだと‥世の中不条理にも程がある‥。』

『あ、そうだ!北川くんも彼女いるんだよ!』

『え!そうなの?どんな子?』

『会社の先輩だよ。新人として入った時に教育担当だった先輩と付き合ってんの。けど、残念ながらもう別れましたー。』

『うわあ‥すごい‥ってもう別れたの?』

『うん。別れた。』

『振られたんでしょー?』

『内緒でーす。』

『クソッ‥なんて‥世界だ。俺にももっと出会いがあっても良いはずだ!!』

『落ち着け寺倉。』

『そうだよ。そのうちいい出会いがあるよ。』

『女医さんとか良い人いないの?』

『良いひとはみんな彼氏がいる‥なんなら結婚してる人もちらほら‥』

『‥まあまあ、落ち着けよ。寺倉いいやつだから絶対良い人見つかるって。』

『うん。そうだよ!』

『はぁー‥もう良いって。毎日残業まみれで、要領も悪いし、毎日怒られてばかりで良いことないんだよね。癒しも何もないし。医者やめようかな‥。』

『はぁ‥んじゃ30歳になるまで私に良い人が現れなかったら、私と結婚する?』

『ええ?‥‥‥え‥か、か、か和紗と?』

『うん。嫌なら別に良い。』

『え』

『え』

『え』


寺倉の方をみんながそっと見ると、寺倉の顔が目が点になっており、口をあんぐり開けている。目の下のクマがよりくっきりうつる。

なんともいえない情けない表情をしている。


『え‥和紗さんはそれでいいんですか?』

『良いから提案してるんだけど。私も全然良い人いないんだよね。半年前に会社の先輩と別れてからもう恋愛はこりごり。けど、結婚はしたいし。』

『え‥それって』

『嫌なら良いよ。てか、明日もしかしたらお互いに良い感じの人と出会えるかもしれないしね。』

『待て待て!三十歳まで待たないとダメ?』

『ん?どういう意味?』

『30歳まで待たずして、僕と付き合うのは‥なし?』

『‥あー。なるほど。良いよ。』

『え!?良いの!?!?』


寺倉がびっくりしぎて大きな声を出してその場で立ち上がった。


『え、本当に?俺と付き合ってくれるの?』

『うん、良いって言ってるじゃん』

『いつから付き合ってくれる?』

『今日からでも良いわよ』

『えっ‥』

 

すると、ヒラマサが寺倉の肩にポンッと手を置いた。


『良かったな。ようやく報われて。』

『‥!!!結婚しよ!和紗!!』

『しばらく付き合ってからね。』

『はい!もちろん!』


『えー‥こんなみんながいるとこで公開プロポーズしちゃうの?和紗ちゃんって意外と漢らしいというか、可愛いとこあるね?』

『良かったな!寺倉!おめでとう!』


北川くんが笑ってるのに対して、隼人は寺倉の肩を抱いて喜んでいる。


『ねえ‥和紗。』

『ん?』

『2人でいる時に言わなくて良かったの?』

『あんなに情けないとこ見せられたら。助けてあげない訳にはいかないでしょわ。ほんと馬鹿なんだから。』

『あはは‥』

『家も隣同士だもんね?おめでとう♪』

『一人暮らししてるアパートがね。』


そういって話してると、あっという間に時間が過ぎた。

真緒と花とヒラマサ以外はみんな帰ってしまった。

隼人は北川くんと帰り、和紗と寺倉くんは2人で帰ることになった。

寺倉くんが和紗をキラキラして目で見つめており、店に来た最初の死んだ屍のような瞳は消えており、生き生きと正気を取り戻していた。

みんなを送り出し、残りの片付けをしている。


『真緒。明日早いんでしょ?休まなくて大丈夫?』

『あ!うん。実はお店の上を居住スペースにして3ヶ月前から一緒に住んでるの。もう上に上がってお風呂入って寝るだけだし、気にしないで!花も明日仕事でしょ?もう帰っていいよ!』

『え!すごいなぁ。んじゃ将生、帰ろうか。』

『そうだな。』


そんな2人を見てニコニコする真緒。


『んじゃ、ご飯すごくおいしかったよ!ユーゴさんによろしくね!またね、真緒。』

『うん!伝えておくよ!また来て!』

『結婚式も呼んでね?』

『当たり前じゃん!スピーチしてよね!』

『もちろんだよー!』


そのままお店を出た。

ヒラマサと2人きりだ。

夜の道を2人で並んで歩く。


『美味しかったね』

『ああ。そうだな。』


‥なんだか元気ないな。楽しくなかった?


『将生、』

『花』


‥かぶってしまった。


『先どうぞ』

『いやいや、将生からどうぞ。』

『‥んじゃ、姉ちゃんが入院してること知ってたの?』


沈黙が走る。


『うん。知ってたよ。担当だからね。』

『‥そっか』

『‥私は将生の彼女の前に薬剤師として病院にいるから、個人情報は漏らせないから。』

『分かってる。そのことを怒ってるわけじゃない。』

『‥』

『ごめんな、言ってなくて。びっくりしただろ。』

『ううん、そんなの言わなくていいよ。家族のことだもの。ベラベラ喋る方が変だよ。』

『姉ちゃん‥宇宙飛行士になりたがってたんだ。』

『‥そうなんだ。』

『元々は、宇宙飛行士は姉ちゃんの夢だった。』

『‥そう、なの。』

『姉ちゃんの方が優秀だった。勉強もできて、ハキハキしてて明るくて人気者で、生徒会長してて、とにかくかっこよくて、憧れだったんだ。姉ちゃんみたいな人間が宇宙飛行士になるべきだろって思う。』

『将生‥』

『姉ちゃんな病気にならなかったら、きっとここに合格してたのは俺じゃなくて、姉ちゃんだったと思うんだ。』

『そうかな、私は将生だから受かったと思う。』

『え‥』

『私は杏奈さんがどんな人間か将生ほど詳しく知らない。けど、私は将生を側でずっと見ていて、あーこういうひとが宇宙飛行士になるんだって思ったよ。宇宙に行って欲しいって思う。今は私の夢でもあるよ。』

『花‥ありがとう』

『ただ、私は将生と一緒にアメリカにはいけない。』

『‥そっか。』

『私は、薬剤師として杏奈さんを1番近くで見届けて、支えたい。仕事が残ってる。

これをほったらかしにして、辞められないよ。』

『うん、分かってるよ。』

『‥ごめんなさい。』

『‥謝る必要なんかない。遠距離になるけど、俺はずっと花と一緒にいるよ。』


そういうと将生は花の手を握りしめた。


『アメリカと日本で離れてるけど、電話するしビデオ通話もする。手紙も書くよ。』

『大丈夫?忙しいんじゃないの?』

『このぐらいできる。』

『んじゃ日本で待ってる。』

『花も』

『ん?』

『花も浮気すんなよ?』

『な!しません!そっちこそ!金髪白人美女に誘惑されてやっぱり私とは付き合えないとか言うのやめてよね?』

『そんなこというわけないだろ』

『どうでしょうね〜?』


そういうと、ヒラマサは、ポケットから小さな箱を取り出した。


3月の夜。

美しくて桜が舞い散っている歩道沿いにて。


『花。必ず結婚しよう。』


将生は花にプロポーズした。

小さな箱に入っていたのは、婚約指輪だった。


『嬉しい‥。私も将生と結婚します。』


2人は婚約を誓い合った。

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